第六十二話「子孫(SIDE:クロウ)」
不快な気配に目を覚まして出て来てみれば、見知らぬ男が屋敷の中に侵入していた。
どうもルビィを救い出す……などと戯言を吐いているようだ。
「出てきたな、吸血鬼」
男が背中の得物に手を回す。
身の丈ほどもある大剣。少し古びてはいるが、中々の業物のようだ。
ルビィの隣まで移動し、声をかける。
「平気か、ルビィ」
「はい、特になにかされた訳じゃないので」
その言葉に、内心で安堵する。
「そうか。で、こいつは何者だ?」
男に目線を移して、ルビィに訊ねる。
銀色の髪、不遜にこちらを見る瞳は琥珀色。
全身から発せられている魔力の属性は……光だ。
この感じ……まさかとは思うが――
「えーっと……」
「オレの名前はミカエラ」
ルビィが答える前に、男がそう名乗った。
「ざっくり言えば、魔物退治を生業にしてる。つまり、お前みたいな野郎を狩る仕事だ」
男……ミカエラが殺気をぶつけてきた。
いちいち癇に障る、不愉快な男だ。
「……ただの退治屋か。それにしては気配が不快だ。不快すぎる」
「それだけじゃねえよ」
「ほう?」
「オレはたぶん、お前を封印した聖女の子孫だ」
「……えぇ!?」
驚きの声を上げたのはルビィだ。
「なるほど……聖女の子孫か。どうりで不快さを感じるわけだ」
「お前、ご先祖サマが封印したとかいう吸血鬼なんだろ? 黒の王とか言ったか」
「前半は当たりだが、後半は外れだ。残念ながら、俺は黒の王ではない」
まさか父上に間違われるとはな。
「なんだ、そうなのか……まあ、なんでもいいさ」
ミカエラが背中の大剣を抜き、切っ先をこちらに向けた。
「どういう理由か知らないが、封印が解けちまったみたいだからな。子孫のオレが、ちゃんと処理しねえとだろ」
実に挑発的な態度だ。
「ふ……やってみるがいい」
「ちょ、ちょっと二人とも……!」
ルビィが慌てた様子で声を上げる。
「ポポちゃん、ライちゃん、二人を止めて……って!」
「すやすや」
「すやすや」
ルビィが呼びかけたポポと……小さな狼は、二匹揃って眠っているようだ。
「クロウさん、ミカエラさん!」
「ルビィ、少し離れてろ」
ミカエラが言った。それにしてもこの男……
「随分とうちのメイドに馴れ馴れしいな」
しかも呼び捨てだと……
などと考えていると、ミカエラがルビィに向けて手をかざす。
俺は身構えた。なにをするつもりだ?
「え」
ルビィの身体が、ふわりと後方に飛ばされた。
同時に、ミカエラが周囲に魔法で結界を張る。
ルビィを巻き込まないため、か。
「結界を張った。お前はそこで待ってろ。必ず救い出してやる」
「ルビィ、大人しくしていろ。こいつはすぐに片づける」
右手に魔力を集中し、剣を造り出す。
「聖女の子孫……果たして、どの程度の実力なのか見せてもらおう」
「はっ、随分と偉そうだな。吠え面かかせてやるよ」
大剣を構え、ミカエラが地を蹴った。
――疾いな。
一足飛びでこちらへと肉薄し、大剣による斬撃を繰り出してくる。
後退し、大剣をかわす。
鈍い音を発しながら、大剣の刃が空を切った。
ミカエラは即座に反応し、大剣を水平に構えて再び地面を踏み込んだ。
そのまま、こちらに突進してくる。
轟然と迫る突きを紙一重で避け、ミカエラの背後に回り込んだ。
そのガラ空きの背中に剣を――
ヒュン、と「なにか」が俺の顔面目がけて飛んできた。
反対の手でそれを掴み取る。
「……矢か」
「受け止めるか。やっぱり化物だな」
こちらに向き直ったミカエラは、小型のボウガンを手にしていた。
いつの間に取り出したのやら。ミカエラが身に纏っている青色のロングコート……その内側には、色々と物騒な物が隠されていそうだ。
「化物か。そっちも人間にしては、いい動きだ」
聖女というよりは、あの女の周りにいた男どもを彷彿とさせる。
「そりゃどうも。褒めても手加減はしてやらねえぞ」
「ふ、必要ないな」
いくら力が弱まっているとはいえ、人間に後れを取ったりはしない。
「……お前、ぜんぜん本気じゃねえだろ」
不服そうに、ミカエラが指摘してくる。
「言っただろう。実力を見せてもらうとな。そういう貴様はどうなんだ。まさか、その程度なのか?」
「はっ、まさかだろ」
ミカエラが大剣を構え直す。
その刀身が、眩い光を帯びる。
「武器への魔力付与か」
あれで斬られたら、さすがに無傷では済まなさそうだ。
「こらー! 二人ともやめなさーい!」
結界の外でルビィがなにか叫んでいるが、今は無視だ。




