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第三十四話「相談」

 インバーテッド家の屋敷に帰ってきたわたしとシャルさんは、クロウに町で得た情報などを報告した。

 それを踏まえて、今後どうしていくのかを相談するみたい。

 話し合いの場所は、二階のサロンだ。

 集まったのは当然、クロウ、シャルさん、わたしの三人。

 ポポちゃんは「ぼくもう、おねむだよ~」と言って、庭先で眠ってしまった。

 スヤスヤと寝息を立てていて、とんでもなく可愛かった。シャルさんも大興奮だ。

 それはさておき。


「仮説が正しかったと証明されてしまったが……もう少し、この世界が現在どういう状況なのかを調べたいところだな」


 わたしの正面に座るクロウが腕を組みながら言った。


「そうですね。一応、こういう物は手に入れて来ましたが」


 クロウの隣に座っているシャルさんが、テーブルの上に一冊の書物を置いた。

 かなり分厚い。そして高価そうな装丁。表紙には歴史書とある。


「ほう」


 クロウは書物を手に取って、矯めつ眇めつ眺める。


「後で目を通すとしよう」


 書物をテーブルに戻して、クロウはこちらに視線を向けた。

 赤い双眸が、わたしを見据える。


「ルビィ」


「なんでしょう?」


「……この世界がどうなっていようが、俺のやることは決まっている。それだけは明言しておくぞ」


 いきなり、どうしたんだろう。


「俺の目的は、父上を完全な形で復活させることだ」


「それは……」


 クロウの父親。吸血鬼の王。アルバート・インバーテッド――

 そういえば、クロウはなんのためにお父さんを復活させようとしているんだっけ。

 ……あれ、わたし知らないかも。


『サント・ブランシュ』の設定でも、特に触れられていなかったような。

 ただ、かつて人間から恐怖されていた存在という説明だけで……

 復活させて、どうするんだろう。


 世界を支配する? はたまた人間を根絶やしにする、とか?


 なんだか、どれも違うような気がする。

 クロウやシャルさんを見ていると、どうもそんな野望とかなさそう。

 たしかに、わたしが襲われそうになった黒の王は、とても怖かった。

 でもあれは自我がなかったからなんだよね、きっと。

 黒の王を……お父さんを完全な形で復活させて、その先はどうしたいのか。


 ここは、クロウに訊いてみよう。


「クロウ様」


「なんだ?」


「お父様を復活させて、どうするおつもりなんですか?」


 わたしの質問が意外だったのか、クロウは僅かに目を見開いた。

 薄く笑って、足を組んでみせる。


「もちろん――世界征服だ」


「…………ええ?」


「……兄さん」


 クロウの隣で、シャルさんが呆れた様子で首を横に振った。


「というのは冗談だ」


「……そういう冗談は言っちゃ駄目なんですよ」


 あんまり面白くないし。


「叱られますよ」


「誰にだ」


「さ、さあ?」


 言っておいてなんだけど、ちょっとよくわからない。


「ていうか、それはどうでもいいんです。ちゃんと真剣に答えてください」


「お前に教える必要はないだろう」


 突き放すような口調。追求しても聞き出すのは難しそう。


「だが世界や人間をどうこうしたりする気はない……と、言えば安心か?」


「はい、一応は」


 やっぱり、目的は気になるけど。


「なら、お前は今後も俺たちと行動を共にするということでいいんだな」


「え?」


「なんだ、そういうつもりで確認したんじゃないのか」


「はい。ただ単に気になったから、お訊ねしただけですけど」


 そもそもクロウたちと行動しないなんて選択肢、考えもしなかった。

 今更、一人でやっていけるとは思えないし。


「……ふ。やはり変わっているな、お前は」


「そうですか?」


 まったく自覚はないんだけど。


「ああ。ところで話は変わるが、夕食はまだ出てこないのか。いい加減、腹が空いた」


「はい?」


「兄さん、あの……当然ながら使用人はもういないので、夕食は勝手に出てきたりしないのですが……」


 シャルさんが言い辛そうに告げる。


「――ふむ。それは道理だ」


 なんなんだろう、クロウって少し天然なのかな?


「で、夕食はどうするんだ」


「一応、食材とかは町で買ってきましたけど」


 口にしながら、わたしはクロウとシャルさんを見やる。

 勝手なイメージだけど……この二人、料理とかできなさそう。

 特にクロウ。さっきの「夕食はまだ出てこないのか」発言もそうだけど、部屋の散らかりっぷりも凄まじいし、家事とは無縁なんじゃないだろうか。

 シャルさんはどうだろ。できそうというか、やりそうな雰囲気はあるけど。


「あのー、ひとつ確認していいですか」


 わたしは小さく手をあげる。


「なんだ」

「なんでしょう」


 吸血鬼兄弟が声を揃えた。


「クロウ様にシャルさん、お二人は料理とかできたりしますか」


 わたしの問いに、二人は顔を見合わせる。一瞬後、こちらへ視線を戻した。


「できない」

「できません」


 またもや声を揃える。仲良し兄弟かな?


「やっぱりできませんか……」


 うん、そんな気はしてた。

 でもね、一応は確認しておきたかったのです。


「じゃあ、わたしが夕食を用意してもいいですか?」


「なんだルビィ、料理ができるのか」


「はい、まあ」


 前世じゃ、よく自炊していたし。


「お口に合うものが出せるかどうか、保証はしませんけど」


「……よし、いいだろう。お前に任せる」


「ルビィさん、お願いできますか」


「わかりました。それじゃあ厨房お借りしますね」


 カウチから立ち上がる。

 厨房の場所は把握しているから大丈夫だ。帰ってきてから、食材を運んだし。

 頭の中でなにを作ろうかと考える。

 あ。クロウとシャルさんにも、リクエストがないか訊いてみよう。


「なにか食べたいものとかないですか?」


「いや、任せる」


「私も同じです」


 要するになんでもいいと。一番困るやつ。


「それじゃあ、苦手なものとかってあります?」


「特にないな。大蒜も平気だぞ」


 うん、吸血鬼ジョークかな?


「私もないですね」


「わかりました。それじゃ待っていてください」


 言い置いて、わたしはサロンから厨房に移動した。

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