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(ガワだけ)胡乱なカードゲームおじさん  作者: 十田心也


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8/13

8枚目 熱き血潮の嘉宴

 地下深く、奥深くに設けられた一室。

 真っ暗な室内に僅かな光源がいくつか、円を描くように浮かんでいる。


「そういえば、今頃はドームでの催しも始まっている頃か」


「ドーム?」


「ああ、庭師殿が担当している預言かと。確か現地に直接赴くと仰られていました」


「相変わらず仕事熱心だねー」


 室内の光源はぼんやりと人型に浮かび、その数6人。

 会話内容から、おそらく本来の人数ではないのだろう。


「あの人なら問題なくこなすでしょ。正直、庭師さんが失敗するところとかあたしイメージしづらい」


「お、やっぱ泡沫ちゃんもそう思う? まーじで怖いくらいしごできだし、もう預言ぜんぶ庭師さんにやってもらった方がよくね?」


「傀儡殿……、庭師殿が大変頼りがいのある方なのは同意しますが流石にそれは」


「人事、営業、経理、総務、研究。預言に加えてこれらもこなしているのだ、少しは労わってやれ」


 内実は分からないが1人でこなすにはあまり一般的ではない業務形態。

 その詰込み具合に、思わず他の参加者が声を上げる。


「いや働かせ過ぎでしょ……。何それここってそんな人不足なの?」


「言いだしっぺのうちが言うのもなんだけどドン引きだわ」


「悲しいけどこれが秘密結社の現実」


「抜けられたら確実にここは崩壊するな!」


 しばし自分たちが所属する組織について議論する面々。


「さて、では日頃の庭師への感謝を伝える会の日程は後ほど決めるとしてだ」


 司会役の言葉に、どこか浮ついていた空気が変化する。

 これよりはこの場に集まった本来の目的のため。


「各自、預言の進捗具合を報告してもらおう」


「じゃあ、まずは新入りのあたしから。泡沫の座に課された預言のうち、今月は2つの断片が成就してる」


 女性の若い、というより幼い声が積極的に口火を切る。


「気になる点としては、例の妨害があったのはいつものことだけど他にもいくつか知らない勢力が紛れてた。規模や実力はどれも大したことなかったけど、念のため報告しとく」


 声色にはどこか不相応な、芯の一端が冷めたような雰囲気が漂っていた。

 そんな報告を補足するように、今度は艶やかな男の声が報告を上げる


「あぁ、それらについてはわたくしから補足を。どうやら学園のカードの件に釣られ、浮足立ってこちらにも手を出そうと考えている組織がいくつかあるようで」


「脅威に成り得ると?」


「いえ、おそらく【競会】や【企業】どちらにも属してはいないはぐれのようです」


 はぐれと言った男の声音には、どこか侮蔑的な響きがあった。

 大儀を知らぬ愚衆を軽蔑するような、そんな響きが。


「木っ端がとりあえず動いとけーってはしゃいでる認識でOK?」


「それで問題ないかと」


「でも油断は禁物。へっぽこが大多数でも、1人くらいは本物がいる」


「その言もっとも。座を預かる諸君なら理解していようが、決して油断なきよう」


 その後も報告は続き、各々が自身の現状を共有していく。

 どこそこの組織を潰したなど物騒なものも混じり、この集まりが穏やかなものではないことを伺わせる。


「諸君、今回もよくやってくれた」


 一通りの報告が終わり、まずは司会役が皆に労いの言葉を贈る。


「学園のカードが見出され、それに呼応して多種多様な組織が動き出している。これまで成された預言が確かなものであったことの、これは何よりの証左」


 自分たちの活動、世間一般で見れば暗躍が着実に結果を出している。

 それが何を意味するのか、司会役の次の言葉を待たずとも皆が予想できた。


「断言しよう、諸君。王の降臨は近い」


 司会役のその言葉に、声は上げずともその場の皆が気持ちを高ぶらせた。


「【祓い笛】が結成され、諸君の力を借りてようやくここまで来た」


 バトルワールドの怪しげな噂話にはかなりの頻度で登場する秘密結社。

 旧く朽ちた秩序を祓う、その結社の名が祓い笛。


「我ら【十警蹕(じっけいひつ)】に課された預言が全て成就された時、王は降臨される」


 祓い笛にはある大願成就のための預言が秘されているとされた。

 そして預言を成就させるための幹部、その十人を指して十警蹕。


「旧き秩序を祓い、新世界の到来を告げる笛を鳴らせ! 偉大なる王、尊き理想郷(ユートピア)のために!」


『偉大なる王、尊き理想郷(ユートピア)のために!』


 地下深く、奥深くに設けられた一室。

 国家転覆どころではない、世界転覆がこの一室で目論まれていることを世界はまだ知らない。

 その企みを知る時、世界はどのような反応をするのか。

 今はまだ、それは誰にも分からない。








『さぁ1回戦も3試合が終わり、残るはあと1試合! 観客の皆さま、今一度素晴らしいバトルを披露した選手たちへ拍手をお願いします!』


 ドーム会場を貸し切ってのイベント、ポップフェスタ。

 先ほどまでスポンサー企業群に所属しているタレントたちの歌やダンスなどが披露された場所で、今度はバトルワールドの対戦が行われていた。

 観客の割合としてはタレントたちのファン9割、他1割といったところか。


『また、今から物販コーナーで弊社所属タレントの限定グッズを販売いたします!! 先着順となりますので、お求めの方はお急ぎください!!』


 まだ試合が残っている状況ながら、実況から気の早い案内が観客へ放たれる。

 これまでの試合は全てスポンサー企業のタレントによるもので、後の試合はプロ2名による対戦。

 残りの試合に出る参加者をないがしろにしているとも取れるそれは、外部から招いた者たちへの当てつけか。

 露骨なその誘導に、観客のうち少数が眉をひそめる。



「おいおい、随分な扱いじゃねえの! 俺様に嫉妬するあまりくだらねぇことする奴ぁいるが今回は心当たりがねえぞ、おいそっちはどうだ?」


「申し訳ないのですが、少々心当たりが。スポンサーの偉い方を怒らせてしまったようでして」


「ヒュウ、見た目に似合わず好戦的なタイプか。御園(みその) (しげる)……、やっぱり退屈な奴じゃなさそうだな!」


 自身の対戦相手、細猛(ほそたけ) (れつ)からの賛辞を繫は素直に受け取る。


「お褒めの言葉ありがとうございます。このような晴れ舞台でバトルするのも何かの縁、全力でお相手させていただきます」


「……ビンッビンにヤル気飛ばしてきやがって、胡散臭そうなツラして分かりやす過ぎんだろ、あんた」


 互いの闘志を燃料に、際限なく試合への熱を高めていく2人。


「まあ、昂ってんのはこっちも一緒だけどよぉッ!!」


 観客の中で勘が鋭い者などはその熱気を感じ取り、物販コーナーへ行こうとした者も少数だが席に座り直した。



「細猛 烈! 燃やし尽くすぜ!」


「御園 繫、参ります」


『Battle Start』


 試合開始と共に、限界まで張りつめた何かが弾けあたりに吹き荒れるのを幾人かが感じた。



「幸先いいな、先行は俺様だ! 1枚チャージして赤1点、【火花散らし】を召喚してターンエンド!」


【火花散らし】

カードコスト:[赤]

カードタイプ:ユニット

世界:赤

種族:精霊

戦闘力:1000/生命力:1000


 線香花火のような、儚くも確かに存在感のある球体の火花がその場に現れ威嚇するように我が身を震わせた。

 召喚されたユニットから繁は相手のデッキにいくつかあたりを付け、気を引き締める。


「ターンを貰います、ドロー! チャージし緑の1コスト【木の実拾い】を召喚」


【木の実拾い】

カードコスト:[緑]

カードタイプ:ユニット

世界:緑

種族:小人

戦闘力:1000/生命力:1000


 相手ユニットへ対峙するように、抱えた木の実でその体のほとんどが覆われている小人が繫のそばに立つ。

 両者の初手が終わり、まずは双方ユニットの召喚となった。


『ぷふっ。こ、これは何とも雑魚っぽ、いや可愛らしいユニットたちの登場です』


 実況、スポンサー企業の所属タレントが若干の嘲りを混ぜて両者を評する。


『先ほどの選手たちのカードと比べると、いやでも違いが分かります! これがバトルワールドのプロたる、くく、やり方なのでしょうか!?』


 露骨すぎる実況に、観客から非難の声が少なくない数あがる。

 プロ同士の対戦を楽しみに来ている者からすれば、ケチをつけるような実況などない方がましであった。

 観客の中には両者それぞれのファンも来ており、中でも過激な者は実況席へ襲撃しようと相談し始める者まで出てきている。


 そんなざわめきの中、当人たちの意識はもれなく互いの相手へ全て注がれていた。


「出やがったな、緑お得意のエネルギー加速ユニット」


「そちらも、赤が誇るバーンカードでいらっしゃる」


 お互いのカードの優秀さ、あるいは厄介さは理解しており、どのように攻略していくか。

 自身の得意な流れに持っていくためにはどうするべきかを、頭の中で組み立てていく。



「こりゃちんたら燃やしてたんじゃ間に合わねーな」


 このままズルズルやりあっていたら殴り負けるのは自分だと判断した烈が仕掛ける。


「赤の2点、【焦身の燎原火】を俺様のエンバイロメント(環境)フィールドにセット!」


 2人が対戦している場所のちょうど半分、細猛 烈の陣地とでもいうべき場所が塗り替わっていく。

 競会より貸し出されたオープンセンス(五感体感装置)はその性能を遺憾なく発揮し、床どころか空間までも発動されたカードのままに書き換わる。



 まるでプレイヤーを焼き尽くすように、空まで焦がす草原がそこに出現した。



 観客の大半がその異様な、本当に感じている熱気や焦げの匂いにどよめく。

 観客席から選手が対戦している場所は安全性を考慮してかなり遠く、それまでの試合ではユニットやサポートなどを使ってもいまいちその迫力が伝わりづらかった。

 またバトルワールドに関わっている者なら心得ている魅せ方というのを、数週間でルールやデッキの回し方をなんとか飲み込んだタレントたちに意識しろというのは酷な話である。


 そこにきて空間を丸ごと変えるような現象に、観客の多くが息を吞む。

 中には会場から急いで出ていこうとする者もいるほどだ。

 それほどまでに、先ほどまでの試合とは迫力が違う。

 見る者によっては召喚されているユニットさえも、今日召喚されたどのユニットよりも存在感があるように感じられた。


 これこそ競会がその技術を秘中の秘とするオープンセンス、その真価である。

 無から有を生み出すがごとき技術は幾度も転用を図られたが、その結果は芳しくない。

 《《バトルワールドから離れてしまえば全て幻のごとく消え去ってしまう》》からだ。

 ある学者はそれを、カードを用いた世界の書き換えだと提唱した。

 あれだけのエネルギーや質量が、その残滓も残さずに消失する。

 無から有だけではない、完全な有から無など、既存の法則に反しているのではないか。

 ならばあれはどこか別の世界を限定して貼り付けるようにしているのではないか、というのがその学者の説であった。

 しかし学者は己の仮説を発表した数日後に失踪し、その仮説も日の目を見ることなく消えていった。


 このようにいわくつきのオープンセンスだが、エンターテインメント性で言えばこれ以上のものはなかった。

 おとぎ話の住人たちがどこからともなく現れ、縦横無尽に駆け回りながらのバトルは瞬く間にショービジネスのトップに躍り出る。

 安全上の懸念などの声もあったが、それをかき消すほどに人々は五感に訴えかける非日常を欲した。

 示し合わせた様に各国で法整備が進み、今では多くの国でオープンセンスを用いたバトルワールドは一大興行として人気を博している。


 ドーム会場の観客も、驚いていたのは最初だけ。

 今はその意識を試合へと集中させている、いやさせられている者がほとんどだ。


「掴みはまずまずってとこだな。このまますんなり勝てたら楽なんだが」


「なるほど、【燎原ビートバーン】ですか」


「ああ、いくつか用意してたギミックの1つ。重量級が出てくる前に、一気に焼き払ってやろうってな」


 自分の得意な分野で勝つ。

 バトルワールドの対戦でプレイヤーが強く意識することだ。


「さあ、まずは景気づけの一発だ。【火花散らし】で攻撃!」


 攻撃の命令を受け、火花散らしの球体が口のように横一文字に裂ける。

 そうして大きく息を吸い込むような動作のあと、自身と同じほどの火球を勢いよく吐き出した。


「そっちのユニットで相打ちといくか?」


「いえ、彼には別の働きをしてもらいますので。【火花散らし】の攻撃は通します」


「後々この一撃に泣くことになるぜ。ちぃと熱いが受け取りな、俺様のおごりだ!」


 バスケットボールほどの火球が、ついに繫へと着弾し火炎が飛び散る。

 その破裂音や熱気に、いよいよ観客から声があがった。

 これまでの試合でより派手な、ユニットのぶつかり合いやサポートの応酬は確かにあった。

 だがそれらが、いまの一撃ほど真に迫っていたかと問われれば多くの者は返答に窮するだろう。


「【火花散らし】が相手プレイヤーにダメージを与えたことにより効果発動!」


 ただの一撃では終わらない、苛烈な火攻めが顕現する。


「全てのプレイヤーへ1000点のダメージを与える!」


 追加で破裂した火球は無差別に、その場にいた2人に炎を降り注ぐ。

 自身にも及んだダメージに、しかし烈の顔に浮かんでいるのは笑みだ。

 己の組み立てた戦術が機能していることへの充足、バトルワールドのプレイヤーが往々にして浮かべる表情である。


「俺様がダメージを受けたことにより、【焦身の燎原火】の効果も発動するぜ!」


 焼かれた烈の体からソウルポイントたるSPが粒子となってもれ、草原へと広がっていく。

 それは更に燃え広がる火を刺激し、相手を敗北へと叩き落す一手となる。


「ダメージを受けるたび、【燎原馬】トークンが俺様のフィールドに駆けつける!!」


 その言葉に応えるように、燃え広がり続ける草原の奥から炎で形作られた駿馬が現れた。

 熱さを感じさせない様子で烈が首を撫でれば、嬉しそうに一鳴きする炎馬。


【燎原馬】

カードタイプ:ユニット(トークン)

種族:精霊・馬

戦闘力:1000/生命力:1000


「俺様の攻撃はこれで終わりだが、自身の攻撃終了時の際に【焦身の燎原火】の効果により自身に1000のダメージ。ダメージを食らったことで【燎原馬】追加!」


 御園 繫

 SP20000→SP18000


 細猛 烈

 SP20000→SP18000


 攻め手の筈の烈がカード効果の自傷により、互いのSPは同じ数値。

 しかし烈のフィールドにはユニット3体に加え、ダメージを受けるたびにそのユニットが増えていくカードも存在している。

 どれもサイズとしては小粒だが、群れとなればその進軍を止めることは容易ではない。

 最初は微かな火花であっても、ひとたび燃えればそれは鎮まることなき猛火として敵を焼き尽くす。

 この攻めに半端な考えが通用しないことを、様々な対戦相手を消し炭にすることで烈は証明してきた。

 今回の相手はどうだろうかと、烈は繫を見やる。



「赤の苛烈な攻めに、私なりの返礼を。エネルギーフィールドより緑青2点、【木の実拾い】より緑1点の合計3点!」


 まだ繁の足元で燃え残っていた火が、どこからともなく出てきた霧に包まれ音もなく消える。


「【霧撒く(ひよどり)】を召喚!」


 そして烈がまばたきをした次の瞬間、繫の肩に淡い水色の小鳥がとまっていた。


【霧撒く鵯】

カードコスト:[青][緑][1]

カードタイプ:ユニット

世界:青

種族:歌い鳥

戦闘力:2000/生命力:2000


「【霧撒く鵯】が召喚された時、効果で私はカードを1枚ドローします。更にカードが手札に加わるたび、【霧撒く鵯】の効果により私は1000のSPを回復!」


 肩にとまっていた小鳥がデッキからカードを咥え、手札へと追加する。

 そのまま頭上を鳴きながら飛び、より濃くなった霧が繫の傷を癒すように吸い込まれていく。


 御園 繫

 SP18000→SP19000


「私はこれで、ターン終了です」


 SPを回復し、ターンを終える繫。

 フィールド上では劣勢だが、これでSPでは有利を取ることができた。


「俺様のターン、ドロー! 緑に加えて青のデッキか、リソース勝負じゃ分が悪いかもな」


 エネルギー加速やユニットの展開に長ける緑、相手への妨害や手札補充が得意な青。

 確かにこのまま潤沢なリソースを思うままに行使されたら、烈としては苦しい展開となるだろう。


「ならその前に焼きゃいいだけの話だ! 全ユニットで攻撃!」


 自身への攻撃が迫るなか、繁はこのターンの攻防について考える。

 相手のユニットは全て戦闘力・生命力ともに1000であり、自身の迎撃可能なユニットである【霧撒く鵯】の戦闘力・生命力は2000。

 相手のどのユニットも打ち取れるステータスであり、ここはダメージを抑えるためにもバーン内臓の【火花散らし】を防御したいが。


「攻撃は全て通します」


「流石に用心深えな。だがそれがお前の寿命を縮めるぜ! 赤3点で【ミニマム・ジェミニアタック】発動!」


 【火花散らし】の姿が一瞬ゆらめき、その残像が実体となって攻撃に加わる。


「攻撃中のコスト1のユニットを対象に発動し、そのユニットのコピーを攻撃状態でフィールドに出す! 増殖しろ、【火花散らし】!!」


 テキストにそれに関した記載が無ければ、基本的にユニットは召喚されたターン行動できない。

 しかし《《既に攻撃状態で召喚されていれば》》話は別である。

 霧など吹き飛ばさんと火炎が炸裂し、繁の全身を飲み込む。


「この瞬間、2体の【火花散らし】の効果によりお互い2000ダメージ!」


 追撃の火が繫と烈を焼く。

 だが烈にとってこの火はただ己を害するものではない。


「ダメージを受けたことにより【焦身の燎原火】の効果で【燎原馬】2体出現! 更に攻撃終了時【焦身の燎原火】で自身に1000ダメージ、【燎原馬】追加だ」


 御園 繫

 SP19000→SP13000


 細猛 烈

 SP18000→SP15000


 観客の多くは、この攻防でもう勝負あったと判断していた。

 プレイヤーの勝敗に直結するSPの差はさほど開いていないが、フィールドを見た場合は烈が圧倒していた。

 繁のフィールドに存在するユニットは2体なのに対し、烈は合計7体ものユニットがフィールドを埋めている。

 まさに多勢に無勢であり、後の展開は消化試合だというのが現状の空気であった。


「けほ、なるほどこれが。流石、先月の『月刊 微に入り細を穿つ』でキルターン総数月間ランキングに載ったのも頷けます」


 少々煤けた様子の繁が、スーツでは暑いのか顔を手で仰ぎながら告げる。

 ちなみに繁のユニットは、それぞれ左右のポケットにいつの間にか避難していた。


「はっ、この試合を糧に今月も載ってやるさ」


「ふふ、心苦しいですがそれは阻止させていただきましょう」



「私のターン、ドロー! 手札にカードが加わったことにより、【霧撒く鵯】の効果でSP回復!」


 御園 繫

 SP13000→SP14000


「【木の実拾い】より緑1点、【霧撒く鵯】より青1点! 更にエネルギーフィールドから緑2点の合計4点、【泥濘の大吞】を召喚!」


 現れたのは、巨大な全身を泥で覆われた山椒魚。

 現状を認識していないのかぼーっとしていたが、自身と対峙している敵ユニットの群れにふと気付く。

 次の瞬間、巨体に見合わぬ俊敏さで名前の通りの大口を開けたかと思えば、大量の泥を炎の群れへと吐き出す。


「【泥濘の大吞】が召喚された時、次の私のターンまで相手ユニット全ては戦闘力が1000下がります」


 先ほどまで赤々と燃え猛っていた烈のユニットたちが、浴びた泥の影響か次々と地に伏せる。

 まだ炎は消えていないが、泥が強固な拘束具のように全身を戒めていた。


【泥濘の大吞】

カードコスト:[緑][青][2]

カードタイプ:ユニット

世界:緑

種族:爬虫類

戦闘力:2000/生命力:4000


「……対策はステータスの変動できたか」


「えぇ、まずは火の勢いを弱めなくてはと考えましてね」


「ったく、俺様のユニットにひでえことしやがって」


「どうかご容赦を。私はこれでターン終了です」



【火花散らし】

戦闘力:1000/生命力:1000→戦闘力:0/生命力:1000


【燎原馬】

戦闘力:1000/生命力:1000→戦闘力:0/生命力:1000



 数を揃えたとしても、相手に与えるダメージがゼロではそれは意味をなさない。

 一瞬にして自軍の無力化にあった烈は、何を思うのか。


「俺様のターン、ドロー」


 いまドローしたカードをちらりと見て、烈は自身のユニットを確認する。

 フィールドには【火花散らし】が2体に、【燎原馬】が5体の合計7体。

 繁の残りSPは──



「──勝負させてもらうぜ」


「なるほど、受けて立ちましょう」



 烈の静かな宣告に、繫も騒がずに受けて立った。

 それまでの烈の闘志は荒々しく相手を打ち砕こうとするようであったが、いまはただ一振りで眼前の敵を斬り捨てんとするかのように。

 それまでの赤く激しく燃え盛る炎が、静かに青く色を変えるように。

 相手にとどめを刺す算段がついたプレイヤー特有の空気を、いま烈は纏っている。


「チャージして赤4点、【猛火的襲撃】を発動! 自身の全ユニットの戦闘力をプラス3000!」


 烈のユニットたちにまとわりついていた泥が音を立てて乾き崩れていく。

 そうして泥の拘束を打ち破った猛火たちの勢いは止まらず、会場全体に余すことなく広がる。



【火花散らし】

戦闘力:0/生命力:1000→戦闘力:3000/生命力:1000


【燎原馬】

戦闘力:0/生命力:1000→戦闘力:3000/生命力:1000



「総攻撃力21000の全ユニットで攻撃!! あるがままに奔り、燃えろォッ!!」


 四方八方、あらゆる場所から繁へ烈火の軍が殺到する。

 実況や観客のざわめき、会場の喧騒などとうにこの熱波の前では溶けて消えゆくのみ。



 その日、ドーム会場から天に昇る火柱を多くの者が目撃した。



バトルワールド、特にオープンセンスに関しては各国で暗闘が繰り広げられています。

技術者・研究者の非合法な招聘などはまだ穏当な方であり、産業スパイによる諜報戦の応酬は血に塗れています。

過去には国主導での違法行為が盛大に素っ破抜かれ、制裁によりバトルワールド先進国から没落した国家の存在も確認できます。


哀れな没落国家にレクイエムを聴かせてあげなさい。


==============================================

【焦身の燎原火】

カードコスト:[赤][1]

カードタイプ:エンバイロメント

世界:赤



このカードをコントロールしているプレイヤーがダメージを受けるたび、燎原馬トークン(種族:精霊・馬、戦闘力:1000/生命力:1000)1体を召喚する。

このカードをコントロールしているプレイヤーがユニット1体以上で攻撃した時、攻撃終了時に自身に1000点のダメージを与える。



己が身を焦がしながら、勇将の気概は天地を焼く。

==============================================


・この前パック剥いたらこれ出たけどこいつの長所教えて

・↑2コストと軽量、破壊されにくいエンバイロメントタイプのカード、生成トークンの種族が支援カードの豊富な種族である精霊と馬

・貧乏ビートダウンプレイヤーの頼れる相棒

・↑確かに同じような立ち位置のカードたちと比べると桁一つ安いよな。

・↑同じく疑問に思って調べたら、結構色んなパックに収録されてるかららしい

・↑なーる入手手段が豊富なんだな、教えてくれてサンクス

・放置するとあっという間にお馬さん増えて踏み潰されたり蹴り飛ばされたりするから注意な(実体験による教訓)

・黄の世界の回復カードと組んだビートダウンデッキによく採用されてるけど、雰囲気的にはやっぱ赤とか緑で組んでみたい

・↑分かる、西洋の騎士団的なのじゃなく東洋の騎馬軍団だわ

・↑イラストやフレーバーテキストからもイメージはそっち側だよなきっと



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