第二十七話「迷子②」
「こんにちは」
シスターは柔和な声音で、挨拶を口にする。
「こ、こんにちは」
なんだか変にドギマギしてしまう。
近くで見ると、シスターはとても綺麗な人だった。
年齢は、わたしより少し上ぐらいかな。
背丈も一緒ぐらい。ゆったりとした修道服だから身体のラインは判然としないけど、たぶん細身。
頭巾から見える前髪は栗色で、瞳の色は緑だ。
よく見ると、左目の下に小さなホクロがある。
目鼻立ちの整った顔は清らかな雰囲気。もちろん化粧なんてしていないはずなのに、見惚れるほど綺麗だった。これが、すっぴん美女か……。
「あの……どうかなさいましたか?」
「へ?」
シスターが不思議そうな目を向けてくる。
いけない、いけない……見惚れている場合じゃなかった。
「なにか困り事でしょうか」
シスターが優しげな笑みをたたえる。
おお、全身から包容力が溢れ出てるよ。
それにしても……シスターは、どうして声をかけてきてくれたんだろう?
「はい……あれ、でもよくわかりましたね、わたしが困ってるって」
「ふふ、勘です」
シスターの口調には、少し悪戯っぽい響きがあった。
「か、勘ですか」
「はい。教会に来られる悩みを抱えた方は、なんとなくわかるんです」
「ははぁ……なるほど」
つまり、経験に則った勘なわけだ。
「それで……貴女は、どうされましたか?」
「あ、はい。実は……」
ちょっと恥ずかしい気もするけど、わたしはシスターに自分が道に迷ったと説明する。
「わかりました。では、わたくしが市場までご案内いたしましょう」
胸に手を当てて、シスターはそう言ってくれる。
「い、いいんですか?」
正直、そうしてもらえるとかなり助かる。
口で道順を説明されても、一人でちゃんと市場まで行ける自信がない。
「ええ、もちろん」
「それじゃ、お願いします」
「お任せください。あ、そうだわ。神父様に声だけかけてくるので、少しだけここでお待ち頂けますか」
「わかりました」
シスターはこちらに背を向けて、教会の建物へと歩いていく。
その後ろ姿も美人で、ついつい目を奪われてしまった。
まっすぐな背筋で、歩き方も綺麗だ。
「なんというか絵になるなぁ……」
さてと。待ってる間、どこかで休ませてもらおうかな。
ずっと歩きっぱなしで、さすがにちょっと疲れちゃったし。
辺りを見てみると、ちょうど近くにベンチがあった。
よし、あそこで座って待っていよう。
一人で頷いて、わたしはベンチに向かおうとする。
「ガウ!」
不意に背後から犬のような声が聞こえて、わたしは足を止めた。
後ろを確認しようと振り向く。
「きゃっ!」
なにかに衝突して、わたしは石畳に尻餅をついた。
「い、いたたたた……」
情けない声を出すわたしの眼前に、いきなり手が差し出される。
目線を上げると、そこには見知らぬ男性の姿があった。




