締まらない出立
「おほん。さて、勇者殿方とのお別れは大変! 名残惜しいですが! そろそろ出立していたかがねば困りますね」
ワンダさんのアクセントが強くなるたびに、彼女の後ろにいる見送りに来てくれたエルフの皆さんがびくりと肩をすくめる。その面子は先程集会場で大騒ぎしていた人々がほとんどだった。
「は、ははは……。それでは、僕たちはルイア国首都へ戻ります。お借り受けした聖剣ウドゥルーでのご活躍に期待してください。
「そうね! この子となら魔王なんて楽勝で倒しちゃうんだから!」
ブン! と大剣を軽々と振り回すリア。それをきゃっきゃと喜びながら騒ぐモモ。
「さすがリアなのです!」
「それじゃあ、ワンダさん。お元気で」
僕がすっと手を差し出すと、ワンダさんはフッと微笑むと、その手をしっかりと握ってくれた。
「こちらこそ、ドラゴン様を倒して頂いて本当に感謝しています。魔族を打ち倒してくれたことも」
その言葉に、僕は思わず顔を歪めてしまったが、すぐに気を取り直して腕を振った。
「ワンダさん、また会いましょうね!」
リアが声を上げ、ワンダさんが僕と手を離すと、今度はリアが手を差し出し、握手を求める。
「ええ! その時はまた集落を上げて歓迎致しますので! では頼むぞ、タタン、モード、コラ!」
「「「ははっ、お任せを!」」」
ワンダさんに膝を付き、頭を垂れる三人。結局帰りもこの三人になるのか。まあ、これもワンダさんの気遣いなのかな。彼女たちとは多少とはいえ知己があるし。でも……。
「あの三人、後で大変だろうな……」
何しろ、ワンダさんの後ろに集まっている皆が、三人にとても恨みがましい視線を向けていて非常に不穏である。
「あ、あはは」
流石のリアも空笑いでごまかしていた。
「では勇者様方、お乗りくださいませ!」
まるで視線から逃れるように、いつの間にか馬車に乗り込んでいた三人は、僕たちの乗車を促してくる。その顔には若干の冷や汗が浮かんでいるのは、気のせいというわけではないだろう。
リアとモモが馬車に乗り込んでいる間に、フィジーの手綱を持っていてくれた人にお礼を言い、ぽんぽんとフィジーの背中をなでつけた。
「帰りも頼むよ、フィジー」
(快適な乗り心地をお約束しますよ)
ヒヒン! といなないたフィジーに、僕は鐙に足をかけて跨った。フィジーに騎乗するのにも大分慣れてきた。
「それでは出発します! ハイヨー!」
タタンが御者台からピシン! と、手綱を打って、馬車が進み出す。
「みんなー! 元気でねー!」
「また来るのですー!」
「さようなら、皆さん! また、必ず来ます!」
僕たちの別れの言葉に、ダークエルフのみんなは手を振って応えてくれる。
『さようならー!!』
こうして、ダークエルフの里事件は無事に終わったのだった。
その後の旅程は順調で、先触れに連絡を受けていた国境……今となってはただの領の境界となってしまったが、そこもすんなりと通ることが出来、僕たちはまずルイア王国首都へと帰還した。
ルイア王国の首都の入り口まで送ってもらったところで、モモとリアは馬車を降りる。別れの挨拶をしたいというので、タタン達三人も馬車を降り、僕たちと向かい合った。
「それでは私達はこれで……。あ、あの、勇者様!」
「「なに?」」
タタンの言葉に、僕とリアはユニゾンで返答する。するとタタンは慌てたように言い直した。
「す、すみません! 勇者マサヤ様!」
「なにかな」
「さ、最後にお願いが……ごにょごにょ」
「え、聞こえないよ?」
タタンが手招きをしてこいこいするので、仕方なく耳を近づけるべく、僕は不用意に近づいてしまった。
「えいっ!」
「えっ!?」
突然ぎゅっと抱きしめられて、柔らかな感触と女の人のいい香りに頭がくらくらする。が、その天国もすっと離れてしまった。
「や、やったー! 勇者様抱きしめちゃった!」
「ず、ずるいぞタタン!」
「私達も!」
そしてモード、コラと続けざまに抱きしめられ、その後は恥ずかしさからか三人は逃げるように馬車に乗り込んだ。
「それでは勇者様方、お元気で! またお会いできることを願っています!!」
ぼんやりと走り行く馬車を眺めていると、後ろから、謎の圧が背中にビシビシと当たってきた。
「へぇー、マサヤ、良かったわね?」
「マサヤはモテモテなのですー?」
「ちゃうねん」
振り返った僕の眼には、口端を不気味に釣り上がらせた二人が待ち構えていた。
「またそんな意味のわからない事言って、ごまかすなーっ!!?」
「なのですーーー!?」
「ギャーーーー!!?」
暮れなずむ首都に、一人の勇者の絶叫が木霊したという。
次回は7時更新です




