第102話:亜人来訪
グレイウッドの街道。
朝の霧がまだ残る時間。
見張り台の上で、村人のトムが遠くを見ていた。
「……ん?」
目を細める。
街道の向こう。
何かが動いている。
人影。
いや――
集団だった。
荷車。
荷物。
子ども。
トムは首を傾げる。
「旅人にしては多いな」
やがて姿が近づく。
その時、トムは気づいた。
耳。
頭の上に、獣の耳がある。
さらに――
尾。
トムは目を見開いた。
「……獣人?」
すぐに鐘を鳴らす。
カン、カン、カン。
市場の人々が顔を上げる。
街の入口。
村人たちが集まっていた。
武器を持つ者もいる。
だが警戒というより、様子見だった。
そこへ到着したのは――
獣人族。
狼の耳を持つ男。
猫耳の少女。
大きな虎の尾を持つ女性。
全部で三十人ほど。
だが。
彼らの様子は普通ではなかった。
服はぼろぼろ。
荷物は少ない。
疲れきっている。
まるで――
逃げてきたようだった。
先頭にいた狼獣人の男が一歩前に出る。
周囲を見回す。
整った道。
水路。
市場。
そして――
普通に笑っている人間たち。
男は小さく息を吐いた。
そして言った。
「……本当にあるのか」
村人が聞く。
「何がだ?」
狼獣人は答える。
「噂」
小さく。
「亜人でも住める街」
村人たちは顔を見合わせる。
その時、後ろから声がした。
「住めるぞ」
レオンだった。
バケツを持ったまま歩いてくる。
狼獣人は驚いた顔をする。
「……お前が?」
レオン
「何」
狼獣人は少し迷う。
そして言った。
「人間は」
言葉を選ぶ。
「俺たちを嫌う」
レオンは首を傾げた。
「別に」
狼獣人
「え?」
レオンは周囲を見る。
村人。
商人。
子ども。
誰も特別な顔をしていない。
ただ普通に見ている。
レオンは言った。
「働くなら問題ない」
それだけだった。
沈黙。
獣人たちは顔を見合わせる。
信じられないという表情。
狼獣人が聞く。
「……本当に?」
レオン
「家なら作ればいい」
「畑も空いてる」
「水もある」
狼獣人の喉が動いた。
後ろで子どもが母親の手を握っている。
ずっと逃げ続けてきた。
迫害。
奴隷狩り。
差別。
そんな世界だった。
だが。
目の前の人間は。
当たり前のように言った。
「住めばいい」
狼獣人は空を見た。
そして小さく笑った。
「……そうか」
振り返る。
仲間たちに言う。
「ここだ」
ゆっくり。
「ここなら」
そして静かに言った。
「生きられる」
その日。
グレイウッドに
最初の亜人移民がやってきた。
街はまた一歩、
変わり始めていた。




