呪いの人形
あなたは呪いの人形をご存じだろうか……。
これはその人形の生涯の物語である……。
こころせよ――。
ある日、俺は路地裏で占い師の婆さんにとあることを言われた。
「ちょいと道ゆくハンサムなお兄さんや、婆の戯れ言を聞いていかんかね?」
怪しい婆さんだ。
俺の答えは決まっている。
「答えはNOだ!」
俺は無視して歩いて行く。
俺はひたすら歩いた。
目の前に先ほどの婆さんが待ち構えていた。
「婆の戯れ言を……」
無視だ無視!
「待ちやがれ小僧!」
婆が追ってきた!
俺はコマンド、逃げるを選択した!
「来るな婆! なんかこえーんだよ!」
「婆に向かって怖いとは何事じゃ! この馬鹿たれが!」
だってこえーだろ!
こちとら全力で走っているのに、婆はスキップで追いかけてくるんだからよ!
だが、その追いかけっこにも終わりが来た。
俺の体力切れだ……。
「もう降参だ婆、俺に何が言いたいんだよ」
俺は婆を見て言った。
「なんじゃ、もう体力切れか? 近頃の若いもんはだらしないの」
うるせえ! てめーなんか人間やめてるだろ!
「まぁよいわ、戯れ言と言ってもお主に良からぬ物が憑いてくるのが見えただけじゃからな」
なんだよそれ、俺に何が憑くって?
「お主、人形に憑かれるぞ。 それもお祓いするまで……死ぬまでずっとじゃ」
人形!?
「おい、それは悪さするのか?」
俺は婆に聞いた。
「憑かれるぞ、ひっひっひっ」
聞いちゃいねー。
「悪さはするのか?」
「どうじゃ? 怖かろう?」
「悪さは?」
「ほれ、もう近くまで来とるぞ?」
「悪さは?」
「死ぬまで憑かれるぞ?」
「悪さは?」
「怖じ気づいたかの?」
「悪さは?」
「ほれ、もうお前の足下に来ておるぞ」
俺は足下の人形を見て、拾い上げた。
そして婆に同じ質問を繰り返した。
「悪さは?」
「……」
「悪さは?」
「……いや、お祓いするまでお主について回るだけじゃ」
「それ以外は?」
「……無いはずじゃ。 それ以外聞いたこともないわ」
「……そうか」
俺は人形を手に持ったまま家路についた。
*
「お前が呪いの人形か……」
人形は薄汚れているが、よく見ると中々可愛い顔立ちをしていた。
「ふむ……」
俺は人形をくまなく調べた。
そして……。
「汚れを落としてドレスアップしよう! お着替えです!」
俺は猛烈に興奮した!
「たしかこのサイズに合った洋服がこの辺に……」
カタリ……。
「ん? 人形が動いたような気が……」
カタリ……。
「間違いない! こいつ動くぞ!」
カタカタカタ……。
「凄いぞ! これは良い物だ! やはり着替えさせなくては!」
*
呪いの人形は後悔していた。
この人間はちっとも怖がらない。
それどころか着替えさせようとしている。
ならば動いてみせれば怖がるだろうと思い動いてみた。
だが反応は違った。
ますます喜ばすだけであった。
なんなんだこの人間は……。
呪いの人形はこの男が恐ろしくなった。
人形は思った。
お家に帰りたいと。
しかし、呪いによってこの男から離れることが出来ない。
今日ほどこの呪いが恨めしいと思ったことはない。
そして――。
この日、人形は初めて辱めを受けた。
男に着ていた着物を剥ぎ取られ、変なひらひらした服を着せられた。
なんたる屈辱。
そして、別の部屋に連れて行かれた。
そこには――。
大量の人形が飾られていた。
男は人形達に話しかけた。
「お前達、新しいお友達だよ。 可愛い奴だから仲良くしてやってくれ」
男は満面の笑顔で語っていた。
「人形好きで変態紳士の俺の元に来てくれてありがとうな!」
男は呪いの人形を両手で持ち上げて一人で踊っていた。
――早くお祓いしてちょうだい。
お願いします。
呪いの人形 完




