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第12話

 リザードマンの男三人はハルシウスとルミオを後ろに連れて歩いている。入り組んでいるだけでなく、左右を壁で囲まれていて代り映えのない非常に分かりづらそうな道だが、男たちは全て覚えているかのよう立ち止まることなく進んでいく。ハルシウスは感心するが、当然の疑問をぶつける。

「のう、一体どこに向かっとるのじゃ?」

一人が後ろを振り向いて二人を見る。

「闘技場だよ。俺たちはお前をそこの選手だと思ってたんだ」

「この国にそんな所あるんですか? 聞いたことないですけど」

道を進んでいくにつれて暗さは増し、腐敗集が強く漂ってくる。

「そりゃそうだろうな。裏でやってるんだからただの住人は知らないだろうよ。ここを見れば分かるだろ、お前らはこの国の裏に近づいているのさ。知ってるのは俺たちみたいなはみ出ものとこの国のお偉いさん。そして外からやってくる金持ちどもだ」

「ほう。裏でやるということは後ろめたいものなのじゃな」

「そうだな。とんでもない額が一瞬で動くぞ、ここは。完全に違法だ。その上安全で売ってるこの国にあるんだからな、今更バレる訳には行かないんだろうよ」

ハルシウスは納得して呟いた。ルミオは暗さに視界が心配なのか、ハルシウスから離れないように歩調を気にしながら歩く。

「確かに、ここの警備会社は信頼を得てると聞いたぞ。それを失うのは国としては恐ろしいじゃろうな。しかし世界中から集まるとは凄いのう。一体どれ程のものなのか……」

「それは着けば分かるぞ。もう少しで着くから黙ってついてきな」

 男がそう言ってから暫く歩くと、壁に囲まれた行き止まりに着いた。二人は警戒して男たちを見るが、すぐに納得した。前方の壁に、一見分かりづらいのだが扉がついているのだ。男がドアノブを握って開くと、下へと降りる階段が続いていた。階段の先は更に闇が濃くなり、何も見えない。五人が転ばないように足元に気を付けて降りると、男たちが立ち止まり、二人も足を止める。

「良いか、腰を抜かすんじゃねーぞ?」

男たちの一人がそういうと、ギギギという音とともに、光が入ってきた。そこには更にドアがあったようで、ゆっくりと開かれる。

 一面に広がっているのは、地下にあるとは思えない程大きな会場だった。円状に数えきれない程の人々が広がっていて、大きく空いた中央に向かって思い思いに叫んでいる。あまりの騒がしさにルミオは耳を塞いだ。

「負けたら許さねえぞ!」

「やったぞい! これで一億ミルの勝ちじゃ!」

皆が会場の中央に注目して叫んでいる。二人が目を凝らすと、そこでは一人のヒトとオークが戦っていた。男たちに連れられて比較的人が少ない所に移って観戦する。

「成る程これは、凄まじい規模じゃのう!」

ハルシウスは少し興奮気味に、歓声にかき消されない様に大きな声を出す。

「そうだな! 俺らはたまたま見つけられたけど、ここに居るのは誰かからの紹介で来た金持ちがほとんどだ! 世界中から集まってるぞ!」

中央ではオークとヒトの戦いが続いている。オークは戦斧を、ヒトは剣を持って戦う。二人とも街で見た甲冑を着ており、距離を取ってにらみ合っている。

 ヒトが斬りかかった。オークはそれを戦斧で受け止め、蹴り飛ばした。ヒトが遠くで倒れ、戦局が決まったようだ。オークが歩いて近寄る。

「勝負は決まったみたいですね!」

ルミオが聞こえる声で叫ぶが、リザードマンの男は神妙な顔で否定した。

「いや、まだだ!」

 すると、ヒトの目の前まで来たオークは大きく振りかぶって、斜めに頭を切り飛ばした。血しぶきが飛び散り、それを見たルミオの顔が青ざめる。

 しかし、周囲の人々は下卑た笑いを浮かべ、歓声は寧ろ大きくなっていた。ハルシウスは表情を変えずに尋ねる。

「何故選手達はかような殺し合いに参加するのじゃ?」

「ここで戦ってるのは、警備会社の中から引き抜かれた選りすぐりの狂ったやつらだと聞いた。自ら望んで死地に赴けるんだろう」


 ここで、司会の大きな声が会場中に響き渡った。それまでは歓声に埋もれていて気付かなかったが、中央の近くに陣取っていたようだ。

「さあ、次はエキシビションマッチです! 誰かこの男に挑戦するものは居ませんか。勿論自分の奴隷を使ってくれても構いません!!」

今度は歓声というよりは、会場中からブーイングが起こる。

「誰も死なないエキシビションじゃ興味ねえんだよ! 早く続きを始めろ!!」

「そんなやつ勝てる訳ねえだろ!!」

ブーイングに負けない様に、司会の男は更にボリュームを上げる。

「落ち着いてください! 誰も勝てないからそう言ってるだけで、この男を殺すのは構いません! さあさあ、挑戦者は前へ!!」

 中央には一人のダークエルフの男が立っている。さっきのオーク達に比べると細身ではあるが、ここからでも強靭な肉体が分かる程にその露出した赤黒い身体のには独特の艶があった。司会者が盛り上げるが誰も挑戦者は現れず、ブーイングだけが続いた。

 視界の男は考えるようにうなると、観念したように両手を上げてみせた。

「……仕方ないですねえ、今回の景品はこれ。このダークネスロッド! 闇魔法特化の最高級の杖にします!」

会場が一気にどよめく。司会が手にするのは、長く、そして真っ黒で光沢のある立派な杖だった。平凡に見える男がその杖を持つことで、杖の荘厳さが際立つ。

「あれが噂の……」

「何と禍々しい……」

ルミオはハルシウスの方を見た。

「ハルさんに似合いそうですね! あの――」

ハルシウスはわなわなと身体を震わせており、ルミオは口を閉じる。ハルシウスは杖の方に視線をずっと向けている。

「わしのじゃ」

「え?」

ハルシウスは吠えた。

「それは、わしのじゃ!!」

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