深山君は落ち込む
その日は二人が飲みすぎて、グダグダと前世話で盛り上がってしまったので、それ以上の話はできなかった。
「就職かぁ・・・」
僕は部屋でつぶやく。
司さんが就職したい気持ちはわかった。
就職の手伝いをするのも良いだろう。
ただやはり僕自身の立場も考えてしまう。
僕は大学を卒業し就職口がないままに日が過ぎ、みかねた(のであろう)塩野さんに雇ってもらった身だ。
司さんは同居の母親に楽をさせたいという。
僕も親元に暮らしている。
父も母も健在で、正社員だ。
二人は僕の仕事をどう思っているのだろう?
僕はやりたいことを仕事にしたわけじゃない。
自分で探してきた仕事ですらない。
でも今の仕事は結構楽しい。
塩野さんもかおりさんも、パティシエの桧山君も、販売の松江さんも東さんもいい人で、職場の人間関係がいいからだろう。
でもやりたい仕事か、と言われると困る。
塩野さんの性格では店を大きくすることがあっても、支店を出すことはないだろう。
つまり、給料が上がる当てはない。
といかあの規模のお店で経理という名目の僕を雇っていることに結構無理がある。
友人のか顔を思い浮かべる。
高校の同級生も大学の友人もみんな、それなりに就職しそれなりに生活している。
大企業や公務員、中小企業、色々な友人が色々な仕事をしている。
転生してその人間の仕事をそのまま引き継いでいる佐倉さん。
そのままじゃだめだと仕事をしようとしている司さん。
自分の目的の為に学校に通いながらモデルをする美優ちゃん。
こうやって並べると佐倉さんは一番消極的に見えるけど、転生した人生そのものを楽しんでいる。
たぶんあの人にとっては、仕事はなんでもいいのだろう。
この世の中を楽しむための手段でしかない。
僕には大した趣味もない。
人に誇れる特技もない。
考えれば考えるほど気分が沈んでゆく・・・
いいなぁ・・・
僕も異世界転生したい・・・




