三人目の身の上話
司さんが言うには、僕は司さんの為のガイドらしい。
「神が私の為に、ガイドを用意したと言ったのだ」
「あ、司さんも神に会ったんですね。
どんな感じでした?何か異能とかもらったんですか?」
佐倉さんが食いつく。
「うむ。私はこの世界にあるすべての言語が理解できる」
司さんが答える。
「いいですね~。
そりゃ便利な能力だ。私は何ももらえなかったんですよね」
「そなたが不敬な態度だったのではないか?
なにやら話し方があけすけすぎるからのう・・・」
ですよね!僕は心の中、全力で同意する。
「あー・・・」
心当たりがあるのか佐倉さんが少しため息をついた。
「ドラゴンは長寿でな。すっかり生きていることに飽きてしまったのだ」
「確かにあんまり長生きだと飽きてしまいそうですよね」
僕が同意する。
「うむ。
人が幾世代も変わり、
共に旅をした仲間の子孫が悪事に手を染め、仲の良かった仲間の子孫が諍いをする。
そんな人間関係を見るのにうんざりしてな、山にこもることにしたのだ。
この世で言う引きこもりというやつだな。
まぁ人の引きこもりとは時間がちと違うが。」
一匹山の中で何百年か。
それは確かに生きるのに飽きてしまいそうだ・・・
「長いこと一人でおるとあまりにも退屈でな、神に頼んだのだ。
この命を終いにしてくれ、と
もともと神とは創世のころ一緒に旅をした仲間だったのだ。
私は神の世界に連れて行って欲しかったのだが、神は『異世界に行って人として生きてみないか』と言ったのだ」
司さんと佐倉さんの前には、どんどん酒のグラスやお銚子が増えていく。
二人ともよく飲むなぁ・・・と僕は関係のないことをぼんやりと考えた。
「なかなか案内役が迎えに来ぬと思っていたら、こやつテレビに出ているではないか。
それでこちらから出向いたのだ」
司さんは日本酒が好きなようで、心配になるペースで飲み続けている。
「ふーん・・・
テレビにもこの旗は映るんですね?」
佐倉さんが確認する。
僕の頭に立っているという『異世界転生ツアーin Japan ガイド』という旗のことだ。
僕には見えないのに、異世界転生者には見えるという理不尽な旗だ。
「うむ。しっかり写っておった」
佐倉さんが嬉しそうに頷く。
「深山君!
観光地行ったり、テレビ局のイベント行ったりしようよ!
君、カメラの回ってるところでピースとかしてきてよ!
司さんみたいな人が来るかもしれないよ!」
・・・おことわりだ。
「司さん、お会いしたときに仕事を与えろって言いましたよね?
どういうことですか?」
僕は話題を変えることにした。
「仕事をしたいのだが、どうすればいいのかわからぬ。
儂ができる仕事を紹介しろ」
一人称が儂になった・・・酔ってるのかな・・・
「司さんはこの世界に来た時、その人間の人生のビデオみたいなのなかったんですか?」
佐倉さんが聞く。
「私はこの女の人生を見てから、生活に入ったので特に不自由はなかったのだけど」
司さんは佐倉さんを見て大きくため息をついた。
「この男は引きこもりのニートというやつだ。
あのような人生、見たところで何の役にも立たぬわ!」
司さんがお猪口をぐっと傾け酒をあおる。
「この男は大学とやらまで行きながら、一度も仕事をせずに親に頼りきりで生きていたのだ。
父親は早くに鬼籍に入り、母親は老いた女の身で働いているというのに、家事もせず、インターネットとゲーム三昧!
たまに出かけるのはアイドルのイベントじゃ!」
司さんがお銚子を持ち上げ、お猪口に注ぐ。
叩きつけるような乱暴な真似はしなかったが、お銚子を置く音が少し大きかった。
僕と佐倉さんは顔を見合わせた。
そりゃそんな人生見せられても困っただろうな・・・
「人の母とは健気なものだのう。
ドラゴンのころは特に母親との交流などはなかったのだが、この男の母親に多少なりとも楽をさせてやりたいのじゃ。
深山、儂に仕事を紹介してくれ」
司さんはそう言って頭を下げた。




