第103話:魔族来訪
グレイウッドの市場。
今日も人で溢れていた。
商人の声。
荷車の音。
焼き肉の匂い。
獣人たちもすっかり溶け込み、店を出したり、畑を手伝ったりしている。
人間と獣人が普通に話している光景は、王国では珍しい。
だがこの街では、もう当たり前だった。
そんな昼下がり。
市場の入り口で、突然人の流れが止まった。
ざわざわとざわめきが広がる。
「……おい」
「角……」
「嘘だろ」
そこに立っていたのは――
魔族だった。
黒いマント。
長い角。
赤い瞳。
人間とは明らかに違う存在。
市場の空気が一瞬で緊張する。
獣人たちも警戒した。
王国では、魔族は敵とされている。
普通なら――
戦いになる。
だが魔族は武器を抜かなかった。
静かに両手を上げる。
「戦う気はない」
低い声。
落ち着いた声だった。
村人たちは顔を見合わせる。
その時。
後ろから足音。
レオンだった。
パンを食べながら歩いてくる。
市場の空気を見て、首を傾げる。
「何?」
セラが小声で言う。
「魔族」
レオン
「へえ」
それだけだった。
周囲の人間が慌てる。
「おいレオン!」
「普通に言うな!」
魔族はレオンを見る。
しばらく観察するように見つめた。
そして言った。
「あなたが」
少し間。
「レオンか」
レオン
「そう」
魔族はゆっくり頭を下げた。
市場がざわめく。
魔族が人間に頭を下げるなど、普通はありえない。
魔族は言った。
「私は魔族領の使者だ」
静かに。
「聞きたいことがある」
レオン
「何」
魔族は周囲を見る。
人間。
獣人。
商人。
この街の奇妙な空気。
そして聞いた。
「ここは」
少し言葉を選ぶ。
「魔族も住めるのか?」
沈黙。
市場が静まり返る。
誰も答えない。
皆、レオンを見る。
レオンは少し考えた。
本当に少しだけ。
そして言った。
「別にいい」
一瞬、空気が止まった。
セラが叫ぶ。
「軽い!」
村人も叫ぶ。
「決めるの早すぎ!」
魔族の使者は少し驚いた顔をした。
「……いいのか?」
レオン
「問題ある?」
魔族
「人間と魔族は敵だ」
レオンは首を傾げた。
「ここでは違う」
それだけだった。
静かな答え。
だが。
魔族の使者は長く息を吐いた。
そして小さく笑う。
「……噂通りだ」
レオン
「噂?」
魔族は答える。
「辺境に」
少し楽しそうに言う。
「変な人間がいる」
市場に笑いが広がった。
魔族の使者は最後に聞く。
「共存できるか?」
レオンはパンを食べながら言った。
「働くなら」
それだけだった。
その日。
グレイウッドはまた一つ――
常識を壊した。




