エリスの告白と、世界の果てへ
【世界の果て】は、ダンジョンというより異空間だった。
入口に立った瞬間、全ての感覚が狂い始める。
空は下にあり、大地は上にある。光は闇で、闇は光だ。【万能解析】が警告を発し続ける。
『警告:通常の空間理論が適用不可
警告:スキル効果が不安定
警告:精神への干渉を検知』
「これは……きつい」
「大丈夫ですか?」
「なんとか。お前は?」
「正直、気持ち悪いです」
歪んだ空間を進む。
罠は至る所にあった。進む度に空間が書き換えられ、来た道が消え、行く手が閉ざされる。
「落ち着いて解析する。焦らなければ突破できる」
一歩一歩、丁寧に道を見極めながら進んでいく。
30分後、少し慣れてきた頃。
「ケンタさん、一つ聞いてもいいですか」
「何だ?」
「帰ったら……私のことを覚えていてくれますか?」
「忘れるわけないだろ」
「でも、元の生活に戻ったら……この2ヶ月が夢みたいに薄れていくかもしれないじゃないですか」
「薄れない」
「どうしてそう言えるんですか」
「お前のことを忘れたくないと思ってるから。俺の意志の問題だ」
エリスが黙った。
しばらく歩いてから、彼女が言った。
「私、ケンタさんのことが好きです」
足が止まった。
「……知ってた」
「え!?」
「【万能解析】で、ずっと前から」
「な、なんですかそれ!? 知ってて何も言わなかったんですか!?」
「言ったら、お前が気まずくなって戦闘に支障が出ると思った」
「そういう計算で……!」
エリスが頬を真っ赤にして俺を睨んだ。
「最悪です、ケンタさん!」
「そうだな、最悪だな。ごめん」
「……謝れば済む話じゃないです」
「俺も……お前のことを、特別だと思ってた」
エリスの動きが止まった。
「それは……どういう意味ですか」
「この世界で出会った人間の中で、お前が一番大切だった。帰ってからも、お前のことを考えると思う」
「……でも、帰ったら会えないじゃないですか」
「そうだな」
「世界が違うんですよ。もう二度と会えないかもしれないのに、それでも……」
「それでも、お前は大切だ。感情に嘘はつけない」
エリスの目から涙が溢れた。
「……バカです、ケンタさんは。そんなこと言ったら、私、もっと辛くなるじゃないですか」
「ごめんな」
「謝らないでください。……嬉しいから。辛いけど、嬉しい」
俺はエリスの頭を一度だけ撫でた。
「行こう。全部終わったら、ゆっくり話せる」
「……はい」
俺たちは再び歩き始めた。
最奥部まで、あと少し。
3時間後、俺たちは【世界の果て】の最深部に到達した。
そこに待ち構えていたのは、予想通り管理者だった。
「よくぞ来た」
白い影が俺たちの前に立つ。
「残りダンジョン全制覇。見事だ。しかし……」
管理者が指を鳴らした。
「最後の試練がある」
「言ったな、お前。全部クリアしたら帰してくれるって」
「そう約束した。だから帰す。しかし、試練は別だ。これは、お前が本当に帰る価値があるかどうかを測るものだ」
「帰る価値?」
「お前は2ヶ月でこの世界の最強となり、魔王を倒し、全ダンジョンを制覇した。お前の力は、この世界にとって計り知れない価値がある。それでも帰るのか、という問いだ」
「帰る」
「即答するな。よく考えろ。この世界にはまだ問題が山積みだ。魔王は倒れたが、その残党は各地に残っている。お前が残れば、何万人もの命が救える」
俺は少し考えた。
確かに、そうかもしれない。
俺が残れば、この世界はより安全になる。多くの人が死なずに済む。
でも――
「帰る」
「なぜだ」
「俺が残ることで救える命はある。でも、俺にしかできないことは、この世界には何一つない。魔王を倒した今、強い冒険者は他にもいる。レオンたちがいる、マリアがいる、エリスがいる。彼らで十分だ」
「お前の【万能解析】は唯一無二だろう」
「スキルは俺のものだが、俺自身はこの世界の人間じゃない。俺には俺の場所がある。帰る場所がある。それを捨てることは、俺にはできない」
管理者が沈黙した。
「……よかろう」
扉が開く音がした。
「試練の内容を告げる。扉の向こうにいる存在を倒せ。それで全てが終わる」
『帰還解析進捗:99%』
あと1つ。




