第四十話「お帰りなさいませ、ご主人様」
着替えを完了したわたしは、近くにあった姿見の前に立つ。
「お、おお……」
鏡に映っているのは、メイド服姿のルベーリア・オズボーンだった。
そういえば、前世の記憶を取り戻してから自分の姿を改めて見るのは初めてかも。
うーん、やっぱり外見はいいよね『ルベーリア』って。
長くて綺麗な赤い髪、きめ細かな白い肌。長い睫毛に縁取られた切れ長の目。
ゲームをプレイしていた頃から、見た目は好みだったんだよなー。
今は自分がその『ルベーリア』なんだけど……なんだか不思議な感覚だ。
鏡の中、メイド姿の自分をまじまじと見つめる。
「結構、似合ってるんじゃないかな」
さすが『ルベーリア』の姿だけあって、なにを着ても絵になる。サイズもぴったり。
「お帰りなさいませ、ご主人様~」
とか、笑顔で言ってみたり。
「……これはないな」
中身がわたしのせいだろう。ぎこちなさが半端じゃない。
「でも、うん。全体的には悪くないかも」
両手を頬に添えながら、そう呟いた。
「お前、意外と自惚れ屋なんだな」
「うひゃあ!?」
背後でした声に、わたしは飛び上がらんばかりに驚いた。
ていうか実際に飛び上がった。
胸元を押さえながら、後ろを振り向く。
そこにいたのは、面白い物でも見るかのような目をしたクロウだった。
「な、なにしてるんですか」
「様子を見に来てやった。ちゃんと服を見つけられたかと思ってな」
つまり心配してくれた? ……でもちょっと待って。
「着替えてる最中だったらどうするんですか、ノックぐらいしてください」
「俺は別に構わん」
「いや、わたしが構うんですよ」
心底から理解できないといった感じに、クロウは眉を寄せる。
駄目だこりゃ。
「とにかく今度からは気をつけて欲しいです」
「やれやれ、我がままなメイドだ」
クロウは、額に手を当てる。いちいちポーズを取りたがる人だな。
「ところで」
口にしながら、クロウが目の前まで近づいてくる。
そしてわたしの顎に手をかけ、自分の顔を寄せてきた。
なになになに、恥ずかしいんですけど。どうして自然にこんな動作ができるんですか。
心臓が高鳴るのを自覚する。
クロウって性格はちょっとアレな部分があるけど、顔はとてもいい。
そんな美形なご尊顔で間近に迫られると、やはり鼓動が早くなってしまう。
「あの……顔が近いです」
「熱心に鏡を見ていたようだが、その格好が気に入ったのか?」
「へ? いやあ……どうなんでしょう」
悪くないとは思ったけども。
「ふ……まんざらでもない様子に見えたがな」
クロウが薄く笑う。
「……どこから見てたんです?」
「ふむ、『お帰りなさいませ、ご主人様』の辺りからだな」
「忘れてください今すぐに!」
うおあああああ! 穴があったら入りたいとはこのことだよ!
「くくっ、悪くないメイドっぷりだったぞ」
意地の悪い口調だった。
ぐぬぬ……恥ずかしくて顔が熱い。
わたしはクロウの手を払いのけ、そっぽを向いた。
「さっきも言ったが、意外と自惚れ屋なんだな」
「貴方に言われたくありません」
「たしかに、俺様は自分が完璧すぎて怖い」
クロウは顎に指を当て、物憂げな表情を浮かべる。またポーズ取ってる。
「そ、それはすごいですね……」
そこまで断言されると、なんかもう清々しいな。
「…………」
クロウが無言でわたしをジッと見つめてくる。
「なんですか、まだイジり足りませんか」
「……いや、あれだ。自惚れるだけあって、そう悪くないぞ」
「ん?」
もしかして、褒めてくれたのだろうか。
「クロウさん、今のって……」
「さっそくだがルビィ、メイドとしての初仕事を命じる」
わたしの言葉を遮るように、クロウは告げてきた。
「初仕事ですか!」
いったい、なにを任されるのだろう。
「庭先でヒポグリフが騒いでいるから、なんとかしてやれ」
「……ええ?」
ポポちゃんが庭先で?
どうしたんだろう。寝ていたはずだけど、起きちゃったのかな。
状況はわからないけど、とにかく庭先に向かおう。
「それでは、行きます」
クロウに言って、わたしは部屋を出ようとする。
「おい、『かしこまりました、ご主人様』はないのか?」
「ありません!」
しょうもないことで呼び止めないで欲しかった。




