第六十五話「決着」
結果から述べてしまうと、戦いはクロウの勝利で終わった。
「あー……くそ、いきなり大技出しやがって」
地面に大の字で寝転がるミカエラさんが、忌々しげに呟く。
クロウはちゃんと「善処」してくれたみたいだ。
ガバッと勢いよくミカエラさんが身を起こして立ち上がる。
「ほう、もう動けるのか」
クロウが感心した様子でそう口にした。
「まだ戦うつもりか?」
「な……駄目ですよ、ミカエラさん」
「安心しろ。今日のところは勘弁してやる」
「ふ、口の減らない男だ」
とりあえず、ミカエラさんは矛を収めてくれるみたいだ。よかった。
「どうせ、立っているのがやっとの状態なのだろう?」
「ああん、なんだと? やっぱりケリつけるか?」
煽るクロウに、ミカエラさんが食ってかかる。
ちょっとちょっと、いい加減にして欲しい。
「やめてください、二人とも」
フラつきながら、なんとか立ち上がる。
「わわ」
「平気か、ルビィ」
よろめく身体を、クロウが支えてくれた。
「ぜんぜん平気じゃないです」
攻める気はないけど、たっぷり血を吸われたし。
「……薬は持っているか?」
「あ、はい」
魔力を回復する薬だ。こんなこともあろうかと、ちゃんと持ち歩いてる。
薬の瓶を取り出して、中身を飲み干す。
「ふう」
「おい、ルビィ」
薬を飲み終えたわたしを、ミカエラさんがジッと見てくる。
「なんでしょう?」
「とりあえず、戦いはやめる。その代わり事情を説明してくれるんだろうな?」
うん、やっぱりそうなるよね。
ミカエラさんに事情を話してしまってもいいのだろうか。
クロウの顔をチラリと見やる。
するとクロウは肩をすくめて「好きにしろ」と呟いた。
わたしは頷いて、ミカエラさんに向き直る。
「実はですね――」
ミカエラさんに、これまでの経緯を簡潔に説明する。
わたしが前世の記憶を持っているという部分は、変わらず秘密にしたけど。
「なるほどな、とりあえず事情は理解した」
「では、どうかわたしたちの存在は見て見ぬフリでよろしくお願いします」
「そうはいくかよ」
やっぱり駄目か。
「まあ……人間に危害を加えないと約束するなら、とりあえず退治はしないでやるよ」
「本当ですか?」
「ああ、ただし条件が……ん、あいつが話に出た弟か?」
「え?」
ミカエラさんが屋敷の方に目を向ける。弟って、シャルさん?
見ると、たしかにそこにはシャルさんがいた。
玄関から足早に、こちらへと歩いてくる。なんか勢いすごいけど。
あ、もしかしてミカエラさんがいるから? また一悶着起きるんじゃ……
そう懸念していると。
スッ、とシャルさんはわたしたち三人の横を通り過ぎていった。
「あ、あれ?」
「なんだ、あいつは?」
シャルさんは、すやすや眠っているポポちゃんとライちゃんの少し離れた位置で立ち止まる。あ、察した。
「ルビィさん……いう……ですか」
シャルさんがボソボソと、なにか口にする。
「え? なんですか?」
「しっ!」
シャルさんが思い切りわたしを振り返り、人さし指を口に当てる。
「なんて言ったんですか?」
小さな声で、わたしは再度訊ねる。
「これは、どういうことですか?」
シャルさんは、なぜか震えている。なにがだろう。流れからして、ミカエラさんのことではなさそう。というか存在に気づいてないかも。
「うーん、むにゃむにゃ」
「ぷうぷう」
ポポちゃんと、ライちゃんが、可愛い寝息を立てる。
「――っ!?」
シャルさんが息を呑む気配が伝わってきた。
「あ、あああああああああああっ!」
そう発しながら、シャルさんが膝から崩れ落ちる。
「尊すぎる……」
泣きそうな声でシャルさんが呟く。むしろ泣いてる。
いや、気持ちはわかるけど……
「お、おい、こいつ大丈夫か?」
ミカエラさんが、クロウにそう声をかける。
クロウは肩をすくめて、溜息をついた。
「やれやれ……おい、シャル」
クロウが名前を呼ぶと、シャルさんは「はっ」として立ち上がった。
ゆっくりとこちらを向いて、何事もなかったかのような表情をする。
「どうしましたか?」
こっちのセリフだよ。
「……おや、こちらの方は?」
シャルさんが、ミカエラさんを見やる。やっぱり気づいてなかった。
クロウがわたしの肩に手を置く。
「説明は任せた」
「はいはい。実は……」
かくかくしかじか。
「なるほど……あちらの天使……いや、狼のお連れですか」
今、天使って言ったよね。
「お、おう」
ミカエラさん、引いちゃってるよ。
「それでミカエラ、条件がどうとか言おうとしていたな」
クロウが話を進める。
「ああ。人間に危害を加えないと口約束されても、信じられないからな」
まあ、それはたしかに。
「だから、ここでお前らを監視させてもらうと決めた」
「監視……ですか」
「ああ、今日から世話になるぞ」
「え?」
「あ?」
ミカエラさんと同時に首を傾げる。
「世話になるって……ここに住むんですか?」
「そうだが、なにか問題でもあるか?」
ミカエラさんはわたしじゃなくて、クロウにそう問い掛ける。
「好きにすればいい。シャルも異存ないな?」
「ええ、仕方ありません」
そう答えながら、シャルさんはライちゃんをガン見している。
ああ、これは……
ミカエラさんが屋敷に住む=ライちゃんも屋敷に住む。
絶対こう考えてるな、この人。
こうしてミカエラさんとライちゃんが、この屋敷で暮らすことになる。
異世界転生したわたし、吸血鬼の兄弟、聖女の子孫、モフモフたち。
不思議な面子による共同生活の始まりだった。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
今回で、ひとまず第一部完です。
一応、第二部として「狼男編」とかの設定はあったりなかったり。




