第二十六話「迷子」
いきなりだけど、わたしは迷子になってしまった。
「ここ、どこだろう……」
寂れた通りで一人、呆然と立ち尽くす。
シャルさんとはぐれてしまったのは、町を巡っている途中だった。
食事を終えたシャルさんとわたしは、お店を出ると当初の予定通り、町の中を見て回ることにした。
そうして二人で市場に行って……色々なお店を覗いているうちに、気がついたら一人になってしまっていたのだ。
焦ったわたしは人混みの中、シャルさんを探して歩き回ったんだけど……いつの間にかまったく違う場所に来ていた。どうしてこうなった。
「そうだ、市場に戻れば……」
駄目だ。もはや道がわからない。適当に歩いてたら辿り着くかな。
いや、そもそも人に道を訊いたら済む話だよね。
そう思って辺りを見渡してみるけど……
「人が、いない……」
でも、誰かいそうな建物は近くにあった。
大きな円錐形の屋根に十字架が立った建物……たぶん教会だ。
あそこなら、迷子のわたしに道を教えてくれるはずだよね。教会だけに。
……しょうもないこと思ってないで、さっさと行ってみよう。
わたしは通りを歩いて教会に近づいた。開かれた門を抜けて敷地内に入る。
教会の庭には修道服を着たシスターらしき一人の女性と、数人の子供がいた。
子供たちは芝生の上に座っていて、目の前に立つシスターを見上げている。
「シスター、はやくはやく」
子供の一人が、なにかを待ちきれない様子で声を上げる。
「はいはい、わかってますよ」
シスターは困ったように笑みながら、手に持っていた本を開いた。
読み聞かせかな?
「ええと……どこまで読んだかしら」
「聖女様が、悪い吸血鬼の屋敷に乗り込んだところー」
「ああ、そうだったわね」
うん? 聖女に吸血鬼って、もしかして。
わたしは足を止めて、シスターの話に耳を傾ける。
「聖女プリムラと魔法学校の仲間たちが吸血鬼の屋敷に乗り込むと、そこには……」
プリムラ……やっぱり、『サント・ブランシュ』の主人公だ。
すごいな、子供に読み聞かせる本にまでなってるのか。
そういばゲームのエピローグにも、大人物になったような描写があったような気もするな。
「吸血鬼の親玉、黒の王が復活していたのです」
黒の王……アルバート・インバーテッド。クロウとシャルさんのお父さんだ。
本来なら、わたし……『ルベーリア』は彼を復活させる生贄として、命を落とすはずだった。
それが、どういうわけだか生き延びて……聖女の封印に巻き込まれちゃって……
封印が解けたと思ったら二〇〇年後だった、と。
改めて考えると、よくわからない状況だよね。
「怖ろしい化物のように暴れ回る黒の王。聖女プリムラと魔法学校の仲間たちは力を合わせて、黒の王と激しい戦いを繰り広げます」
魔法学校の仲間たちっていうのは、たぶんゲームの攻略キャラたちだよね。
「戦いの末、プリムラは仲間と協力して黒の王を屋敷や、他の吸血鬼ごと封印するのでした」
めでたし、めでたし……巻き込まれた身としては、めでたくないけど。
「吸血鬼との戦いが終わっても、聖女プリムラの冒険は終わりません。むしろ、これが始まりだったのです」
え、そうなの?
「悪の魔法使い……人狼族……封印されし邪竜……プリムラは仲間たちと数々の戦いを繰り広げるのですが、それはまた別のお話しです」
おしまい、とシスターが締めくくる。
子供たちが「えー」と声を上げると、笑顔で「続きはまた明日です」となだめすかした。
わたしもちょっと聞きたいかも。プリムラって、そんなに色々と活躍したんだ。
ふと、シスターと目が合う。
ニコリと微笑まれたので、こちらも笑みを返した。
別のシスターがやって来て、子供たちを教会の建物に引率していく。
子供たちを見送ると、読み聞かせをしていたシスターは、わたしの前までやってきた。
次回の更新は、あさって水曜日になります。
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