表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(ガワだけ)胡乱なカードゲームおじさん  作者: 十田心也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

9枚目 真っ暗森が見つめてる

「【泥濘の大吞】でコピーの【火花散らし】を迎撃します!」


 勝負が決まったと思った多くの観客の意識に、御園(みその) (しげる)の一声が割って入る。

 主人へと向かう猛火の一部を、巨大な山椒魚が迎え撃つ。

 しかしその巨体でも抑え込むことができるのは1体が限界であり、他の6体のユニットは依然変わらずに進軍。


「それでも18000のダメージだ!」


 細猛(ほそたけ) (れつ)が己を鼓舞するように、盤面の優勢さを語る。


「そっちに残ってるのは青エネルギー1点! 青お得意のバウンスでも、その点数のカードで戻せるのはせいぜい1体! 14000のSPを削りきるには十分ってわけだ!」


 烈が言ったように、繫の使用可能なエネルギーは残り青1点。

 基本的にカードのコストと強さは比例し、軽いほどそのカードが与える影響は限定的となる。

 複数体のバウンスを可能とするカードはいずれもコストが重く、烈が記憶している限り青1点で相手ユニット2体以上を戻せるカードは存在しない。

 烈の攻撃ユニットは残り6体、バウンスで1体戻されても残り5体で総ダメージは15000。

 繫の残りSP14000を削るのに何の問題もないというわけだ。


 勝った。

 烈の、試合中にずっと張りつめていた空気がほんの僅かに緩む。

 年嵩で未所属の新人ながら有望な者がいると、仲間内で少し話題になった。

 知った当初は薄い関心しかなかったが、新人がある非公式大会で優勝したと聞いた時それは変わった。

 大会優勝が原因ではない。実力のある者なら例え新人でも、競会の関わっていない大会くらい勝ち抜けるだろう。


 新人が1回戦にて打ち破った相手は、己の師であった。


 競会から今回のイベントの仕事が数人の所属プロに打診された時、繫が参加すると聞いた烈はいの一番に声を上げた。

 師の敵討ちというわけではない。烈もその師も、そのようなことを望む人間ではない。

 ただ己の師を打ち破った人間がどのような人間なのかを知りたかった。

 そうして対戦し、今まさに相手から勝利をもぎ取ろうとしたその時──



「青1点で【一時、ダンスはこれまで】を発動! 交戦状態の自身のユニットを対象に発動でき、その交戦中の自身と相手ユニットをお互いの手札へ戻します」


 双方のユニットが激突する寸前で、それぞれの手札へと帰っていく2体。

 しかし烈のユニットは実体なきコピートークン、手札へと戻る途中で光となり消えていく。


「更に【泥濘の大吞】がフィールドを離れたことにより効果発動! 召喚時と同じ、相手全ユニットの戦闘力を1000下げます!」


 山椒魚の置き土産か、どこからともなく泥が猛火の群れへと降り注ぐ。

 再びの拘束に勢いが一瞬止まるが、それがどうしたと言わんばかりに突撃を開始。

 ついに目標へと到達しその瞬間、繫を中心に巨大な火柱が出現。

 火災旋風と見紛う熱波が会場を吹き荒れ、観客は光と熱と衝撃から身を守るため皆が咄嗟にその場に伏せた。


 時間にすれば数十秒、しばらくして観客が顔を上げる。

 大多数の観客の関心毎は、まず繫の安否であった。

 繁が火柱に包まれたのを目撃した観客などは、対戦の場へ目を向けるのをためらう。

 見るも無残な状態の繫が転がっていたとしても、何ら不思議ではないからだ。



「いや、流石に少し焦りましたね。おっと、まだ少し燃えて……」



 そんな観客の予想を裏切るように、あるいは安心させるようにひょろりと細長いシルエットが声を発する。

 煙が晴れ、観客の視線の先にて御園 繫は立っていた。

 スーツはところどころ焦げているが、その顔には試合開始時と同じような胡散臭い笑みが変わらず浮かんでいる。



【火花散らし】

戦闘力:3000/生命力:1000→戦闘力:2000/生命力:1000


【燎原馬】

戦闘力:3000/生命力:1000→戦闘力:2000/生命力:1000



 御園 繫

 SP14000→SP2000



 今の繁を指して風前の灯と表現するのは悪い冗談だが、その命脈が残り僅かなのは事実。

 烈が相手プレイヤーへ直接ダメージを与えるカードを使用すれば、あっという間に焼き切れる数値。

 しかし、その圧倒的優位に立っている筈の烈の顔は険しい。


「……【火花散らし】と【焦身の燎原火】のダメージにより、【燎原馬】を2体追加だ」


 御園 繫

 SP2000→SP1000


 細猛 烈

 SP15000→SP13000


 崖っぷちまで追い詰められた繫と、まだ半分以上の余裕がある烈。

 いよいよ終わりが見えてきたと感じた観客が、ジッと勝負の行く末を見守る。


「正念場ってやつですねぇ、私のターンドロー! 鵯の効果でSPを1000回復します!」


 御園 繫

 SP1000→SP2000


 回復すれども吹けば飛ぶ、相手の指先ひとつで消えるような現状の繫。

 だがその笑みに、諦めや投げやりの様子は見られない。


「ったく、少しは焦れってんだ。厄介な奴ってのはどうしてこう……」


 思わず出そうになる溜息を、何とかこらえる烈。

 先ほどのターンで仕留めきれなかった事実が、遅効性の毒のようにじわりじわりと不安を滲ませていく。


「カードをチャージし、即座にエネルギーフィールドから全抽出し4点! 【木の実拾い】【霧撒く鵯】も併せ合計6点!」


 重量級のコストを必要とするカードの登場に、烈の体が無意識のうちに反応する。

 このまま腑抜けた気持ちでいては負けるのは自分だと、そうバトルワールドのプレイヤーとしての勘が警戒を促したのだ。


「【軍隊喰らいのシュヴァルツヴァルト】を召喚!!」


 カードがデバイスに読み取られると同時、繁の足元から木の根が見えたと思った瞬間──


 爆発的な勢いで、繁の周囲を針葉樹に似た木々たちが埋め尽くしていく。

 辺りに燻る残り火も、その緑の浸食は意に介さない。

 木々たちによる黒く暗き森が完成するのに、そう時間はかからなかった。


「【軍隊喰らいのシュヴァルツヴァルト】の効果発動!」


 主の言葉を得たことにより、その黒き森が鳴動する。

 葉が、枝が、幹が、根が。

 眼前の猛火の群れへ明確な敵意を持って狙いを定める。


「相手の戦闘力3000以下の全ユニットを、相手エネルギーフィールドへ送ります!」


 鋭く太い無数の枝が、猛火たちへと襲い掛かる。

 抵抗する者、振り切ろうとする者など様々だったが、その結末は変わらなかった。

 突き刺し巻き取られ数秒固く絡み合った枝が開けば、後は名残の火の粉が僅かに漂うのみである。


「更にこの効果でエネルギーフィールドに送られたカード1枚につき、シュヴァルツヴァルトの戦闘力と生命力に1000をプラスします」


 敵を喰らい、その森はより大きくより深く成長する。

 その森の名はシュヴァルツヴァルト、ものみな喰らう黒き森。


「まぁ実際に送られたのは【火花散らし】1枚のみですので、上昇量は僅か1000ですがね」


【軍隊喰らいのシュヴァルツヴァルト】

カードコスト:[緑][緑][緑][緑][2]

カードタイプ:ユニット

世界:緑

種族:植物

戦闘力:3000/生命力:3000→戦闘力:4000/生命力:4000


 揮わない結果に少々残念そうにする繁。


「これだから緑脳ってヤツはよぉ……。全除去の上に中堅サイズユニット出しといて寝言言ってんじゃねえぞ」


「ふふ、使用エネルギーは増やしたので大目に見ていただければ」


「たった1点だけどなッ!」


 明らかに損得釣り合わない結果に烈が吠える。

 先ほどまでフィールドを埋め尽くさんばかりであったユニットが消え、その代償が僅か1点のエネルギーとなれば多少の文句も言いたくなるだろう。



「んふふ、私はこれでターン終了です」


「俺様のターン、ドロー!!」


 烈の手札は現在3枚。

 その中にプレイヤーへ直接ダメージを与えるカードがあれば、繁の敗北は決定的だが。


「……赤2点、【立ち昇る決意】発動! 手札のカード1枚を墓地へ捨て、デッキの上からカードを2枚まで公開し手札に加える!」


 何としてもこのターンで繫にとどめを刺すべく、勝つためのカードを探しに行く烈。


「もちろん俺様はカード2枚を公開!」


 使用可能な残りエネルギーは赤3点のみだが、烈のデッキを構成するのはバトルワールド中で最もダメージを与えることを得意とする赤のカードたち。

 実際にデッキ内にはこの状況で繫を焼き切れるカードたちが数種類眠っており、そのどれかが1枚でもあれば勝敗は決するのだ。

 観客にも確認できるよう2枚のカードが大きく映し出され、その結果は──



【猛火的襲撃】

【火花散らし】



「っ俺様は2体の【火花散らし】を召喚! このターンは攻撃しないため燎原火の効果は発動せず、これで俺様はターンエンドだ」


 勝機を逃したのではないか。

 先ほどから何度も頭によぎり溢れそうになるそれを、烈は抑え込んだ。

 気落ちや反省などは全て終わってからでいい。



「私のターン、ドロー!」


 いまドローしたカード、手札、使用可能なエネルギー、フィールドのユニット、相手のソウルポイント。

 それら全てを確認し、繫は烈を真っ直ぐに見た。



「私からの勝負、受けていただけますでしょうか?」


「──いいぜ、受けてやろうじゃねえか!」



 烈が応じた直後、変わらぬ様子の繫からのプレッシャーが増す。

 激しさはない、だが気付かぬうちに大きく開けられた怪物の口に自ら入ってしまったような。

 そんな後戻りのできない感覚が烈を包む。


「まずは青含む3点、【未発表曲の偽作】を発動! カードタイプがサポートのカード名を宣言しその後に相手の手札を公開、宣言したカードがある場合このカードはその宣言したカードのコピーとなります!」


 青の世界のカードはトリッキーなものが多く、その1つがコピー能力。

 水面に浮かぶ月のように、青のカードは精巧にそれらを写し出す。


「私が宣言するのは、【猛火的襲撃】!!」


 繁がカード名を宣言しカードを掲げれば、本来は持ち主のみに見ることが許される手札が浮かび上がる。

 そして公開された手札、その中には先ほど加えられたカード──


「かくして曲は奏でられる」


 手中に収められた、本来なら相手が知るはずのない秘め事。

 暴き写し取られたそれは、名前に相応しい勇壮な曲を会場に響き渡らせる。


「コピーした【猛火的襲撃】の効果により、全ユニットの戦闘力3000アップ!」



【木の実拾い】

戦闘力:1000/生命力:1000→戦闘力:4000/生命力:1000


【霧撒く鵯】

戦闘力:2000/生命力:2000→戦闘力:5000/生命力:2000


【軍隊喰らいのシュヴァルツヴァルト】

戦闘力:4000/生命力:4000→戦闘力:7000/生命力:4000



 緑青(ろくしょう)色の、どこか濁った色の炎が繫のユニットたちに宿る。

 幽鬼の如き様子となったユニットたちから放たれるのは、炎とは正反対な冷たく震える威圧感。


「……まだだ。まだユニットで守ればこのターンはッ!」


 思わず口から出た言葉が勝利への鼓舞か敗北への焦りか、どちらなのか烈には分からなかった。


「エネルギーフィールドから緑2点で【巨猪(きょちょ)の進軍】発動! 自身の全ユニットに突破を付与します!」


 バトルワールドにおいて、最もユニットの種類に富んでいるのが緑の世界である。

 そんな生命力にあふれた緑のユニットを象徴する能力の中に、【突破】というものがある。

 その効果は、《《このユニットが攻撃し戦闘力が交戦ユニットの生命力を上回っている場合その数値分のダメージを相手に与える》》。


 繁のユニットの戦闘力は合計16000、対して烈のソウルポイントは13000、ユニットの生命力の合計は2000。

 この瞬間、両者のみならずバトルワールドを経験している観客も天秤がどちらに傾いたのかを悟った。



「……おい、勘違いだけはすんじゃねえぞ」


「勘違い、とは?」


 今の状況を飲み込み、絞り出したような声で烈が言葉を発する。


「公式戦じゃねえから、プロになって2年目のルーキー相手だから手加減した結果負けた……、()()()()()()()()()()()


 苦虫を嚙み潰したような顔で、だが真っ直ぐに繫の目を見て。


「この日のためにデッキを調整し、対戦中は常に最強の展開を目指した。今の細猛 烈が持てる全てを注いで、御園 繫に負けた」


 悔しさはもちろんある。

 だが、この状況に恥じる気持ちは烈には一欠片もなかった。


「そういうことを勘違いして欲しくなかった。そんだけだ」


 対戦相手のそんな言葉を受けて、繁の脳裏をある記憶がよぎる。


「やはり師弟は似るものですねぇ」


「あん?」


「過去の大会、同じ事を私に言ってくれた素晴らしいプレイヤーがいましてね」


 繁の目が己を通して誰かに思いを馳せている、そんな様子を見て烈は悟る。

 そして思わず片手で顔を覆い、天を仰ぐ。


「恥っず……、何でよりによって同じ相手に言っちまうんだ。つーかその口ぶり、最初から気付いてたのか?」


「ええ、他の参加者がどのような方たちかを聞かされた時には」


 思わぬ方向から恥ずかしさが湧き上がってきた烈。


「……1回戦で負かした相手のこと、よく覚えてるな」


「忘れるわけがありません。私というプレイヤーを形作る一戦、今でも昨日のことのように覚えています」


 己の師との対戦を嬉しそうに語るその言葉。

 対戦中の、今まさに己を負かさんとしている相手の言葉だというのに。

 本来なら闘志を燃やし対峙するべきであるのに。

 その言葉に、烈は。


「我ながら現金な奴だな」


 誰にも聞こえぬよう呟き、対戦相手である繫を見据える。

 

「勝負の最中に悪い。つい口に出しちまった」


「構いません。語らいも含めてバトルワールドの醍醐味です」


「ったく、悠々としやがって」


 先ほどまでが嘘のように、一瞬穏やかになる空気。


「楽しかったぜ。次に闘る時ゃ覚悟しとけや」


「心待ちにしています、その時を」


 そうして、お互いに笑い合った次の瞬間──



「全ユニットで攻撃!!」



 繫の号令で黒き森が蠢き、鳥が歌い、小人が跳ねる。

 迫りくる脅威を、烈は目をそらさずに見ていた。

 迎撃に当たったユニット、そしてプレイヤーを黒き森が飲み込んでいく。

 全てが終わった後、先ほどの炎飛び交う場は妖しく照らされた黒き森に包まれる。



「対戦ありがとうございました。熱く激しい闘いに、心からの感謝を」



 こうして1回戦、最後の試合の幕が閉じた。

 御園 繁 VS 細猛 烈


 勝者、御園 繁



(※1 バウンス:場に出ているカードを手札またはデッキへと戻す能力。時として直接的な破壊よりも効果的)


プレイヤーがバトルワールドについて理解を深めたいと思った場合、独学では早々に限界を迎えます。

そこでバトルワールドのための学校・学習塾や家庭教師などが存在し、より専門的な場合は道場に通い各流派の知識を学ぶ形になります。

流派秘伝のカードやデッキなどもあり、一般には流通していないカードを求めて弟子入りことも珍しくありません。

個人間での師弟関係も多く、プロはその人脈のつながりが派閥となり複雑な関係を形成しています。


師範を超え、俺がそのデッキを継承する!


==============================================

【軍隊喰らいのシュヴァルツヴァルト】

カードコスト:[緑][緑][緑][緑][2]

カードタイプ:ユニット

世界:緑

種族:植物

戦闘力:3000/生命力:3000



このユニットが召喚された時、相手バトルフィールドの戦闘力3000以下のユニットを全てエネルギーフィールドへ送り、この効果でエネルギーフィールドに送られたカード1枚につきこのユニットの戦闘力と生命力を1000上げる。


[緑][緑][緑]を支払う

このユニットの戦闘力以下の相手ユニット1体をエネルギーフィールドに送り、このユニットの戦闘力と生命力を1000上げる。



剣、槍、槌、弓矢、砲、鎧。

今では全て、この森の一部である。

==============================================


・緑らしい豪快な効果で好き

・初期から存在する、緑を代表する大型ユニットの1枚

・この前の公式戦で速攻デッキ使いがこいつに盤面壊滅させられてたわ

・↑その試合おれもたぶん見てた、返しのターンで成長した森に殴り殺されてた

・デカブツ愛好家決定戦でもたまに見る

・古いカードだから結構イラスト違い多いよな

・絶版のパックにしか収録されてないバージョンもあるしコレクター泣かせなカード

・みんなはどのバージョンが好き? 自分はやっぱりおどろおどろしい初期のイラスト

・↑かなかな先生のやつは地面にちらっと食い荒らされた痕跡が匂わされてて好き

・↑↑擬人化投票企画の抽選予約バージョン持ってるけど宝物だわ[画像]

・↑よう兄弟、お前ん家に忘れ物したみたいだから住所教えてくれよ

・↑↑よく見せてくれ、それおれのカードっぽい

・↑↑↑その長身メカクレギザ歯お姉さんを寄こせ!

・ころしてでもうばいとる



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ