ドラゴンのこどもは凄いのです!
緊張が、聖剣の間を満たす。僕とリア、モモ。そして何故かティエル女王が兵士達の制止を振り切ってここにとどまっていた。正直、女王様なのだから危ないことはしてほしくないのだが……。
「やっぱり帰りませんか?」
「いえー、私には事の顛末を見届ける義務がありますのでー」
ちなみにこのやりとりは4回目である。その度に頑としてノーを突きつけられる僕に、リアが呆れ顔をする。
「もういい加減に諦めなさい、マサヤ。女王陛下はマサヤがお守りするって、兵士さん達と約束したでしょう?」
それを言われると弱い。兵士とティエル女王の押し問答を無理やり打ち切るために、僕自身が提案したのだった。
「頼りにしてますよ、勇者殿」
ウキウキしたようなティエル女王に、僕はうんざりとした顔を見せる。しかし彼女の鉄壁の笑顔を崩す事は出来なかった。
「もちろん、勇者リアやモモさんにも期待していますからね」
「ええ、お任せください女王陛下!」
「モモにお任せなのですー!」
得意げな二人はとても緊張しているようには見えない。その胆力はとてもうらやましい。自分は、先程から何度も腰に下げている聖剣レジェリアの感触を確かめている。
「頼むぞ、まだナマクラにはなってくれるなよ……」
「マサヤ、聖剣がどうかしたの?」
「ああ、リアには話しておいた方がいいか。実は……」
僕は、聖剣に科せられた聖約について、女神様から聞いた通りの話をそのまま伝えた。聞き終えたリアは、顔をしかめて修復された大樹の聖剣をチラリと見る。
「それじゃあ、あの聖剣もどんどん使っていくうちに切れ味が悪くなっていくの?」
「あっ!?」
しまった! 大樹の聖剣についての聖約については話を聞いてくるの忘れていた!?
「マサヤ、まさかとは思うけど、この聖剣については何も聞かずじまい、なんてことはないでしょうね?」
笑顔のリアがとてつもなく怖い。
「こ、この事件が解決したら必ず聞いてくるから!」
「全く、マサヤは肝心なところが抜けてるんだから……」
ぬぐぅ、このポンコツ勇者には言われたくないが、言い返せないのが尚腹立たしい。こんな時はモモを見て癒やされよう。と、モモの方を振り返ると、彼女はぽかんとした顔で僕の後ろを凝視していた。
「?」
疑問に思って振り返るも、そこには誰もいない。聖剣が相変わらず大樹に刺さったままだ。
「どうしたんだい、モモ?」
「誰か剣に近づいているのです!」
「えっ!?」
僕とリア、ティエル女王が揃って聖剣を見つめるも、やはり誰もいない。しかしモモがこんな嘘をつくはずもない。僕はモモの言葉を信じ、聖剣の近くまで踏み込んで一薙ぎに剣を振り払った。その瞬間、確かに何者かが地をを蹴る足音が聞こえた。
「見えない誰かがいる! モモ、リア、注意して!!」
「モモには見えているのです!」
「え、な、何だって?」
周囲に動揺したような気配が漂うが、すぐに殺気が膨れ上がる。マズイ! この中で唯一敵のことを感知出来るモモが狙われる!
「リア! モモを守って!!」
「言われ、なくてもおおぉぉぉ!!」
リアは僕が叫ぶよりも早く動き出していた。モモを背中に庇うように立ちはだかると、背後のモモに視線を投げる。
「どっちか教えて、モモ!」
「あっちとこっち、そっちなのです!」
敵は三人か! リアは、モモの指示した方向に的確に大剣を振るい、牽制する。ドガアァン! と床を派手に砕きながら、その破片が敵に当たったのだろう、空中に突然血が舞い、敵の姿が徐々に風景から現れるようにその姿を見せる。それはまさしく、肌の色が褐色の美形な女性が三人、尖った耳から間違いなく、彼女たちがダークエルフなのだろう。
「ちっ、こんな厄介な奴がいるなど聞いていないぞ!」
「あのひょろいやつは後回し! とりあえずこの二人を始末するよ!」
「「了解」」
ひょろい奴こと僕の事は無視して、二人に狙いを絞った三人のダークエルフ。
「ふん、たった三人でこの私、赤い死神の勇者リアに敵うと思わないことね!!」
リアの宣言に、ダークエルフたちの動きが一瞬止まる。
「ゆ、勇者だと!? やはり聖剣狙いで来たのか!」
「うろたえるな! 所詮は人の子、百数十年を生きてきた我らの敵ではない!」
「モモもいるのです! うぅぅぅぅうううう……!!」
ダークエルフ達の言葉に、戦意を高揚させるように唸るモモ。そして、ドラゴンの威圧が聖剣の間に轟いた。
「グルルルルルアアァアァァァァァァ!!!」
「「「ひいいぃぃぃ!?」」」
モモの威圧を受けて、ダークエルフ達は顔を真っ青にさせて持っていた武器を取り落とす。そのまま拾い上げることもなく、がくがくと震えながら皆一斉に平伏した。
「え……っと。これ、どういうこと?」
「私にも解りませんねー。どういうことなんでしょう?」
リアとティエル女王が、首を傾げている間にも、ダークエルフ達は震えながらモモに対して、地面に頭をこすりつけるようにして必死に許しを請うていた。
「ド、ドドドドドラゴン様の眷属とは、知らぬこととは言え……刃を向けた事、何卒お許しくださいぃぃ!!」
「「お許しください!!」」
自分に頭を下げているダークエルフ達を前にして、モモはドヤァと満足げに胸を反り返らせて偉ぶっていた。
次回は9時更新です




