第十六話「補給」
クロウの自室は、サロンと同じく二階にある。
わたしは廊下を移動して、クロウの自室前までやってきた。
それにしても、話ってなんだろう。まぁ、中に入ればわかるよね。
わたしは木製の扉をノックする。
「入れ」
返事はすぐだった。
扉を開き、わたしは部屋の中に進む。
「失礼します……うっ」
室内を目にしたわたしは、思わず呻いてしまった。
おそらくは、とっても広い部屋。だけど、ほとんどの空間がたくさんの本で埋め尽くされている。
たくさんの本は整理されているわけでもなく、部屋のあちこちに乱雑に散らばったり、積み上げられたりしていた。
室内は埃っぽくて、隅には蜘蛛の巣も……
はっきり言って、クロウの自室は汚い。
なんか意外……きちんとしてそうなイメージなんだけどな。
「おい、なにをしてる?」
部屋の奥にある書斎机から、クロウが声をかけてきた。
「さっさと入ってこい」
「は、はい……」
かろうじて残ってる足の踏み場を通って、わたしは書斎机の前まで進む。
うーん、机の上も本でいっぱいだ。
ざっと見た感じ、ほとんど魔法に関する本みたい。
クロウは読書が好きなのかな。
……いや、ここまで来ると、単純に好きっていうレベルじゃなさそう。
なにかの研究をしている……とか?
それにしても……本当に散らかってる。
ああもう……片付けたくてウズウズしてきた。
「おい」
椅子に座って机に頬杖をつきながら、クロウがわたしの顔を見上げてきた。
「顔が引きつってるぞ、どうした?」
「へ? いや、なんでもありません、なんでも」
わたしは誤魔化すように手を振る。
部屋の惨状については意識しないことにしよう。
「それで……お話しって、なんでしょうか?」
「単刀直入に言う」
低い声音で、クロウが告げた。
わたしは喉を鳴らす。なんだろう、この緊張感。
「ルビィ」
「は、はい……」
「お前の血を吸わせろ」
「――――はい?」
いきなりの申し出に、わたしは戸惑うしかない。
「な、なんでですか?」
とりあえず理由を訊ねてみる。
すると、クロウは眉をしかめた。
「なんでもなにも、俺が吸血鬼だからだ」
あ、うん。そうだよね。
血を吸うから吸血鬼なんだし。
「それはわかってます。どうして、わたしの血を吸うんですか」
「……説明しないとわからないのか」
クロウが嘆息する。なんか腹立つ。
「吸血鬼は活動するだけで、それなりの魔力を消費する生き物だ。だから魔力が多く含まれる血液を摂取する必要がある」
ふむふむ。それが、この世界における吸血鬼なのか。
「あの……なにか他の物で代用できないんですか?」
吸血鬼を扱う作品には、前世でそれなりに触れたことがある。
そういう作品の中には、血の代わりになる物を摂取したりっていうパターンもあったと思う。
「無理だ」
はっきりと言われてしまった。
「えぇ……でも、魔力が補給できればいいんですよね? なにか方法はないんですか? 例えば、動物の血を保存してたりとか……」
「俺のような純血種より下位の吸血鬼ならば、それで事足りるだろうがな」
出たよ、純血種。ちょっとなに言ってるかわからないです。
「ちなみに……血を吸わないとどうなるんですか?」
「魔力が枯渇して、灰になって消える――と言われているな」
つまり死ぬ、というか消滅しちゃうわけだ。
「その前に、理性をなくす」
「はあ……」
「正直な話……俺は今、その危険が迫っている」
「…………ええ?」
とてもそんな風には感じられないけど。偉そうだし。
でも……言われてみると、心なしか体調が悪そうかも?
「理性がなくなると、どうなるんですか」
「そうだな……まずは吸血衝動を抑えられなくなって、お前を襲うだろう」
「こ、困ります」
わたしじゃ、吸血鬼に……クロウに対抗できないだろう。
「ふ……困る、か。ならば、大人しく血を吸わせろ」
「それも困ります」
「……なぜだ?」
いや、なぜって……
「血を吸うって、あれですよね。首筋とかをこう、ガブッとやるんですよね」
「まあ、そうなるな」
「痛いじゃないですか」
あんまり痛いのは、ちょっと勘弁して欲しい。
「心配するな。そこまで痛みは感じないはずだ。チクリとする程度だぞ」
……本当かなあ。とても信じられない。
「……まずいな」
不意にそう呟いて、クロウはガタリと椅子から立ち上がる。
「ど、どうしたんです?」
「…………」
クロウは無言で、わたしの方へ近づいてきた。




