第四十六話「洗濯と大広間」
クロウとシャルさんが起きてくるまで、わたしは自室のバスルームで洗濯でもすることにした。
といっても、洗う物はそこまで多くない。
昨日、身につけていた衣類と、タオルにバスローブ。とりあえず、今回はこれぐらいだ。
そういえば、わたしの血で汚れた外套はどうしたんだろう。
昨夜、屋敷に帰ってきたときにシャルさんが回収してくれていた気はするけど……。
また後で確認してみよう。
というわけで、桶に水を張って洗濯を開始する。
……手洗いなので少しは時間を要したけど、一時間ほどで洗濯は終わった。
洗った物はちゃんとバルコニーに干したし、完璧だ。
お天気も良いし、すぐに乾いてくれるかも。
クロウとシャルさんが起きてくるまで、もうちょっと時間がありそう。
「うーん……」
椅子に座って天井を見上げながら唸る。
空いた時間、なにをして過ごそう。
『ルベーリア』の記憶で、この世界について勉強したいところだけど……それはもっと落ち着ける状況でやりたい気もする。
「屋敷の中でも見て回ろうかな」
封印の起点を見つけるために結構、探索はしたんだけど。
改めて見ると、新しい発見がきっとあるはず。なんて、本当は時間を潰したいだけだったり。
「とりあえず行ってみよう」
椅子から立ち上がり、自室を出た。
適当に屋敷を見て回るわたしは、大きな扉の前で足を止めた。
「ここってたしか……」
閉じた扉を眺めながら、独りごちる。
この扉の向こうは大広間……黒の王を復活させるための儀式が行われた場所だ。
そういえば、ここってどんな状態なんだろう。
儀式の光景を思い出して、身を震わせる。
もし屋敷が封印された当時のままなんだとしたら、この大広間には……
一応、確認しておかないとだよね。
もし儀式の跡がそのままだったら……つまり大広間に生贄にされた人たちが残っていたら、ちゃんと埋葬しなくちゃ。
ちょっと怖いけど、意を決して扉を押した。
開いた隙間から、おそるおそる中を覗く。
「あれ……」
そこに、覚悟していたような光景はなかった。
生贄にされた人たちの亡骸はどこにも見当たらない。
目立つ痕跡といえば、壁にあいた大きな穴ぐらいだ。
たしかあれは目覚めた黒の王が、儀式を執り行っていた司祭っぽい人を吹き飛ばしてできたんだっけ。
大広間の中心には、黒い棺が鎮座している。
蓋は閉まっているみたい。
あそこに黒の王が封じられているんだろうか。
それにしても、誰が亡骸を片づけたんだろう。
クロウか、シャルさんかな。
一番、その時間があったのはクロウだ。
わたしとシャルさんが町へ行っている間、屋敷に残っていたわけだし。
シャルさんだとしたら……昨夜、わたしが眠ってしまった後とか。
うーん……でもなんか、二人とも違う気がする。
「おい、ルビィ」
「は、はい?」
後ろから呼ばれて、振り向く。
そこには、こちらを訝しむような目で見るクロウが立っていた。
「起きられたんですね、おはようございます」
「ああ」
答えながら、クロウが歩み寄ってくる。
「こんな所でなにをしている?」
「クロウさんたちが起きるまで時間があったので、少し屋敷の中を見て回っていたんですけど……」
ちょうどよかった。クロウ本人に訊ねてみよう。
質問すると、クロウは首を横に振った。
「いや、俺はなにもしていない。シャルが片づけた節もなかったな。そもそも、俺が父上の様子を見に来た時点で遺体などなかったぞ」
えぇ……どうなってるの?
「おそらくだが、屋敷が封印されている間に片づけられたんだろう」
困惑していると、クロウがそんな推測を述べる。
「いったい誰が……」
「そんなことが可能なのは一人だけだ。屋敷を封じた張本人……聖女プリムラだろう」
あ、なるほど。
封印魔法を使った本人である聖女なら、自由に出入りできたりするのかも。
この世界のプリムラが、わたしの知っている通りの性格だったなら、儀式の生贄にされた人たちを弔ってもおかしくはない。
「今となっては、もはや確かめようがないがな」
「……そうですね」
普通に考えたら、二〇〇年が過ぎたこの世界にプリムラはもういない。
もしかしたら子孫とかがいたりするのかもしれないけど。
「さて、行くぞ。そろそろ食事をもらうとしよう」
「あ、はい」
扉を閉ざし、クロウとわたしはその場を後にした。




