表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/71

第三十三話「帰着」

 森の入口に着く頃には、すっかり日が沈んでしまっていた。


「あ、おねえさーん!」


「ポポちゃん!」


 モフモフの丸っこい姿が、わたしたちを出迎えてくれる。


「……ああ、やはり愛らしい」


 背後でシャルさんがそう呟いていた。

 本当に好きだな。気持ちは大いに理解できますけど。


「……あれ?」


 ポポちゃんが、わたしに顔を近づけてくる。


「うん? どうかした、ポポちゃん?」


「おねえさん、どこかけがでもしたの?」


「え?」


 心配そうな眼差しで、ポポちゃんがわたしを見つめてくる。

 ウルウルとした瞳が、わたしを……わたしを……!


 うん。落ち着こう。


「怪我なんてしてないよ」


 あ、いや、待てよ。

 わたし、シャルさんに噛まれたじゃない。でも、その傷はもう薬で治ってる。

 だから、やっぱり怪我はしていないはずだけど……


「でも、おねえさんからちのにおいがするよ。それに、えりのところもよごれてるし」


 あ、本当だ。外套の襟に、わたしの血が付着している。


「……もしかして」


 ポポちゃんが、ギロリとシャルさんを睨めつける。


「きんぱつきゅうけつきに、ちをすわれた?」


 ポポちゃん、鋭い。


「おねえさんにつらいおもいをさせるなんて……ゆるさなーい!」


 ドガガガガ! と、ものすごい音が響く。

 シャルさんの額を、ポポちゃんが嘴で何度も突いた音だ。


「ぐはぁ!」


 持っていた荷物を宙に放り投げながら、シャルさんが仰向けに倒れた。

 うわぁ、めちゃくちゃ痛そう。


「だ、大丈夫ですか」


 倒れたシャルさんを覗き込む。


「ふふ……怒った姿も愛らしい」


 あ、なんかまったく問題なさそう。

 額がすごく真っ赤になってるけど。それだけで済むっていうのもすごい。


「おねえさん、やしきまでぼくにのっていって!」


「いいの?」


「もちろん!」


 まだ歩けるぐらいの元気は残っているんだけど……ポポちゃんに乗せてもらえるというのは魅力的な提案だ。

 ポポちゃんが少し身体を屈めてくれる。


「それじゃあ失礼して……よっと」


 すごい。見た目通り、乗り心地もフカフカだ。


「なんて羨ましい……!」


 音もなく起き上がっていたシャルさんが悔しそうに呻くのだった。




 ポポちゃんの上は、とても快適だった。


「とうちゃーく」


 暗い森の中を進み、屋敷の前に帰り着く。


「よいしょ」


 わたしは、ポポちゃんから降りる。


「ありがとう、ポポちゃん」


「どういたしまして~」


 ポポちゃんの頭を撫でる。うーん、やっぱり癒されるなぁ。


「……何事もなかったですね」


 シャルさんが安堵したようにそう口にした。

 そういえば、森に入ってからやたらと周りを気にしていたみたいだったけど……


「どうかしたんですか、シャルさん?」


「ルビィさんは、なにか感じませんでしたか」


「いえ、特には……ちょっと不気味だなってぐらいですね」


「そうですか……」


「え、なにかあるんですか?」


 シャルさんが背後を振り返る。


「昼間とは違い、なにか妙な気配があるような気がしまして」


「それって、魔物ですか?」


「おそらくは……」


 言葉の歯切れがよくない。確信が持てていないような感じだ。


「おかしいなぁ」


 と、ポポちゃんが漏らす。


「どうしたの?」


「このもりに、まものなんていなかったはずなんだけどなぁ」


「そうなんだ……あれ、でもポポちゃんは?」


「ええ?」


「ポポちゃん……ヒポグリフは大別すれば魔物だってクロウ様が言っていたような」


「ははっ」


 あれ、もしかして笑って誤魔化した?


「ルビィさん、ポポはなんと?」


「この森に魔物なんていなかったはず、だそうです」


「ふむ……もしかしたら、これもまた聖女の封印が関係しているのかもしれませんね」


「聖女の、ですか?」


「ええ。この森には聖女の封印が存在していた。それが、魔物除けになっていたのではないかと」


 なるほど。でも封印が消えちゃったから、魔物が寄ってきたのかな。


「……いきなり襲ってきたりしないですよね」


「おねえさん、まものがでても、ぼくがおいはらうよ!」


 なんとも頼もしい。


「屋敷の近くにいる限りは大丈夫でしょう。ですがルビィさん、決して一人で出歩いたりしないように」


「わ、わかりました」


 魔物が出ても、今のわたしには対抗手段がない。

 ……この世界で生きていくなら、なにか考えないと駄目だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=49427196&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ