第五十九話「来客」
森から屋敷に帰ってきて数時間後。
夕食と、その後片づけを終えたわたしは自室で一休みすることにした。
「ふう……」
椅子に座って、ほっと一息吐く。
今日は色んな出来事があって疲れてしまった。
……ううん、「今日も」か。
でも、昨日よりはまだ大丈夫そう。
「よし、時間が空いているうちに『ルベーリアの記憶』から、色々と知識を身につけようかな」
やる気を出すために、あえて声に出してみる。
とはいえ「ルベーリアの記憶」にあるのも二〇〇年前の知識なんだけど。
でも、なにも知らないよりはマシだよね。
目を閉じて、記憶を深く辿っていく――
「……つ、疲れた」
目を開いて、頭を軽く振る。
とりあえず、今日はもうやめとこう。
収穫は魔法学校で得た知識かな。
基本的な魔法の使い方などは、なんとか覚えられたと思う。
発動方法とか、制御方法などなど。
これで、マーカスに放った光……名付けるならルビィ・フラッシュかな。いや、やっぱりなし。とにかく、あの光を暴発させたりはしない……はずだ。たぶん、きっと。
でもなんだか、身を守れそうな魔法については知識を得られなかったな。
そもそも「ルベーリア」は、あまり魔法が得意じゃなかったから、仕方がないのかもしれない。
魔法そのものの知識は今ひとつだったけど、「魔法薬」についてはかなり勉強していたみたいだった。
どうやら「ルベーリア」……わたしは、魔法薬の調合は得意だったらしい。
そういえば、ゲームでも色々な魔法の薬を使って聖女に嫌がらせを仕掛けたりもしていた気がする。
シナリオ上は特に言及されていなかったけど、あれらの魔法薬は自前だったのかも。
この知識、なにかの役に立てられないかなあ。またちょっと考えてみよう。
ともかく魔法以外でも、身を守る術が欲しいんだよね。
クロウかシャルさんに剣術を教わるっていうのは、どうだろう。
うーん……クロウは教えてくれるかな。
「面倒だ」とか言って、断られそうな気がする。
明日、シャルさんに頼んでみようかな。
「う~ん……」
椅子に座ったまま、大きく伸びをする。
今日はもう、お風呂に入って寝よう。
翌朝。
メイドの朝は早い――
なんて脳内でナレーションをしながら、わたしはベッドから抜け出す。
身支度をして、洗濯などを済ませてから厨房へ向かう。
食事の下準備をしてから、ポポちゃん……と、わたしが食べるフルーツを用意した。
さすがに、昼前までなにも食べないというのは辛いもんね。
カットしたフルーツを、そのままひょいひょいと口にする。
ちょっとお行儀が悪いけど、誰も見てないしいいよね。
ポポちゃんの分は、リンゴを何個か丸ごとバスケットに入れる。
ワイルドなポポちゃんは、丸ごと食べるのが好きらしいから。
バスケットを手に、わたしは庭へ出た。
「おねえさ~ん、おはよ~」
「うん、おはよう」
扉に開けて庭に進んだ途端、ポポちゃんが走ってきてくれる。
今朝は事前にトッブウド・イタリベーシャを使ってあるので、ポポちゃんの言葉もちゃんと通じた。
「はい、朝ご飯だよ」
バスケットからリンゴを一つ取って、ポポちゃんに差し出す。
「わ~い、いただきま~す」
……リンゴを食べ終えたポポちゃんと少し戯れてから、屋敷に戻ろうとすると。
「おねえさん、おきゃくさんだよ~」
ポポちゃんが、そんなことを口にした。
「え、お客さん?」
「うん、ほら~」
ポポちゃんが門の方を見る。
そちらに目を向けると、たしかに門前に人が立っていた。
銀髪で長身。背中に大きな剣を背負った、鋭い目つきの男性だ。
その足元には、白くてフワフワの小さな狼がいる。
見覚えのある組み合わせ。
リスルムの町で会った、ミカエラさんとライくんだ。




