第11話
スイートドリルの討伐は続き、計四日間に渡った。上空を舞う群れの数はかなり減ったものの、いまだに二人の隙を伺うように徘徊しては襲ってくるため、目を離せない。最初は楽しそうにやっていた二人も、四日目になると表情を変えずに黙々と向かってくるスイートドリルを倒して行く。
「これはいつになったら終わるんじゃろうな」
スイートドリルの頭を叩いて気絶させると同時に、ハルシウスが呟く。
「えーっと……おばさんは、ある程度討伐すれば残りのスイートドリルは諦めて帰って行って、新しい狩場を探すから果樹園を狙ってこなくなるって言ってましたけど」
襲ってくるスイートドリルを倒す時間よりも襲ってくるまでその場で待つ時間の方が増えた二人は暇を持て余す。
すると、雇い主であるケンタウロスの女の声がこちらまで届いた。二人は森の中にいるため女の姿は見えない。
「おーい! スイートドリルももうそろそろ来ないだろうし、これで終わりにするわよ。おいで!」
二人は笑顔で目を合わせると、スイートドリルを抱えて家へと向かった。
家の中に入ると、テーブルへ様々な料理が並べられている途中だった。部屋中においしそうな匂いが漂い、二人は既に並んでいる料理を目をキラキラさせて見ている。
「これはどうしたのじゃ? おばさま」
女は料理をキッチンから運んでは並べ、忙しなく行ったり来たりを繰り返す。
「今までお世話になったお礼だよ、じゃんじゃん食べてくれ」
「本当にこれらを頂いてもよいのか⁉ 遠慮せぬぞ」
「ああ、二人には急に頼んだのに引き受けてもらって世話になったからね。好きなだけ食べな!」
二人は言葉に甘えて夕食を一緒に食べさせてもらった。二人は無我夢中で食べ、大きな机いっぱいに並んでいた料理の数々はあっという間に無くなった。
三人は後片付けを終えて椅子に座る。
「あんたら、この国に来たばっかりなんだろう。どうだい、この国は?」
お茶を飲みながら女が尋ねた。お茶からのほのかに甘い香りに二人もゆったりと落ち着いている。
「とってもよいところじゃな。広いし果物は美味い」
「そうですね。それに綺麗で治安も良さそうです!」
二人が笑顔で答えると、女も満足そうな顔になる。
「それは嬉しいね。今日でこの仕事は終わりだから、もし良かったらこの国を満喫して行きなさい」
二人は、お腹を一杯にして宿へ帰って行った。
宿への帰り道。
「今日はご飯を頂いたので遅くなりましたね」
既に日は落ち、通りに並ぶあかりが灯る。ハルシウスは大きくなったお腹をさすりながら歩いている。
「そうじゃのう。プリシラもおらぬじゃろうな」
宿へ戻ると、案の定プリシラは既に居なかった。ルミオは思い出したように尋ねる。
「明日からはどうしますか?」
二人はそれぞれのベッドに腰掛けて考える。ハルシウスは硬化の入った袋を眺める。
「そうじゃのう……多少余裕は増えたし、明日は調査に行くのが良いと思うが、どうじゃ?」
ルミオはうーんと首を捻っていたがしばらくして頷いた。
「……そうですね、僕も行きたいです。」
「じゃあ、決定じゃな。地道に片っ端から聞いていくしかなかろうな」
それからは二人はぼーっとしていた。ハルシウスは杖を眺め、ルミオは槍を布で磨いて手入れをしている。外からはいつも通り夜の街の賑わいが届いていた。
ふと、ハルシウスは口を開いた。
「のう、街へ行って見ぬか?」
「どうしたんですか、急に」
ルミオが顔を上げて作業を止める。
「おばさまも言っておったじゃろう。わしはこれ程賑わっている街が如何程のものか見てみたい。それに明日から早起きせぬとも良いし、息抜きしてみようではないか」
「そうですね……。僕も特にやることも無いので、行きましょうか」
二人はすぐに宿を出て街へと繰り出した。
街では昼とは異なった店や屋台が入れ替わるように開いていた。それらを眺めながら、通りを歩いていく。二人は特に目を止めるものもなく歩いていたが、ハルシウスがあることに気付い止まった。
「のう、あやつはどこに行っとるのじゃろうか」
指差した先では、一人の男がこそこそと裏通りに入って行った。
「そうですね。それに、遠くてちゃんと見えないけどお金持ちそうですね」
確かに小太りなその男は、扇を手にし、指には宝石をいくつもはめている。他の所を見ていたルミオが指さす。
「……あっ! よく見たら他の方も裏道に入って行きますよ」
ルミオの言う通り、一見散らばっていてわかりづらいが、通りの全体を見回すと他にも似たような服装の人々が、色んな所で通りから外れて別々の裏通りへと入って行ってた。ハルシウスの目が輝く。
「面白そうじゃのう。ついて行ってみるか!」
二人も裏道へと入って行き男を追うが、既に誰も居なくなっていた。裏通りは壁に囲まれており、誰も居ないため物音がしない。曲がり角を覗き込んで見るが男は見えない。
「どっちに行ったんですかね」
「うーむ……取り敢えずこっちに行ってみるか」
二人は奥へ奥へとと進んでいった。
そして20分後、二人は途方に暮れていた。二人とも地面に座り込み、うなだれる。
「……完全に道に迷ったな」
「……そうですね。どうしましょうか」
周囲を見回すが、通りの賑わいは既に感じられず、戻り道も分からない。
二人が頭を抱えていると、三人のリザードマンの男たちがニヤニヤしながらこちらにやってきた。三人とも身体がハルシウスよりも大きく、がっしりとしている。しかし、この国では珍しく服が汚れている。その中の一人が声をかける。
「お二人さん、こんな所で何してるんだい?」
ハルシウスは三人に気づき、顔を上げる。二人は立ち上がった。ルミオが前に出ようとするが、ハルシウスに手で止められる。
「おお、丁度良かった。道に迷ってしまっての。教えて貰えないじゃろうか」
三人は顔を合わせた後に、笑い出す。
「ははっ、それは困ったよなあ。俺はそんなお前らを救ってやりたい。だが、ただで教える訳にはいかねえなあ」
もう一人が前に出て、手のひらを前に差し出す。
「有り金、全部置いていけ。そしたら教えてやるよ」
ハルシウスは暫く黙っていたが、なるほどと手をたたくと、三人と同じようにニヤニヤと笑い出した。
「これのことかのう? 欲しければ取ってみよ」
お金の入った袋を持ち上げて、硬貨の音をジャラジャラと鳴らしながら挑発する。男たちはこちらを睨みつける。
「どうやら酷い目に会いたい様だな。お前ら、やるぞ!」
三人が一斉に襲いかかってきた。全員拳に炎を纏っている。しかし、ハルシウスは炎を気にせず一人一人素手で丁寧に受け止め、投げ飛ばした。三人ともあっという間に地面に転がる。
ぶんぶんと拳を振って火を消しながら三人に近づく。まとまって倒れている三人の戦意は既に無くなっている。
「のう、早く教えてくれぬか?」
「な、何でこんなに強いやつがこんな所にいるんだよ! お前まさかあそこの選手か⁉」
ハルシウスが尋ねると一人がガクガクと震えながら叫んだ。
「選手? 何のことじゃ」
「しらばっくれるな! こんな所まで来てその強さ、道を間違えてわざと絡んできたな! 早く会場に戻れ!」
ハルシウスとルミオは顔を合わせて首を傾げた。尚も男がうるさく喚いているのを見て、ハルシウスは杖から火を付けて小さく可愛らしいウサギを作り、男に向かって飛ばす。急に飛んできてびっくりした男は「ひっ」とみっともなく叫び、両腕で顔を覆った。ウサギは男の目前でぴたっと止まる。
「わしらはこの国に来たばかりで何も知らんのじゃ。一から説明を頼むぞ」
ウサギは男の前で元気に飛び跳ねていた。




