二人きりの最終局面
エリスと二人で、残り5つのダンジョンに挑んだ。
最初の2つは力押しでいけた。
【深紅の魔境】は魔物が異常に多いダンジョンで、通常なら大人数のパーティーが必須とされている。しかし俺の【火炎ブレス】と【万能解析】による群衆コントロールで、4時間で突破。
次の【嘆きの廃都】は呪いが満ちた廃城ダンジョン。呪いは精神に作用して判断力を奪う設計だが、【万能解析】が精神干渉を自動的に排除してくれた。エリスの聖魔法との合わせ技で3時間半で攻略。
「残り3個……」
そこからが本番だった。
【天空の聖域】は文字通り、雲の上に浮かぶダンジョンだ。【飛行スキル】がなければ到達すら不可能で、これがパーティーを選ぶ理由の一つだった。
内部に入ると、即座に違和感を感じた。
「【万能解析】が正確に動かない……」
「ここは聖属性の濃度が高すぎて、解析自体に干渉しているんだと思います」
エリスが周囲を見渡しながら言う。
「聖域は元々、神が作った空間らしいので……人間の技術や魔法の理論が通じにくい構造になってるんです」
「つまり、俺のチート能力が効きにくい場所か」
「はい。でも……」
エリスが杖を構えた。
「聖属性なら、私の方が得意です」
彼女が前に出た。
今まで俺の後ろにいたエリスが、今日初めて俺の前に立った。
「ついてきてください。今度は私が道を開きます」
「……頼む」
エリスは聖魔法を駆使して聖域の罠を無効化し、天使型の守護者たちを浄化魔法で撃退し、最奥のセラフィムボスを5時間かけて攻略した。
「……やったん、です……」
エリスがへたり込む。
「よくやった」
「ケンタさんが頼ってくれたこと、初めてでしたね」
「そうだな」
「嬉しかったです」
俺は彼女に手を差し伸べた。
「ありがとう。残り2個だ」
「はい!」
エリスが俺の手を掴んで立ち上がる。
次の【虚数の回廊】は、存在しない空間が無限に続くダンジョン。物理法則が通じず、正面に進んでいるつもりが逆方向に進んでいたりする。
「これは俺の出番だ」
【万能解析】で空間の歪みを全て把握。俺がエリスの手を引いて、論理的に正しいルートだけを歩く。
「目を閉じて、俺についてこい」
「え、でも」
「信じてくれ」
「……はい」
エリスが目を閉じ、俺の手を強く握る。
俺は解析した道筋だけを正確に歩く。一見無意味な方向転換を繰り返しながら、最短距離で最奥へ。
ボスは【虚数の番人】。形を持たない概念的な存在。
「こういう相手か……」
「どうするんですか?」
「概念的な存在は、概念で倒す」
俺は【万能解析】を最大出力で発動した。
「【世界の理を以て解析する】」
番人の存在理由、意識の構造、消滅条件を全て解析。弱点は「認識されない状態」、つまり俺たちが番人を無視することで番人は存在できなくなる。
「エリス、番人を無視してボスの核だけを見ろ。番人の視覚情報を全て遮断する」
「……わかりました」
二人で番人の存在を完全に無視した瞬間、番人は消滅した。
「え……倒せた?」
「存在を否定されると消える相手だった。斬るより楽だな」
「そんな攻略法……」
2時間で攻略。
「残り1個」
最後のダンジョン【世界の果て】。それだけが残った。
「ケンタさん」
「ん?」
「怖くないですか」
「何が?」
「帰ること。この2ヶ月間があったこと、全部……夢みたいになってしまうのが」
俺は少し考えてから答えた。
「怖い。正直に言うと、怖い」
「……そうですよね」
「でも帰る。それだけは変わらない」
「……はい」
「エリス、お前は本当によくやってくれた。お前なしじゃここまで来れなかった」
「ケンタさん……」
「最後まで、よろしく頼む」
「はい。絶対に、帰してみせます」
俺たちは最後のダンジョンへ向かった。




