システムの主の痕跡
50個目のダンジョン――【虚無の深淵】を攻略した、その瞬間だった。
最深部の空間が、不自然に波打つ。
「な、何だ……!?」
空気が軋み、光が収束する。
現れたのは――人の輪郭をした、発光する影。
「……興味深い」
声だけが、直接脳内に響いた。
「三百年ぶりだ。ここまで到達した召喚者は」
「お前……管理者か!?」
「いかにも。私はこの世界の“システム”を管理する存在」
【万能解析】が激しく警告を発する。
『警告:対象レベル測定不能
推定戦闘力:現在の10倍以上
交戦推奨:不可』
背筋が冷える。
「安心しろ。まだ戦う時ではない」
管理者が指を軽く振った。
その瞬間――音が消えた。
エリスもマリアも、動きを止めたまま静止している。
空中に舞っていた砂塵すら止まっていた。
時間停止。
「お前は面白い」
光の影が一歩、こちらへ近づく。
「帰還に執着し、最短距離を選び、最速で到達した。感情より合理を優先する思考……実に興味深い」
「……何が目的だ」
「観察だよ。召喚者という“異物”が、どこまでこの世界を攻略できるか」
「ふざけるな。俺を実験台にしてるのか?」
「その通りだ」
あっさりと肯定された。
「だがな」
管理者の光が、わずかに強まる。
「もしお前が、全ダンジョンを制覇したなら――」
一瞬、世界の輪郭が揺らいだ。
「本当に帰してやろう」
「……本当か?」
「約束しよう。管理者の名において」
淡い笑みの気配。
「ただし、残り五十。すべて制覇できれば、だがな」
次の瞬間。
時間が流れ出す。
砂塵が落ち、エリスが瞬きをする。
管理者の姿は、跡形もなく消えていた。
静寂。
「……クソが」
だが、確信した。
帰還方法はある。
理論上の幻想ではない。
管理者自身が保証した。
なら――やることは一つ。
「全部、潰す」
残り50ダンジョン。
ゴールは、はっきり見えた。




