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挑戦

ジャック達が魔の森から帰還したのは夕方、陽の落ちる直前だった。森から出てきたところが確認され、すぐに野営地に残っていたメンバーが迎えに出て負傷者の手当がはじまった。

初めての調査で負傷したのはケヴィンとクリストフだった。入れば出てきたものがいない、と言われていた魔の森から死傷者を出さずに帰ってこれるなんて奇跡のようだった。


「負傷者はケヴィンとクリストフですね、ケヴィンは魔物による傷ですが、クリストフは…。」

「あんま言わないでくださいッス!団長サンに飛ばされて足首ひねったなんて恥ずかしいンスから!」

「ふふ、ひねっただけで済んだのは団長のおかげなんですから、文句は言わないでください。」


クリストフがぎゃあぎゃあセドリックに文句を言っている。それもそのはず、今回対魔物による直接的な怪我はロジェだけだった。

今回の調査についてはすべて王都に報告が行く。その内容をまとめるためにも負傷者についての情報は細かく記されるのだ。魔物による傷などがメインとなる。

やかましい声を聞きながらジャックは一人安堵のため息を吐く。まさか一人も死なずに魔の森から出ることができるとは夢にも思わなかった。


「団長さん!ケヴィンさんの手当終わりました。幸いにもかすったものが多かったので傷は浅いものばかりでした。これなら後遺症などは問題ないと思います。」

「ありがとう、ルース。クリストフの方はどうだ?」

「クリストフさんの足首も一晩安静にしたら動くのに支障は出ないと思います。ただなるべく激しい動きは控えてほしいですが…。」

「明日の調査ではクリストフは野営地で留守番だな。」


ジャックが子供に対するように言うと、ルースはくすりと笑う。しかしすぐに表情は悲観に変わる。


「明日も調査にいかれるんですか?」

「セドリックとこの後相談はして決めるが、おそらくそうなるだろう。動くとしても朝日が登る頃だ。」

「そうですか…。また、今回のような奇跡が起こること、信じてます。では失礼しますね。」

「ああ、報告ありがとう。」


ルースが離れていく姿を見ながら、ジャックの頭は疑問で溢れていた。

なぜ自分たちは逃されたのか。

森を出れなかった他の人間との違いは何なのか。

魔物は荷物をおいていけというかのようだったが、荷物の中の何がそうさせたのか。

そもそも襲ってきた魔物は何なのか。

わからないことだらけだった。


「夕食ができたので取りに来てくださーい!」


ルースが夕食の配膳の手伝いをしている。そちらではシーラが夕食をよそっている。いつもの麦をふやかしかさ増しししたものだ。ぞろぞろとそちらに隊員が集まるのを眺めながら、ジャックも重い腰を上げるのだった。




「セドリック、今いいか。」


シーラから夕食を受け取り、ジャックは地面に座るセドリックのもとへと近寄る。セドリックの膝の上にある夕食はすでに半分ほど食べられていた。


「構いません。今日のことと、明日について、ですね。」

「食べながらでいい。今日あったことについて、お前の意見が聞きたい。」


食事を脇に置こうとしたセドリックを止め、ジャックは隣に座る。そのまま食事を口にし、会話を進める。


「あの魔物の姿は俺には見えなかった。お前にはなにか見えたか?」

「残念ですが何も。一度目の大きな攻撃…。あのとき私達の周りの木々も綺麗に刈られていました。あそこまで範囲の広い攻撃ができるモノなら、体格も大きいはずですがその姿はかけらも見えませんでした。」

「正体はつかめず、か。」

「姿かたちはわかりませんが、いくつかの攻撃を知ることはできました。これは今後の調査におおいに役立ちます。」

「そうか…。俺が荷物を拾おうとしたとき、回収させないようにする意思を感じた。それは正しいか?」

「そのことなんですが…。」


セドリックはジャックの方を向くと、真剣な面持ちで告げる。


「あの場から離れる際、一つの荷物が風にさらわれて消えていくのが見えたような気がします。落ちていた中ではひときわ小さいものでしたが…、あれには何を入れていたのでしょうか?」

「小さい…?戻ってきてから何を置いてきたのか確認したが、どれも同じような大きさのものでまとめているはず…。」

「いえ、小さいものだったと思います。他の袋にも入るような。」

「…思い出した!砂糖菓子を潜めていたはずだ。」

「砂糖菓子、ですか…?団長は甘いものはあまりお得意ではなかったと記憶しておりますが…。」


ふと思い出した荷物に、セドリックの困惑した言葉を発する。

普段から接する機会のおおいセドリックは甘いものを避けているジャックの姿を目にしていたことがあった。加えて砂糖はあまり市場では出回らず、高級品だ。遠征や調査に出るときにそのようなものを持ってくることはほとんどありえなかった。


「いや、俺が食べるものではなくてな…。今回の調査、生きて帰れるかわからないなら給金を貯めていても仕方がないだろう?だからお前たちが少しでも食べれるようにと買ってきたんだ。」

「わざわざ苦手な貴族御用達のお店に出向かれたんですか?私達のために…。」

「ルースなどは一度は食べてみたいと言っていただろう?シーラには伝えて野営地にも残していたが、少しばかり持ってたんだ。森の中で一息付ける場所があれば出そうとな。」

「そうでしたか。」


セドリックの微笑ましい物を見るかのような視線にいたたまれなくなり、咳払いをする。


「持っていた理由はもういいだろう。魔物が持っていったのは砂糖菓子かもしれん。」

「理由はわかりませんが、可能性はあると思います。他の携帯食は奪われませんでしたし、砂糖菓子ほど高級品ならこれまで森に立ち入った者たちは所持していなかったでしょう。」

「甘い匂いに釣られたか…?もし本当に砂糖菓子が理由なら、餌にできると思うか?」

「餌にはできるかもしれませんが、魔物が1体とは限りません。あまり期待しないほうがいいかと。」


かすかな希望だが、セドリックの冷静な判断は正しい。どこまで広いかわからないこの森で、他にも魔物がいる可能性は高い。


「そうだな。だが1度砂糖菓子があの魔物の興味が引けるのか確かめて見てもいいかもしれない。もしかしたら森の中を案内してくれるようになるかもしれないからな。」

「どこまで知性があるかはわかりませんが、物は試しですね。明日も砂糖菓子を持っていきましょう。しかしあまり量はないかと思いますが、どれほどお持ちになったんでしょうか?」

「たしか残りは15個ほどだ。一つ一つ袋に入れて試してみるか?」

「そうですね、ですが匂いがしなければ気が付かれないかもしれませんし…。明日は3つにしておきましょう。その後も必要そうであれば誰かを街に返して買いにいかせましょうか。」

「シーラがいいだろう。食料の買い出しにもよく行くし、貴族相手の店でもそれほど浮かない。」


セドリックはうなずくと夜空を見上げる。星々がきらめき、月が大地を照らす。


「まさかまだ生きるために足掻けるなんて、思いもしませんでした。」

「…飯が冷める、早く食べて明日また森に向かおう。」


死ぬと思い森に入ったが、こうして森から出て食事が取れる喜び。そしてまだ生き残るために挑める緊張感。二人は腹が十分に満たすことはできないが、今この時を生きていることに感謝するのだった。



翌朝。

ジャックとセドリックは魔の森の前にいた。今回は砂糖菓子が本当に()()魔物の興味を引けるか試すことを目的としているため、索敵能力の高いロジェだけを連れて3人で森の中に入る。

もし前日襲ってきた魔物以外と会敵した場合は即時に撤退するためだ。


「今朝方話したように、今回の目的はこの砂糖菓子が本当にあの魔物の興味を引けるのか試すことだ。ロジェはなにかいると思ったらすぐに教えてくれ。」


ジャックの言葉にロジェが無言でうなずく。


「では森に入ろう。」


昨日とはまた違った緊張感が走る。昨日は何もわからず、ただ生きて帰れることだけを考えていた。だが今日は違う。願わくばあの魔物とコミュニケーションを図ろうというのだ。

森の中を警戒しながら進みながらセドリックが話しかけてくる。


「1晩森の外に砂糖菓子を置いておいても何も変化はありませんでしたね。」

「入り口に投げ込んだ物も変わりはなかった。おそらくある程度は内部に近づかないと反応されないだろう。」


昨晩のうちから何通りか試したものの収穫はなかった。あの魔物を先に見つけることができればいいが、それが難しいことは明らかだ。ならば会敵した状態で、どうにか交流できないか図るしかない。

餌に目がくらんだところを通るか、または目溢しされることを願うか。


「ひとまず昨日の地点まで進むぞ。」


森の中は変わらずかすかな風が吹いていた。




「団長、そろそろ付きます。」


セドリックの言葉通り、昨日撤退した地点に辿り着こうとしていた。草が一定の高さで刈り取られ、木もいくつか倒れている。様子は然程変わっていない。ここにたどり着くまでに魔物とは合わずにいた。

ロジェは周囲を警戒しているがまだその姿を捉えていないようだ。


「俺がこのまま一人戦闘地点に入る。先で風が止んだ瞬間にこの袋を掲げる。お前たちは魔物の姿が見えないか注意してくれ。」


そういうとジャックは昨日攻撃を避けた中心部まで歩く。風はいまだかすかに吹いている。もしかしたらこのまま今日は現れないかもしれない。現れても何も興味を惹かずに殺されるかもしれない。

その時はなるべくその姿だけでも捉えてセドリックとロジェを野営地まで返さなければならない。


「なにかきます!」


ロジェの警告が飛ぶ。

その直後、風が止みジャックは手に持っていた袋を掲げる。どこから攻撃が飛んでくるか警戒し、いつでも避けられるようにする。汗が一筋落ちる。


だがその後攻撃が飛んでこない。


「これは…。」


ジャックは魔物の視線が掲げた袋に集まっていることに気がついた。どこからかは分からないが、見られている。風は止み続けている。


「っこの袋がほしいか!」


ジャックが問いかけた瞬間、ジャックの真正面の草が切れる。とっさに横に転がりその攻撃を避けるが、袋は掲げたままだ。ジャックは近寄ろうとしているセドリックたちを静止するように一瞬視線を向け、斬撃が飛んできた方向を向く。

そしてもう一度叫ぶ。


「この袋の中身がもっと欲しくはないか!」


風が止んだまま沈黙が帰ってくる。ジャックからは何時間とも感じられるような時がすぎる。

交渉にならないか、と撤退を指示しようとしたとき、どこからか獣の低い唸り声がする。低く、警戒を顕にするその声は聞こえるがどこにも姿は見えない。

交渉の余地がある、がまだそこまで信用もない。


「…この袋は一旦そちらに投げる。明日またここに袋を持ってくる!」


そう言うと、ジャックは袋をだれもいない前方に投げる。すかさずそれは風の音とともにどこかに消える。消えたことを確認すると一歩一歩下がり始める。獣の唸り声はいつの間にか止み、観察するような視線が刺さることを感じながらセドリックたちの元まで下がりそのまま撤退するのだった。


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