ウドゥルーの輝き
聖剣の間、そこで正座して横一列に並んでいるダークエルフ達。それを見下ろしながら、僕たちは混乱の只中にいた。
「……それで、どうしてモモがドラゴンの眷属だってわかったの?」
「貴様に答える義理はないっ!」
キッと僕を睨んで拒否の姿勢を示すダークエルフの一人。他の二人も同意なのだろう、沈黙を貫いている。
「どうしてモモの事が解ったのです?」
「ハイッ! モモ様の先程の威圧、我々は何度となく受けてきましたので!」
モモの問いには素直に応じるダークエルフ達。心なしか、若干カタカタと震えているようにも見える。しかしまじまじとダークエルフ達を見詰めて気づいたが、この国のエルフとは確かな差異があるようだった。この国のエルフたちの髪色は皆太陽のような金色に輝いているのに対して、ダークエルフ達の髪は夜空に浮かぶ月のように白銀色だった。肌は褐色であり、中でも目を引くのは、その、胸部のボリュームである。
ルイア王国のエルフ達は皆慎ましやかな胸をしているのに対して、ダークエルフ達は皆胸部の布を押し上げる程に張り詰めている。そこで異常な殺気を感じてハッと振り向けば、何故かティエル女王がこちらに恐ろしい程の笑顔を向けてきていた。僕は、慌てて邪な考えを押し流すと、彼女達の言葉を思い返す。
「威圧を何度も受けていた、ってことは、ドラゴンがあなた達の国にいるってこと?」
「…………」
今度は完全な無視をされた。一々モモに代弁させるのは骨が折れるため、僕は一計を案じてモモを呼び寄せる。
「モモ、こっちにおいで」
「ハイなのですー!」
嬉しそうにテテテと近寄ってきたモモに、ダークエルフ達は皆ぎょっとしたように目を見開いている。そして、見せつけるようにこれでもかとモモを可愛がった。
「よしよし、今回はモモのお手柄だな! 昨日の国境線護衛も頑張ってくれたみたいだし、モモには特別にお腹いっぱいお菓子をあげる」
「わあ、お菓子なのです!? マサヤ大好きなのですー!!」
びょんとジャンプして首に抱きついてきたモモに、ダークエルフ達は遂にあんぐりと口を開けて信じられないモノを見たように固まってしまった。これは十分な効果アリだな、と確信出来た所で、僕はモモを静かに下ろすとその頭を優しく撫でる。モモは甘えてくる猫のように蕩けたような表情で、僕の撫で回しを受け入れている。
「さて、これで解ってもらえたと思うけど。僕とここにいる勇者リアはモモの保護者、親も同然なんだ」
「な――!? ド、ドラゴン様の眷属の親が人間族……。……?」
しまった、一度に情報を詰め込みすぎたか? 彼女達は理解の限界を超えたようで、白目でぷすぷすと頭から煙を吹いていた。視界の端でリアが何故か顔を真赤にしてもじもじとしていたが、放っておこう。
「彼女の育ての親に当たるドラゴン様に直々に頼まれたんだ。だから、僕たちはそのドラゴン様の代理と思って話してくれると、助かるな」
それでようやく得心がいったのか、彼女達は表情を改める。そしてまた深く頭を下げた。
「知らぬこととはいえ、先程までの非礼の数々、お詫び申し上げる!」
「「申し訳ありません!!」」
この手の平返しには僕も驚いたが、それだけ彼女達にとってドラゴンというのは脅威なのだろう。実際、僕だってあんなのに全力でかかってこられたら一撃で消し飛ばされる自信がある。いや、下手すればモモにすら負けるかも――。いや、いいんだ。これは適材適所なんだ。割と自分でも無理があると思う論法で納得させ、今度こそダークエルフ達から詳しい事情を聞くことが出来た。
彼女達、ダークエルフの里に流浪のドラゴンが度々来るようになってもう何十年。基本的に人を襲う事はないそうなのだが、食料庫を襲撃されてはパクリパクリと食べられてほとほと困っていたのだという。そこへ、魔族が現れた。最初はもちろん警戒していた彼女達だったが、神樹の聖剣を持ってくればドラゴンを退ける事が出来ると言われ、藁にもすがる思いでその話に乗ったらしい。
「それ、魔族が仕組んだ事じゃないんですか?」
話を聞き終えての僕の感想はその一言に尽きた。どう考えてもマッチポンプだろう。
「「「えっ?」」」
しかしよく解っていない様子のダークエルフ達に、僕は懇切丁寧に説明する。
「魔族にとって、聖剣はとても邪魔な存在のはずです。しかも魔法文明が発達しているエルフの国においては、防備もかなりのものでしょう。そこでエルフ同士で争わせて、聖剣を手に入れるように画策したんじゃないですか」
「わ、私達が謀られていたということか……!」
怒りに打ち震えるダークエルフの人。いやいや、これちょっと考えたら解るんじゃないの?
(彼女達はちょっと猪突猛進な所がありまして、権謀術数にはとても疎いのです)
ティエル女王がこっそりと耳打ちしてくれたが、それは彼女達が馬鹿であると言っているようなものだった。
「なんたる屈辱! おのれ魔族め、やはり信用出来ぬ奴ら! モモ様、勇者殿! 身勝手な事は承知な上、何卒、何卒そのお力をお貸し下さい!」
今まで見た中で一番の土下座を決める三人。僕は困った顔でティエル女王とリアを見るが、二人共まだどうすべきか迷っているようで、ふるふると首を振った。そんな中、意外な人物が声を張り上げる。
「モモにお任せなのです! おとーさんの仲間とはいえ、人を困らせてはいけないのです!!」
「おおっ、モモ様!!」
感涙しているダークエルフ達。しかし慌てたのは僕らだ。
「ちょ、ちょっとモモ! 何を言っているんだ、相手はとっても危険なんだぞ!?」
僕が説得しようとすると、モモは振り向いて満面の笑みで答えた。
「大丈夫なのです!」
「どこからその自信が出てくるのか……」
思わず肩の力が抜けた僕に、モモの次の言葉が突き刺さる。
「だって、モモとモモの家族のマサヤやリアが負けるはずないのです!」
その信頼に衝撃を受けたのはリアも同じようで、僕とリアを顔を見合わせ数秒、そしてニヤリと笑うしかなかった。
「そういうことなら、仕方ないわね。この赤い死神の勇者リアが、ドラゴンだろうが魔族だろうが蹴散らしてあげるわ!」
「僕も微力ながらお手伝いするよ。撹乱くらいは出来るはずだからね」
「モモもがんばるのですー!!」
僕たち三人の気持ちが一つになったのを見届けたのか、ティエル女王がぽんと手を打って爆弾発言をした。
「それならば勇者リア。この神樹の聖剣、“聖剣ウドゥルー”を持っていくと良いでしょう」
「「女王様っ!?」」
これに驚いたのは聖剣の間に集まっていた兵士達だ。皆ざわざわと落ち着きなく騒ぎ始める。
「いいのですよ、元々の約束はダークエルフ達の意図を聞き出して聖剣を諦めさせる代わりに貸出すというもの。“聖剣ウドゥルー”は一度は勇者リアに応えたようですし、次は大丈夫でしょう」
「しかし!」
「これは女王の決定です」
「ハ、ハハァーッ」
尚も言い募ろうとした兵士の一人をピシャリと黙らせ、女王陛下はリアに振り向く。
「勇者リア、今一度聖剣の声に耳を傾けるのです。出来ますか?」
「当然よ! 何しろ私は勇者オブ勇者なんだから!」
そして皆が見守る中、リアはゆっくりと“聖剣ウドゥルー”へと近寄り、その柄をしっかりと握りしめる。
「前はごめん、もうちょっとアナタの声をしっかり聞くべきだったわね。さあ、私と一緒に行きましょう……!」
リアは聖剣に語りかけながら、慎重に力を込める。やがて、ズ、ズズズと柄から刀身が見え始め、そのまま一気に引き抜いた。
「さあ! 私と冒険の始まりよ!!」
室内の明かりにきらびやかに照らされて、産声を上げたかのように輝く聖剣を掲げるリアは、絵画のような神々しい姿だった――。
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