第三十六話「夕食とワイン」
ダイニングでクロウ、シャルさん、わたしはそれぞれ席についた。
細長いテーブルの一番奥……日本的に言うなら上座にクロウ。
彼から見て右にシャルさんで、左にわたしといった形だ。
座る前に、全員分のセッティングは完了してる。
鍋からお皿に料理を盛り付けたし、クロウとシャルさんのグラスにお酒も注いだ。食器も揃ってる。
準備万端、あとは食べるだけ。
……はぁ、お腹空いた。
胸中で呟きながら、わたしはお皿から湯気を立てている料理に目を落とした。
今夜の献立は、ざく切りにした野菜とお肉を鍋でじっくりと煮込んだポトフだ。
野菜はニンジン、じゃがいも、タマネギ、キャベツで、お肉は牛肉。味付けはハーブと塩胡椒で、あっさりめに仕上げた。
ポトフはフランスの家庭料理らしいけど……野菜とお肉を煮込んだシンプルな物だから、この世界にも存在はしていそう。名前まで同じかは知らないけど。
お供は硬めのパンと、カットしたチーズ。
それにシャルさんが持ってきてくれた白ワインだ。ちょうどポトフに合いそうなお酒でよかった。
「肉と野菜の煮込みですか。いい香りがしますね」
シャルさんがそう口にする。
「おいシャル、まずは乾杯だ」
クロウに言われて、シャルさんは自分のグラスを持ち上げた。
「ところでルビィ、お前は飲まないのか」
「すいませんクロウさん、わたし……お酒は苦手で」
そもそも、この世界って何歳からお酒を飲んでオーケーなんだろう。
『ルベーリア』の記憶から情報を引き出してみる。
……十六歳から、お酒を飲んでもいいみたいだ。ちょっと早過ぎない?
えぇと、『ルベーリア』は十七歳歳だから年齢的には飲んでも問題ない。
あ、でも二〇〇年経ってるから法律も変わってるかもしれないのか。
まあ、今そこは気にしないでいいとして。
ふと思ったけど、お酒が苦手なのって『前世のわたし』なんだよね。
ちょっとでも飲むとすぐ酔っ払って、眠くなってしまう……といった有様だった。
たぶん、そういう体質をしていたんだと思う。
でも今、わたしはルベーリア・オズボーンとして生まれ変わっている。
もしかしたら体質も変化してるかもしれない。
つまり、お酒だって飲めちゃう可能性があるわけだ。
「苦手ということは、飲めないわけではないんだろう?」
「兄さん、無理強いはよくありませんよ」
「なんだシャル、随分と優しいな?」
「別段、普通だと思いますが」
……ん?
なんだろ。クロウとシャルさんの雰囲気が、おかしい気がする。
どことなくだけど、ピリッとしている感じ。
お互い笑顔を向け合ってるけど、目が笑っていないような。
どうしたんだろう。なにかあったのだろうか。
「あ、あの!」
なんとなく居たたまれなくなって、わたしは声を上げた。
二人が同時にこちらへ目を向ける。
「わたし、飲んでみます」
もし平気になっているなら、それは喜ばしい変化だ。
お酒っていう楽しみが一つ増えるんだから。
「よし、では特別に俺様が注いでやろう」
わたしは手近にあった空のグラスを持った。
そこへクロウが、ボトルからワインを注いでくれる。
「ありがとうございます」
「ルビィさん、やめておいた方がいいのでは……」
不安げなシャルさんに、わたしはゆるく首を振った。
「いえ、飲んでみたいんです」
「……わかりました」
シャルさんも納得してくれたみたいだ。
「よし、では乾杯だ」
「乾杯」
「乾杯です」
グラスを掲げるクロウに、シャルさんとわたしも続く。
クロウとシャルさんがワインをあおる。
よし、わたしも続こう。
「ふう……いただきます!」
グラスに口を付けて、ワインを少し飲んでみる。
……うん。フルーティで甘みがあって、まろやかな味だ。アルコール度数がそこまで高くないのか、飲みやすいように感じる。
「どうだ」
「美味しいです」
わたしはクロウに率直な感想を返す。
今のところ、気分が悪くなるとか強烈な眠気がやってくる気配はない。
どうやら生まれ変わったわたしは、アルコールが平気みたいだ。
そこまで強くないお酒だからというのもあるだろうけど。
なんにせよ、いい発見ができた。




