第六十四話「力の一端」
「こいつで終わりだ、吸血鬼」
ミカエラさんが告げた。
「ぐ…………」
「クロウ!」
苦しげに呻きながら地面に膝を突いたクロウに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
いや、絶対に大丈夫じゃない。心臓にナイフが刺さっているんだから。しかもそのナイフは、ぼんやりと光っている。ミカエラさんの魔力が付与されているんだ。光属性の魔力が。
「おいルビィ、なんでだ?」
頭上から、ミカエラさんの疑問に満ちた声が降ってくる。
見上げると、ミカエラさんは訝しげな目でこちらを見下ろしていた。
「なんでお前が、吸血鬼の身を案じる?」
「だからそれは……」
口を開いたけど、すぐに言葉が止まる。
傍らのクロウが、わたしの腕を掴んできたからだ。
「クロウさん?」
「ルビィ…………ぞ」
それは掠れた声音だったけど、たしかに耳に届いた。
ルビィ、血を貰うぞ。
言葉通り、クロウがわたしの首筋に噛み付く。
ブツリと、牙が皮膚を突き破る。
「な……ルビィ!」
ミカエラさんが驚いたように、わたしの名前を呼ぶ。
血液が、魔力が、クロウに吸われていく。そして、強烈な脱力感が襲ってきた。
なんか、ものすごく魔力を持っていかれたような。
隣でクロウが立ち上がる気配を感じた。なんとか顔を上げてクロウに目を向ける。
クロウは胸に刺さったナイフを自分で引き抜くと、それをミカエラさんに放り投げた。
クロウの胸にできた傷が、瞬く間に塞がっていく。すごい再生能力だ。
「ルビィ。最初に吸血したときから感じていたが、やはりお前の血は素晴らしい」
「す、素晴らしいですか」
反応に困るコメントだなあ。傷が治ったのはよかったけど。
「瞬時に致命傷が再生されたのも素晴らしいが……」
あ、致命傷だったんだ。さらりと言うなあ。
「なにより、弱っていた魔力が少しだけ回復したのは僥倖だ」
クロウが全身から魔力を放出させる。
たしかに、クロウの魔力はこれまでに比べて少し力強さが増しているような気がした。
「ミカエラ、さきほど『これで終わり』とか吐かしていたな」
不敵な笑みを浮かべながら、クロウは腕を組む。
余裕に満ち溢れた態度だ。というか、なんだかものすごく偉そう。いかにもなクロウらしさに、安心感すら覚えるのはどうしてだろう。
「あの言葉、今度はそっくりそのまま貴様に返してやろう」
「少し魔力が高まったぐらいで、大きく出るじゃねえか」
ミカエラさんもミカエラさんで、冷静な様子だ。
光輝く大剣を手に、クロウを迎え討つ構えを取る。
困った。二人の戦いを止めたかったのに、むしろ事態を悪化させてしまったみたい。
「ク、クロウさん……」
なんとかしたいけれど、血を吸われた影響で声を出すのもやっとだ。
とりあえず、これだけは伝えておきたい。
「こ、殺したりはなし、ですからね……」
ちらり、とクロウがわたしに視線を落とす。
「お前がそう言うなら、善処はしてやろう」
よかった。いや、よくはないんだけど、とりあえずは安心だ。たぶん。
「一瞬で終わる。せいぜい死なないように気をつけるんだな、聖女の子孫」
クロウが魔剣をその手に造り出す。
「見せてやろう。真の力の一端をな」
クロウがそう口にすると同時だった。
その全身を覆う魔力が輝きを増して、クロウの周囲に何十本もの剣が出現した。
な、なにそれ、いきなり反則的すぎない?
浮遊する剣の切っ先は、すべてミカエラさんを向いている。
「行け」
クロウが短く告げ、手にした剣を振りかざす。
すると、浮遊する剣が一斉にミカエラさん目がけて放たれた。




