見送りも賑やかに
「では、マサヤ殿達は一度テレシー王国に帰還するのですね?」
ティエル女王の問いかけに、僕とリアは頷き、モモと、途中から呼ばれて合流したトラムスは首をかしげていた。
ここは女王の謁見の間である。滅多に座ることがないという玉座に腰掛けているティエル女王は、流石威厳を感じさせる。
「テレシー王国もそうなんですが、ルーラン帝国へと一度戻らないといけないこともありまして」
「例の“女神の聖約”ですか。……難儀なものですね」
ほうっと悩ましげにため息をつくティエル女王。僕とリアも同じ気持ちだ。またルーラン帝国へと向かえば、一騒動起きる予感しかなかった。
「では、既に国境警備の者には伝令を出しておりますので、すぐにでも出発することができますが……いかがなさいますか?」
ティエル女王はルイア王国にしばらく留まってもいいのではないかと引き止めてくれているようだが、生憎と僕たちの旅はそこまで悠長にはしていられない。
魔族、魔王……そして女神様の思惑。何もかもが謎だらけの中でも、僕たちは前に進まなくてはならないのだから。
「いえ、ご厚意はありがたいのですけど、やはり急ぎ戻りたいと……聖剣レジェリアの輝きが鈍くなってきていますので」
僕の“人の願いを叶える魔法”なら、すぐにでもルーラン帝国へと赴くことができるが、またしても王都を混乱へと導くのは本意ではない。
「わかりました。では聖剣ウドゥルーは正式に勇者リアに貸し与えるものとします。“女神様の聖約”があるのなら、また近い内に会うことになるでしょうし」
にっこりと微笑むティエル女王に、僕たちは苦笑した。エルフの時間間隔はかなり人間とズレている。長寿の民との差を垣間見た気がした。
「では、女王陛下。我々はこれにて失礼致します」
僕が下げていた頭を一段と深く下げると、ティエル女王は意外そうな声を上げた。
「あら、マサヤ殿は私には見送りもさせてくれないのですね……寂しいことです」
よよよと明らかな泣き真似をする女王の横で、ずっと彫像のように動かなかった近衛兵のエルフさんが激高する。
「いくら勇者といえど女王を悲しませるなど不敬ですよ!」
「ちょっと待ってくださいよ、あなたの目節穴ですか!?」
「更に私まで侮辱するとはっ!」
「聞いて! お願いだから話し聞いて!」
はて、前にもこんなことがあったような気がする。……きっと気のせいだ。
「わかりました! ぜひ見送りにいらしてください!!」
半ばやけになって叫ぶと、もう一人控えていた近衛兵がいきり立つ。
「勇者殿、女王陛下に見送りに来いとは……!」
「めんどくさいなこの人達!?」
「女王陛下、いい加減止めてあげてください!」
リアの懇願に、ようやく女王は一言「冗談ですよ」等とのたまった。しかしその言葉で近衛の二人は矛を収める。
「陛下がそうおっしゃるなら」
僕は出発前だというのに無茶苦茶精神的に疲労してしまった。
その後、テレシー王国行きの馬車を手配してもらい、ティエル女王はじめエルフの皆々様に盛大な見送りをされた。
「道中お気をつけて。エルフ族は、この感謝にいつか必ず応える事を約束しましょう」
ティエル女王が珍しく真面目な顔で手を差し出す。僕は、その手をしっかりと握って答えた。
「あなた方が安心して暮らせる世界を、僕たちは作ってきます。期待しててください」
僕の返答が意外だったのか、ティエル女王は、まあまあと面白そうに微笑んで手を解いた。そこへ、両腕を組んで得意げに前に出たのはトラムスだった。
「へ、このへっぽこ勇者の事なら僕が見張っていますから大丈夫ですよ、女王陛下!」
「だって、リア」
「ごめんね、へっぽこで……」
「け、決して勇者リアの事を言ったわけでは!? おい、マサヤ! 誤解を招くような事を言うな!」
「でもこの中で一番何もしてないのはトラムスなのですー」
「なっ……!?」
モモの何気ない一言が、グッサリといたいけな少年の心を抉る。モモよ、それはあんまりな言葉だぞ。
「ふふ、本当にあなた方は見ていて飽きませんね。それでは名残惜しいですが、そろそろ出立された方が良いでしょう」
「ええ、ティエル女王。お元気で」
「また聖剣の力の補充に必ず来ますから!」
「モモもみんなにまた遊んでもらうのですー」
にっこにこしてるモモに思わず僕も頬が緩む。和気あいあいとした中で、唯一渋い顔をしているのはトラムスだった。
「ま、まあ次に来る時は僕は留守番しているかな」
さっきまでの威勢はどこへやら、何かに怯えるようなトラムス。心なしか体が震えているようにも見える。
「ここは……野獣の国だ……下手したら“食われる”……」
うん、聞かなかったことにしよう。
馬車へと乗り込み、お別れの挨拶とばかりに皆に盛大に手を振るリア達と、フィジーの馬上から手を振る僕。
「皆さん、また来ますからー!!」
「魔獣狩り、また一緒にやりましょうねー!!」
「あはははは!」
モモだけテンション爆上がりです。
「やっと解放されるのか……」
虚ろな目をしたトラムスは馬車の奥に引っ込んでいた。
こうして、僕たちはルイア王国の首都を後にしたのだった。
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