第六十一話「子孫」
がっくりと肩を落としていると、ミカエラさんがわたしの背後に目を向けた。
振り向くと、そこには……
「不快な気配がする上に騒々しいから出て来てみれば……随分と勝手を吐かしているな」
いつの間にか、屋敷の入口にクロウが立っていた。
「出てきたな、吸血鬼」
不敵に笑って、ミカエラさんは背中の大剣に手を掛ける。
対するクロウは悠然とした足取りで、わたしの隣まで歩いてきた。
「平気か、ルビィ」
こちらに視線を落として、クロウが問う。
「はい、特になにかされた訳じゃないので」
「そうか。で、こいつは何者だ?」
クロウは、わたしからミカエラさんに目を移す。
「えーっと……」
あれ、そういえばミカエラさんって何者なんだろう。
よく考えてみると、名前ぐらいしか知らない。
「オレの名はミカエラ」
わたしが答えに窮していると、ミカエラさんがそう名乗った。
「ざっくり言えば、魔物退治を生業にしてる。つまり、お前みたいな野郎を狩る仕事だ」
挑発的な口調で、ミカエラさんはクロウに言ってみせる。
「……ただの退治屋か。それにしては気配が不快だ。不快すぎる」
心底から不愉快そうに、クロウは顔をしかめている。どうしたんだろう。
「それだけじゃねえよ」
「ほう?」
「オレはたぶん、お前を封印した聖女の子孫だ」
なんでもないことを言うように、ミカエラさんはそう口にした。
「……えぇ!?」
思わず声を上げる。
ミカエラさんが聖女の……『サント・ブランシュ』の主人公、プリムラの子孫……?
そんなまさか……いや、でもそういえば……
ミカエラさんと町で初めて会ったとき、わたしも微かに感じたのを思い出す。
銀髪と琥珀色の瞳が、誰かに似ている気がすると。
そうだ、どうして気がつかなかったんだろう。
ミカエラさんの髪と瞳は、聖女プリムラと同じ色だ。
「なるほど……聖女の子孫か。どうりで不快さを感じるわけだ」
「お前、ご先祖サマが封印したとかいう吸血鬼なんだろ? 黒の王とか言ったか」
「前半は当たりだが、後半は外れだ。残念ながら、俺は黒の王ではない」
「なんだ、そうなのか……まあ、なんでもいいさ」
ミカエラさんが背中の大剣を抜き、切っ先をクロウに向けた。
「どういう理由か知らないが、封印が解けちまったみたいだからな。子孫のオレが、ちゃんと処理しねえとだろ」
剣呑な言葉を発するミカエラさんに、クロウは口の端を吊り上げる。
「ふ……やってみるがいい」
クロウの魔力が高まるの感じた。
「ちょ、ちょっと二人とも……!」
まさか、本気で戦うつもり?
「ポポちゃん、ライちゃん、二人を止めて……って!」
「すやすや」
「すやすや」
寝てる! 少し離れた場所で、二匹寄り添って寝てる!
退屈しちゃったのかな!
くう……なんとも尊い光景を堪能したいけど、今は我慢だ。
「クロウさん、ミカエラさん!」
「ルビィ、少し離れてろ」
そう言ったのはミカエラさんだ。
「随分とうちのメイドに馴れ馴れしいな」
クロウが不機嫌そうに言う。
そんなクロウをよそに、ミカエラさんはこちらへ手をかざす。
すると――
「え」
わたしの身体が、ふわりと後方に飛ばされた。
すぐさま戻ろうとして、動きを止める。
「な、なにこれ……」
光の壁が、わたしの行く手を遮っていた。
「結界を張った。お前はそこで待ってろ。必ず救い出してやる」
「ルビィ、大人しくしていろ。こいつはすぐに片づける」
ミカエラさんとクロウが、同時に言い放つ。
ああもう、どうしよう。




