第六十話「勘違い」
ミカエラさんが、どうしてこの屋敷に……?
考えていると、ミカエラさんと目が合う。
あちらは無表情。なにを思っているか、まったく推し量れない。
気まずいので、曖昧な笑みを浮かべてみた。
ミカエラさんが門を押し開き、ライくんと共に屋敷の敷地内へ入ってくる。
そのまま足早にこちらに歩いてたミカエラさんは、わたしの前で立ち止まった。
ミカエラさんが一瞬、隣にいるポポちゃんに視線を向ける。
「なるほどな、お前が『おねえさん』ってわけか」
ポポちゃんから視線を移し、わたしを見下ろしながらミカエラさんが言った。
「は、はい?」
「なんでもねえよ」
よくわからないけど、ミカエラさんの雰囲気はどこかおかしい。
なんというか不機嫌そうで、どことなく怖い感じだ。
嫌な予感がしてきた。
もしかしてなんだけど、クロウ――吸血鬼の存在が知られているんじゃ。
そうなんだとしたら、まずいよね。
……どうしよう。どうするべきなんだろう。
「昨日」
逡巡していると、ミカエラさんが先にそう切り出す。
「リスルムの町で事件があってな」
「じ、事件、ですか?」
それってきっと、ミリアさんとエマちゃんの件だよね。
「ああ、教会に住んでる子供とシスターがいなくなったんだ」
うう、やっぱり。
「二人の行き先はな、この森だったんだ」
はい、知ってます。
そういえば、ミカエラさんは二人を発見できたんだろうか。
「オレは教会の神父に頼まれて、この森まで捜しに来ていた。無事に二人を保護できたんだが……」
よかった。二人とも、ちゃんと帰れたんだ。
「気になる物を目撃したんだよ」
「な、なんですか?」
「――吸血鬼」
心臓が跳ねる。
覚悟はしていたけど、決定的な一言だった。
「黒髪の吸血鬼と、獣みてえな見た目をした吸血鬼の戦いだ」
ミカエラさんも、あの場にいたんだ。まったくわからなかった。
たぶん、クロウも気がついてなかったよね……。
「そこに、お前もいたな」
「え、ええと……」
まっすぐこちらを見据えるミカエラさんから、目を逸らす。
「単刀直入に訊くが……お前、何者だ?」
「……え」
わたし?
てっきりクロウ、というか吸血鬼について質問されるかと思った。
だけど、そっちもどう答えたらいいのやらだよ。
ベストなのは、なにも答えないって選択なんだろうけど……
それはたぶん、ミカエラさんが許してくれそうにない。
「こら~!」
わたしとミカエラさんの間に、ポポちゃんが割り込んできた。
「おねえさんをいじめるんじゃな~い!」
「いや……別に虐めてるわけじゃ……」
「おねえさん、こまってるじゃないか~!」
「ガウガウ」
と、ライちゃんが同意するかのように首を縦に振る。
「だから、いじめてねぇって」
ミカエラさんが困ったように頭をかいた。
「あー……そういう風に感じたなら、悪い」
「い、いえ、大丈夫ですけど」
「だが、はっきりさせておく」
ミカエラさんが真剣な表情になる。
「吸血鬼はオレにとって敵だ。お前がどういう事情で一緒にいるのかは知らねえが……オレは吸血鬼を殺す」
「ミカエラさん……」
そう、だよね。
吸血鬼は人間にとって敵……二〇〇年経っても、そこは変わらないんだ。
「ルビィ、お前……魔法を使えるな?」
あ、そうか。
ミカエラさんがクロウとマーカスの戦いを見ていたなら、わたしがルビィ・フラッシュ(仮)を使った瞬間も目撃されているのか。
「……はい、使えます」
「つまり、お前は吸血鬼にとって貴重な魔力補給源なわけだ」
「え?」
たしかにそれは事実だけど、なにか誤解されているような。
「そして、その服装からするに……」
ミカエラさんが、わたしの姿を下から上に眺める。
「あっ、おねえさんをやらしいめでみてるな!」
「ガウ〜」
「お前ら、ちょっと黙ってろ。ていうか、やらしい目なんかしてねえよ」
ミカエラさんがポポちゃんとライちゃんを睨む。
「……その服装からするに、だ。お前、この屋敷のメイドなのか」
「はい、一応そうです」
「なるほどな。きっと、吸血鬼に弱みを握られているんだろう。補給源にされている上に、無理やり働かされているんだな」
「え、いやあの……」
「わかってる。なにも言うな」
片手をあげて、言葉を遮ってくる。
ミカエラさん、人の話を聞いてくれないタイプ?
「待ってください、わたしは……」
「心配するな、オレが助け出す」
……駄目だこりゃあ。




