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無垢なる疑問

「ご苦労様でした、三人方……。ところで、マサヤ殿は何故そんなにボロボロなのでしょう?」


 若干引き気味のティエル女王を前に、膝をついている僕ら三人は顔をそむけた。

 

「ま、まあいいでしょう。この度の活躍、ルイア王国の代表、女王ティエルとして御礼申し上げます」


 ティエル女王は厳かに告げると、深々と頭を下げた。それに対して僕たちは慌てて立ち上がる。


「そ、そんな! 元はといえば聖剣ウドゥルーを借り受けに来たついでのことなんですから! 頭を上げてください!」


 僕が言い繕うと、リアもそれに続いた。


「そうですよ、女王様! 私達は自分のためにしたことですし!」


 そしてモモも立ち上がり――。

 

「頭が高いのです!」


 とんでもない一言を言い放った。

 

「「こらああぁぁっ!!?」」


 パンパンッ! と僕とリアの平手が連続でモモの後頭部にヒットする。あうあうと痛みにうずくまるモモに、流石にちょっとやりすぎたかと罪悪感を感じていたら。

 

「まあまあ、モモさんはどこでそんな言葉を覚えてきたのでしょうね?」


 眼を薄く細めた笑顔のティエル女王に、僕たちは全力で首を横に振る。

 

「「違うんです違うんです!」」


「何が違うというのでしょう?」


 僕たちは必死に弁明した。ダークエルフの里で下にも置かない扱いを受けて、増長をしてしまったのであろうことを力説する。

 

「……なるほど、ドラゴン様の眷属として、ダークエルフの方々に歓待されていたせいだと……」


「そうですそうです!」


「まあ、ドラゴン様の脅威は私達も知っていますし、それを救った英雄ならばその扱いも妥当と言えるでしょう」


 どうやら納得してもらえたみたいで、僕とリアはほっと胸をなでおろした。

 

「うぅーー……痛いのですー」


 涙目で立ち上がるモモに、流石にばつが悪くなってしまう。とはいえ、言わなければいけないことはきちんと教え込んでおかなければならない。

 

「モモ、人に対してあんな態度を取っちゃダメだ」


 しゃがんで目線を合わせ、僕はモモに優しく諭す。

 

「どうしてダメなのです?」


「モモがもし、トラムスに同じように言われたらどう感じる?」


「……考えたら何だかムカムカしてきたのです」


「だろう? 人にされて嫌なことは、自分がしてはいけないんだ。解るかい?」


 モモはしばらく、何事か考えているように俯いていた。そして顔をあげると、純粋無垢な表情で、とても鋭いことを指摘した。

 

「なら、モモは殺されるのは嫌なのです。でもモモはおとーさんの同類を殺したのは、いいのです?」


 僕とリアは、ハッとなってお互い顔を見合わせた。

 

「ねえねえ、モモは……殺されたほうが良かったのです?」


 じわり、と涙が目尻に浮かんだモモに、僕は、自分の素直な気持ちをまっすぐに伝える事にした。


「それは違うんだよ、モモ。だってモモは悪いことを、悪いことだと教えたら解ってくれるだろう?」


「うん……」


「でも、あのドラゴンは違う。あいつは悪いことをずっとしてきて、みんなに迷惑をかけてきたんだ」


「じゃあモモも悪いことをしたら、リアに頭かち割られるのです?」


「そんなことしないわよ!」


 いきなり引き合いに出されて、思わず声を上げるリア。

 

「もし、もしだよ。モモが悪いことを、悪いことと思わずにそれを繰り返すとしたら――」


「したら――?」


 僕は、ここでの返答を間違えると今後のこの子の人生に、大きな影響が出るのではと緊張して喉がカラカラに乾いていた。それでも、僕の素直な気持ちをなんとか絞り出す。

 

「僕はそれでも、モモを説得するよ」


「ふぇ?」


 モモにとっては予想外の言葉だったのか、ぽかんと口を開けている。

 

「だって、モモは僕たちの家族じゃないか。家族をそんな簡単に見捨てたりするもんか」


「う……うぅ……マサヤぁ……」


 折角キレイに仕立てた衣装がぐしゃぐしゃになるのも構わずに、モモは僕にすがりついて泣き始めた。僕は、そんな純真なこの子の頭をなでながら、あのドラゴン様に祈るような気持ちを抱いていた。

 

(これで、良かったんですよね。この子のことは見捨てない。絶対に、まっすぐな良い子に育ててみせます)


 振り返ったリアを確認すると、彼女も優しく微笑んで一緒にモモの背中をなでつけてくれた。子供の成長は早い。今までに疑問に思っていなかったような事に興味を持ち、時には大人も唸るような難題を突きつけてくる。でも。

 

(それでも。僕たちは家族なんだから。絶対に見捨てたりはしない)


 ふと暖かい視線を感じて顔を上げれば、そこには先程とは打って変わって慈しむようにこちらを見ているティエル女王がいた。僕は、思わず照れくさくなってふいと顔を背けてしまうのだった。


次回は8時更新です

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