第100話:聖女の異変
王都の大神殿。
高い天井。
色鮮やかなステンドグラス。
静寂に満ちた祈りの空間。
だが、その静寂は今――
破られていた。
神殿の奥。
浄化の祭壇。
そこに聖女セレスティアが立っていた。
白い法衣。
銀色の髪。
祈りの杖。
王国の希望と呼ばれる存在。
彼女は杖を掲げる。
「――浄化」
光が広がる。
聖なる魔力。
神殿の床に広がる魔法陣が輝いた。
その先にいるのは――
魔物。
黒い瘴気をまとった獣型の魔物が
神殿騎士たちに囲まれていた。
普通なら。
聖女の浄化魔法は
魔物を弱体化させる。
瘴気を消し去り、
討伐を容易にする。
だが。
光が消えたあと。
魔物は――
まだ立っていた。
騎士が叫ぶ。
「まだ動くぞ!」
剣が振るわれる。
ようやく魔物は倒れた。
神殿の中に重い沈黙が落ちた。
セレスティアは杖を握ったまま動かない。
小さく呟く。
「……おかしい」
神官が近づく。
「聖女様」
セレスティアの顔は青ざめていた。
「浄化が」
言葉が震える。
「効いていません」
神官たちが顔を見合わせる。
一人が言う。
「最近……」
「同じ報告が増えています」
「浄化が効きにくい魔物」
「瘴気が消えない個体」
セレスティアは信じられない顔をする。
「今までこんなこと……」
なかった。
聖女の浄化は絶対だった。
少なくとも。
今までは。
神官の一人が言葉を濁す。
「……聖女様」
「なんだ」
神官は少し迷った。
そして。
小さく言った。
「レオン様がいた頃は……」
そこで言葉が止まる。
部屋の空気が凍った。
誰も続けない。
誰も言わない。
だが。
全員が思い出していた。
王立学園の魔法設備。
結界の調整。
魔力循環の安定。
それらを裏で支えていた人物。
レオン。
沈黙。
セレスティアの手が震えた。
「……関係ありません」
小さく言う。
まるで自分に言い聞かせるように。
「彼は」
少し間。
「罪人です」
神官たちは黙った。
誰も反論しない。
だが。
誰も頷かなかった。
神殿の外では、鐘が鳴っている。
新しい報告が届いたのだ。
魔物出現。
また一件。
セレスティアは目を閉じる。
祈るように。
だがその祈りの奥に。
小さな疑問が生まれていた。
――本当に?
レオンがいなくなったことと。
この異変は。
無関係なのか。
答えはまだ。
誰にも分からなかった。




