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26 依頼


「既に察しているだろうが、今回襲撃を受けたのは西の街道を通行していたラファエル達高貴な百合(ノウブル・リリィ)のユニコーンチームと、ここ、ダンジョン都市までの護衛依頼を頼んでいた一般市民だ。高貴な百合の奮戦により一般市民から死者は出なかったが、彼女達からは多数の死傷者が出ている」

「そう、ですか……」



 突きつけられた現実に、イズミの心が重く沈む。

 見た限り室内に手遅れと思しき者はいなかったが、イズミが到着した時には既に別室へ運び込まれていたのかもしれない。


 高貴な百合は百名近くの大型クランだ。その中で三チームに分かれているらしいので、一チームは大体三十名弱という計算になる。イズミが手伝いに入った広間には十数名のメンバーがいたので、残る十数名はもしかすると……。



「っ……」



 思わず考えてしまい、頭を振る。

 今はギルマスの話に集中しなければと、無理矢理思考を切り替える。



「基本的にこの手の事件は、金品目的の盗賊による犯行がほとんどだ。事実、高貴な百合は勿論、被害に遭った一般市民もみな、襲撃者は盗賊のような連中だったと証言している。馬車を襲い金目の物を奪って行ったとね」

「じゃあ、今回も……?」

「そうだね、盗賊の仕業と考えるのが妥当だ。――が、そう単純な話ではない場合もある。今回の件も一見、盗賊の仕業に思えるが……彼女達の証言をまとめたところ、どうやら単なる金品目的の犯行ではない可能性が高くてね」

「と言うと?」



 イズミが小首を傾げて続きを促せば、ギルマスは脚を組み替えて続けた。



「理由は幾つかあるんだが……不可解な点としては、一つ、その場にいた一般市民を無差別に攻撃した。老若男女問わずね」

「!」



 その言葉に一瞬ヒヤリとするも、ギルマスは先ほど“一般市民から死者は出なかった”と言った。つまり、ケガ人は出たかもしれないが命に別状のある者はいないのだろう。思わず上げかけた腰を再びソファーへ沈めて、イズミはホッと息を吐いた。

 

 盗賊にとって女子供は、金品に次ぐ戦利品である。一般市民と言えど抵抗されると面倒な成人男性への攻撃は分かるが、女子供を傷つけるメリットは基本的にないはずだ。


 理由は単純で、傷つけては連れ帰るのも一苦労だし、売る場合はケガのぶん価値が下がる。自分達で楽しむにしても、ケガをした状態で無理をさせれば数日ともたないだろう。街の外では匂いにつられて魔物が集まって来るため遺体の処理も手間なはずで、そうなると増々雑な扱いをする意味が見当たらない。


 老人に関しては、そもそも戦力を割くこと自体が無駄である。

 元騎士や冒険者で多少は動ける者がいたのなら分からなくもないが、護衛を前にして一般人のお年寄りに貴重な魔力を割くなど愚の骨頂だ。その分を護衛への攻撃に当てた方がまだ勝率が上がるだろう。


 もちろん、護衛が一般市民を庇うことを想定した上での攻撃、という可能性もあるが……。



「二つ、奴隷を所有していたこと」

「奴隷……」



 その言葉にイズミは目を丸めた。


 ギルマスいわく、奴隷とは既存スキル【隷属契約スレイヴ】によって作られるらしい。


 奴隷の種類は大まかに【犯罪奴隷】と【借金奴隷】に別れ、基本的にはどちらも高額で購入者の大半は貴族か豪商だという。

 中には、翠の天明のような犯罪組織に攫われたりして違法に奴隷にされた者もいるそうだが、それらの者が大っぴらに売られることはなく、しかも犯罪、借金奴隷よりも高額で取引されることがほとんどだそうで、つまるところ奴隷は例外なく高価なのだ。


 基本的に金に余裕のない盗賊に買えるはずもない。


 もちろん隷属スキルを持つ者がいればいくらでも奴隷を作り出せるが、奴隷制度の存在する他国でも隷属スキル持ちは中々貴重で引く手余多らしく、すき好んで盗賊になる者などいないそう。

 しかも、仮に隷属スキル持ちが罪を犯して捕らえられたとしても、貴重なスキル持ちゆえに監視が厳しく脱走は特に難しいらしかった。


 つまり、奴隷は奪ったものと考えられる。


 であれば盗賊が奴隷を所有していたとしても何ら不思議ではないが、と考えたイズミはしかし、



「そして、三つ。その奴隷を自分達の()として使()()()()()ことだ」

「奴隷を盾? それは、どういう……」

「文字通りの意味さ。襲撃者は護衛――今回の場合は高貴な百合だが、護衛が攻撃できないことを見越して奴隷を自分達の盾に利用したんだ。例え斬られようと焼かれようと、契約者の命令には逆らえない奴隷をね」

「っ……」



 あまりの内容に言葉を失った。


 装備でガッチガチに固めた盾職が、前衛として敵を引きつけるのとはわけが違う。無防備な人間を盾という名の人質にして、戦場へ連れ出したのだ。

 そんなことをされたら、当然、良識のある冒険者達は手出しできない。もちろん、相手の思惑通り全滅するわけにはいかないため、いざとなれば奴隷を切り捨てるより他にないのだろうが……弱者の味方である高貴な百合がそんな無情な選択をできるはずもない。


 だからこそ、防戦を強いられた高貴な百合からそこまでの被害が出たのだ。

 それでも半数近くのメンバーが生き残ったのは、ひとえに高貴な百合がそれだけ優秀なクランだからなのだろう。他のクランやパーティーであれば、一般市民も含めて全滅していてもおかしくなかったはずだ。


 今回の襲撃に利用された奴隷は、十三名だという。


 みな女性で年齢は十~三十代と若かったが、襲撃犯が逃走直前に口封じのためか一人残らず殺害していったため、襲撃犯に関する情報はおろか女性達の身元も分からないらしい。仮に他国の犯罪奴隷、借金奴隷のどちらかであれば奴隷商を通じて照会は可能だが、違法奴隷であれば身元の特定は不可能に近い。


 一歩間違えれば、ラウラも似たような運命を辿っていたかもしれない。

 そう考えると更なる恐怖を覚えると同時に、目の前が赤く染まるような激しい怒りが湧いてくる。



「ただ、そこが不可解な点でね。盗賊が高価な奴隷を手に入れようとしたら、輸送時を狙って奪うしかない。しかし、奪うとなれば奴隷商側との戦闘は避けられないし、盗賊とて無傷で済むことはないだろう。そこまでして手に入れた奴隷を盾代わりに戦場へ引っ張り出すなんて、どう考えても盗賊側の大損失なんだよ」

「確かに、そうですね……。それじゃまるで、お金が目的というよりも誰かを殺すことが目的だったような……」



 何気なく零したイズミの呟きに、ギルマスが首肯する。



「そう。例えば、同行者の中に要人でもいれば合点がいったのだけれどね……生憎と乗客は全員一般市民で、命を狙われる理由はない。強いて言えば――」



 そう言ってギルマスが視線を向けた先。

 そこにはミカエルとラファエルの姿があり、その視線を受けて二人は顔を見合わせると、静かに言葉を引き継いだ。



「そうですね。奴等の目的は恐らく、我々でしょう」

「高貴な百合のみなさんが狙い、ですか?」

「ええ。それなら襲撃者の行動にも納得がいきます。一般市民への攻撃も、奴隷による牽制も、我々への対策として考えれば最も効果的な方法ですから」

「だね。大方、我々に恨みのある者の犯行じゃないかな?」



 平然と言ってのける二人に、イズミは納得できず首を傾げる。



「恨みですか? 街でも評判のみなさんに恨みを持つ人なんて、」

「フフ、イズミ嬢は優しいな。しかし、自分で言うのも何だが我々は割と恨みを買っている自覚があるんだ」



 イズミはこの数日で高貴な百合の人気をしかと目の当たりにしている。街の女性達からはもちろん、子供やお年寄り、商人、冒険者どうぎょうしゃからも人望が厚く、恨まれるとしたらその人気ゆえのやっかみくらいではなかろうか。


 強いて理由を挙げるなら、裕福な男性依頼者の場合、指名依頼料が少し高いことか。

 それにしたって、文句があるなら他の冒険者に頼めばいいだけなのだから、命を狙うほどの理由にはならないだろう。



「まあ、簡単に言うと、女性関連の依頼で禄でもない男から恨まれることが多々あってね」

「えーと?」

「説明が雑過ぎんだろ……」



 

 飽きれたように肩を落としたサブマスいわく。


 高貴な百合はこれまでに、盗賊一味を壊滅させ攫われた女子供を救出したり、DVを受けている女子供を安全な場所へ逃がし、その夫や親を騎士団へ突き出したり、違法に奴隷にされた女子供を救出して、奴隷商や貴族を騎士団へ突き出したりと様々な活動をしているらしい。


 もちろん、貴族や平民といった身分を問わずに、だ。


 女子供老人といった弱者の味方である高貴な百合らしい内容に感心する一方で、確かにそれは各所方面から恨みを買いそうだと納得する。言うまでもなくそれは逆恨みでしかないのだが、他人の命を軽んじる連中に常識が通用するはずもない。


 結果、恨みを持つ者があちこちに増殖し続けているのだ。

 まあ、その大多数は捕らえられ、相応の罰を科されている最中らしいが。



「これまでも襲撃を受けることはあったんだよ。ただそれも、激情に駆られた張本人が街中で突撃して来たり、雇われた人間が私やラファエルを暗殺しようとクランハウスへ忍び込んだり、権力を使って無実の罪で捕らえようとしたりと可愛いレベルのものばかりだったんだ」

「それ可愛いレベルですかね!?」

「ハハッ、可愛いさ! このダンジョン都市で実力と人脈を培った我々からすれば、軽くあしらえるものばかりだったからね。向こうにもそれなりの矜持があったのか、一般人を巻き込むようなこともなかったし」

「な、なるほど」



 ギルドへの依頼は、当然、貴族からもくる。運が良ければ貴族との繋がりも得られるし、そもそもミカエルやラファエルは貴族の出なのだ。彼女達からすれば実力行使はもちろんのこと、その手の嫌がらせもどこ吹く風だったのだろう。



「だが、今回ばかりは違う。これまでの襲撃者ですら越えなかった一線を、奴らは平然と踏み越えてきた。ならば我々も全力を尽くして叩きのめすのみさ」

「ええ。必ずや襲撃犯を全員捕らえ、相応の報いを受けさせます。そのためにも――イズミ嬢、」



 真剣な眼差しのラファエルに呼ばれ、イズミは姿勢を正す。



「! はい」

「どうか私達に力を貸して頂けないでしょうか? イズミ嬢の力ならば犯人を見つけ出せる可能性があると、ギルマスから伺っております」



 レベリング進行中のこの数日間、イズミとワラビは一依頼者という関係以上に、高貴な百合の面々からとても良くしてもらった。


 それに、イズミも依頼者になり戦闘経験を積んだからよく分かる。依頼を受けたからといって、いざという時に命を賭してまで依頼者たにんを守れる冒険者は、きっと少ない。多くは我が身可愛さに依頼者たにんなど捨て置くだろう。


 そんな冒険者にあって、命を賭して一般市民いらいしゃを守り抜いた高貴な百合の面々を、その誇り高い志を、イズミは心から尊敬している。


 ゆえに協力を拒むという選択肢はなく、



「もちろんです! 私は何をすればいいでしょうか?」



 イズミは二つ返事で頷いた。

 再び「ありがとう」と頭を下げるミカエル達を手で制して、やるべきことを問う。



「今回の襲撃犯だが、一人も確保できなかったことに加えて、手慣れているのか、用意周到なのか……手掛かりになりそうな物を一切残してくれなくてね。今は騎士団と共に追跡に長けた魔物使いが痕跡を辿っているのだけれど、ジャレッド達の報告によれば状況は芳しくなさそうなんだ。だから、イズミには調査へ加わって襲撃者の痕跡を探して欲しいんだが……」



 暗に「出来るかな?」と問うギルマスの視線を受け、イズミはふむと考える。


 襲撃現場である西の街道は、ダンジョン都市の背後にそびえる山、その麓から続く森の中を切り開いて作られた一本道らしい。襲撃犯はその森を利用して高貴な百合の一行を奇襲し、逃走せしめたのだという。


 遺留品てがかりを残していかなかったとなると、物から犯人を辿ることはできない。

 先日ラウラの捜索で使用した魔力感知は使えないし、同様に匂いから辿ることも難しい。襲撃直後である今だからこそ血の匂いを辿れているかもしれないが、明日にはその手掛かりも風と共に消えているだろう。


 視覚系のスキルにしても、仮に今から千里眼の下位互換スキルを作って行方を追ったところで、効果範囲的に街の外まで見ることは到底できない。今は夜中で鳥系の魔物による上空からの捜索もできないらしいし、割と手詰まりだ。


 となると、全く別の追跡、捜索スキルを作り出さなければならないのだが……。


 室内にいる全員の視線を浴びながら、暫しスキルを模索した結果、



「たぶん、できます。……いえ、やってみせます」

「そうか、流石はイズミだ。君の力を借りられるのなら百――いや、千人力だよ」



 イズミの言葉を受けて、辛くも繋がった希望にみなが安堵した様子で息を吐いた。



「感謝します、イズミ嬢」

「ありがとう、イズミ嬢。どうか、よろしく頼む」

「はい。絶対に手がかりを見つけてみせます」






 その後、騎士も交えて手短に調査の打ち合わせを終えると、明日に備えるべくイズミは一足先にギルドを出る。人手が惜しいからと付き添いは断って、ギリギリ運行していた馬車へ乗り込みサブマス宅へ戻れば、玄関へ入った瞬間アリアに捕まった。


 その場で説明を求められ、少し迷ったものの全てを話す。


 と、やはりアリアは酷く落ち込んだ。

 ギルドの受付嬢だったアリアは、高貴な百合の面々とは顔見知りである。中には仲の良い者もいたはずだ。冒険者は命懸けの仕事とは言え、今回のような理不尽な死は何度見聞きしても慣れることなどないのだろう。


 そんな失意の中でも、調査に協力する旨も話せばイズミの身を心配して止めてくれたが、ミカエルにラファエル、それと騎士団の方でも上官クラスの者が同行するらしいことを伝えれば、渋々ながらも納得してくれた。


 ラウラはエリーゼと寝ているらしく、しっかり休んでと見送られて自室へ戻ると、寝間着に着替えてベッドへ潜り込む。ワラビには先に寝るよう伝え、イズミはヘッドボードへ背を預けると調査に役立ちそうなスキルを作るべく、紙とペンを手にした。

手直ししすぎて度々わけが分からなくなってます。

読みづらい、説明不足な点があったら申し訳ありません…。

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