表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/71

第二十八話「狼」

 男性は無言で、こちらに手を伸ばしてくれている。

 わたしはおずおずと腕を伸ばし、遠慮がちに男性の手を取った。

 すると男性は、わたしを力強く引っ張り立ち上がらせてくれる。


「あ、ありがとうございます」


「……大丈夫か?」


「は、はい」


 お尻はちょっと痛いけど。


「そうか」


「あの、ごめんなさい」


「あ?」


「いやその、ぶつかっちゃったので……」


 わたしが振り向きざまに衝突したのは、きっとこの男性だ。

 いつの間に背後に立っていたのだろう。まるで気配とかしなかったけど。


「怪我とかしてませんよね?」


「別になんともねえよ」


 ぶっきらぼうに答えて、男性はそっぽを向く。


「よかったです」


 わたしは、ほっと胸を撫で下ろす。

 男性がチラリと目線だけをこちらに向けた。鋭い、琥珀色の目をしている。


「お前、この教会の人間か?」


「いいえ、違いますけど……」


「そうかよ」


 男性は所在なさげに頭をかいた。

 なんだろう。それにしても……よく見るとイケメンだ。

 年齢は、わたし……『ルベーリア』と同じぐらいかな。

 銀色の髪に、端正な顔。長身で均整の取れた身体をしている。

 青色のロングコートに、黒いロングブーツといった感じの出で立ちなんだけど、それよりも気になるのは背中の大きな剣だ。

 全体的な雰囲気も、只者じゃないって感じ。

 この人、いったい……


「ガウガウ!」


 うん? さっき聞こえた犬の鳴き声だ。


「あら……」


 男性の足元にいる、小さな影に気がつく。

 白いフワフワの毛を持った、可愛らしい子犬だった。

 犬種は、なんだろう。シベリアンハスキーかな?

 とにかく、この子が声の主で間違いないだろう。


「可愛い……貴方の犬ですか?」


「違えよ」


「え? 違うんですか?」


 その割には足元にお座りして、嬉しそうに尻尾を振っているけど……人懐っこい子なのかな?

 可愛いな……シャルさんがいたら、とんでもなく喜ぶんじゃないかな。


「いや、そうじゃねえ」


「はい?」


「こいつはオレのだ」


「え、どっちなんですか」


 さっきは違うって言ったじゃない。


「だから違うってのは、こいつは犬じゃねえって話だ」


 顔をしかめながら、男性はそう説明する。


「犬じゃない?」


「ああ、こいつは狼だ」


 狼? 狼って、あの狼? ウルフ?


「……またまた、見かけによらず冗談がうまい」


「冗談じゃねえよ。ていうか見かけによらずってなんだ、オイ」


 こんなに可愛いのに、狼……うーん、信じられない。

 わたしは屈み込んで、ワンちゃん……じゃなくて狼ちゃんに「おいでおいで」と手招きしてみる。

 すると、狼ちゃんはテテテとわたしの前まで走り寄ってきてくれた。


「ガウガウ」


 わたしに向かって、小さく鳴き声を上げる。

 なにかを喋っているようにも思えるけど……

 トッブウド・イタリベーシャを使えば、この子とも会話できるんだろうな。

 でも、魔法って人前で使っても大丈夫なのだろうか。


 わたしの知る『サント・ブランシュ』の世界では、魔法っていうのは当たり前に存在している物だったと思う。

 でも、ここは二〇〇年後の世界だ。

 もしも魔法が当たり前じゃなくなっていたら?

 ……うん、念のため魔法は使わないでおこう。

 狼ちゃんとお喋りできないのは、かなり残念だけれど。

 せめて頭だけでもナデナデしておこう。

 わたしは手を伸ばし、狼ちゃんの頭をそっと撫でる。


「ガウガウガウ」


 狼ちゃんは目を細め、尻尾を左右にフリフリ。

 喜んでくれている、のかな?


「……珍しいな、こいつがオレ以外に懐くなんて」


 不意に男性がそう呟いた。


「そうなんですか?」


「ああ」


 ちょっと意外かも。すごく人懐っこく見えるんだけどな。

 やっぱり、お喋りできないのは残念……そうだ、名前ぐらいは聞いておこう。


「お名前はなんていうんですか?」


「あ? ……ミカエラだ」


「へぇ~、ミカエラちゃんですか。名前も可愛いんですね」


 わたしは狼ちゃん……ミカエラちゃんの頬を撫でる。


「ガフフフッ」


 なぜかミカエラちゃんが変な声で鳴いた。どうしたんだろう。

 鳴き声っていうか、まるで笑い声みたいだったような。


「おい……」  


「え?」


 男性が出したのは、なんだか怒っているような戸惑っているような、微妙な声色だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=49427196&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ