第六十三話「結界」
クロウとミカエラさんの戦いが始まってしまった。
結界に阻まれているわたしには、見守るしかできない。
……なんてことはないはず。
「こらー! 二人ともやめなさーい!」
結界の向こうに思い切り叫ぶ。
二人はまったく反応してくれない。
ううん、クロウは一瞬だけど、たしかに目を向けた。
つまり無視したんだ。腹立つ。
ミカエラさんが光輝く大剣でクロウに斬りかかる。
あれって、武器への魔力付与だよね。
『ルベーリア』の記憶から得た知識にあった。
武器に魔力で特殊な効果を与えたり、単純に強化したりする技術だ。
ルベーリア自身は上手くできなかったみたいだけど。
ミカエラさんが大剣に付与したのは、光属性の魔力……
あんなので攻撃されたら、クロウも危ないんじゃ……
やっぱり、なんとかして二人を止めないと。
ミカエラさんが振るう大剣がクロウを襲う。
対するクロウは、ときに機敏な動きで攻撃を避け、ときに剣で攻撃を受け止める。
ミカエラさんの猛攻に、防戦一方といった様子だ。
早く戦いをやめさせないとだけど……
呼びかけても聞いてくれないし、どうすればいい?
そうだ、シャルさんを呼んできて……
いや、やっぱり駄目かも。当然ながら、シャルさんにとってもミカエラさんは敵だ。戦いを止めてくれそうにない。
「この結界さえなければ……」
そうだよ。結界だ。
ミカエラさんが張ったこの結界がなければ、二人に近づける。
呼びかけよりも、もっと直接的に戦いを制止できるはず。
ミカエラさんの魔力属性は光。
この結界も、きっと光属性の魔力で作られている、よね。
わたしはミカエラさんの先祖――聖女プリムラの封印魔法を解除した。
同じ要領で、この結界も無効化できないだろうか。
といっても、具体的にどうやればいいのかがわからない。
聖女の封印は、触れるだけで解除できたけど……
おそるおそる、光の障壁に指を触れてみる。
「……痛っ」
指が結界に触れた途端、静電気のような感覚が走った。
どうやら封印魔法と違って、触れるだけじゃ駄目みたいだ。
「うーん……」
あ、そうだ。
聖女の封印に触れたとき、わたしの身体は魔力が漏れているという状態だった。
つまりあれって実は、「単に触れただけ」じゃなかったわけだ。
よし、やってみよう。
上手くできるかはわからないけど、とにかくやってみるしかない。
意識を集中して、全身から魔力を放出させる。
わたしの身体から、光が溢れてきた。
光に包まれた手を、結界に伸ばす。
指が結界に触れる。すると――
パリン。
まるで硝子が割れるような音と共に結界が砕け散った。
「や、やった!」
どうなるか不安だったけど、成功したみたいだ。
なんて喜んでる場合じゃなかった。重要なのはここからだ。
クロウとミカエラさんを止めないと。
戦う二人の元まで駆け出す。
「クロウさん、ミカエラさん!」
剣と大剣をぶつけ合う二人が、同時にこちらへ目を向ける。
「ルビィ!? お前、どうやって……」
「ほう、結界を解除したのか」
「戦いをやめてください」
二人の間に立って、そう告げる。
「……悪いが、そいつはできねえ」
ミカエラさんが目を伏せながら、そう口にした。
大剣の柄から左手を離して、コートの内側からナイフを取り出す。
それから素早い動きで、ナイフをクロウの胸に突き立てた。




