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23 続・レベル上げ

 そうして、夕方まで魔物を倒しまくった結果。

 イズミが二十四、ワラビが三十六まで上がったところで、本日のレベル上げは終了。


 ダンジョンから帰還して、ギルドで本日分の依頼料を清算する。ついでにドロップ品を換金してもらって均等に分配すると、その場で解散――かと思いきや家まで送るとのことで、すったもんだのすえ送ってもらうことになった。


 暗くなり始めるこの時分に婦女子を一人で帰すのは、高貴な百合(ノウブル・リリィ)の矜持に反するらしい。紳士として。


 ――そう、紳士として。


 もちろん、突っ込むような野暮なマネはしない。彼女達の心は確かに、本物を上回る紳士だから。


 ギルドを出て馬車へ乗り込むと、サブマスの家へ向かう。


 高貴な百合の面々もサブマスの家には行ったことがあるようで、説明するまでもなく最寄りの停留所で下車。ミカエルのエスコートで歩き始めたところ、なぜか周囲から「きゃーーーーっ!!」という黄色い声が聞こえてきて、イズミはギョッとして何事かと辺りを見回した。


 すると、



「ちょっと! あれ、ミカエル様よね!? やだぁ、超イケメン!!」

「ほんとだわ! ああ、今日も麗しい……こんなところでお目にかかれるなんて!」

「ヴェルケイル様、トゥアル様、サクルフ様にバルキエル様……珍しい組み合わせね!」

「ラファエル様は!? 私の推しのラファエル様は!?」



 遊んだ帰りなのか、オシャレに着飾った女の子達が少し離れたところで高貴な百合の面々を見てキャッキャとはしゃいでいた。

 街で一番の規模を誇る高貴な百合(ノウブル・リリィ)は、やはり有名らしい。

 そんな女の子達へミカエルが笑顔で手を振ると、黄色い声は歓声の域を越えて悲鳴になる。



「いやああああ! こっち見た!! 私に微笑んでくれたわっ!!」

「いいえあたしよ!! 今完全に目が合ったもの!」

「違うから! 私だから! 角度的にこっちだったから!!」

「ああーん、ミカエルさまーーーー!!」



 彼女たちの反応は完全に芸能人と会った時のそれで、イズミは密かに苦笑する。


 宝〇? 宝〇なのか? 気持ちはわかるけれど。


 一方、高貴な百合の面々も女の子達を見て「フフ、可愛いね」と満更でもなさそうに微笑んでいて、この人達はキャラかガチのどっちなんだろう……と、イズミは天を仰ぎながら現実逃避気味に考える。


 いや、別にどっちでもいいのだけれど。


 一応ファン(仮)のマナーはなっているようで追い駆けられるようなことはなく、無事にサブマスの家に到着するとアリアやラウラが出迎えてくれた。


 ミカエルの言う通りラウラとは友人? のようで、ラウラはミカエル達の訪問を喜んだ。アリア親子が高貴な百合の面々を夕食に誘うと、せっかくだからと一緒に食事をすることになり、サブマスの帰宅が遅いこともあって女子会となった夕食は大いに盛り上がった。






 高貴な百合が帰ったところで、入れ替わるようにサブマスが帰宅。

 依頼料に関して気になることがあったイズミは、一人で晩酌を楽しむサブマスへ突撃して尋ねた。


 高貴な百合への依頼は一日五時間半を、計六日間。


 一日の料金は、金貨四枚と大銀貨一枚――日本円にして四万千円だった。単純計算で、一人時給千六百円ほどということになる。仮にも街一番の大規模クラン、そこのリーダーが直々に請け負ってくれたのだから、普通に考えたらもっと高くて然るべきだ。


 どう考えたって、高ランク冒険者をその程度の金額で雇えるはずはないのだから。

 もちろん、現在無職であるイズミとしてはできる限り節約したいので、安いに越したことはないのだが……。



「あー、あいつらの依頼料はいつもそんなもんだ。()()()()()からの依頼はな。その代わり、野郎相手の場合は相応の額をふんだくってるから気にすんな」

「いや、余計気になりますって……大丈夫なんですか、それ?」



 今回、初めて依頼を出すにあたって教わったが、依頼料には当然相場がある。


 冒険者を指名しない、いわゆる自由フリー依頼の場合は相場の値で依頼を出せるが、冒険者を指名する指名依頼となると、冒険者側との値段交渉をすることになる。とはいえそれも、相場からそうかけ離れることはない。


 依頼者によって金額を変えるのは、普通に考えてあまり褒められたことではないだろう。せこい貴族や商人といった男性依頼者から文句の一つや二つは貰いそうなものだが。



「大丈夫、大丈夫! ふんだくるっつっても、ギルドから見ても妥当な額に収まってる。それにあいつら自身が強えのは言うまでもないが、どうぎょうしゃとの繋がりも強え。んでもってギルドからの信頼も厚いから、仮に揉めたとしても手を出すバカなんていないしな」

「そうですか? それなら、まあ、いいんですけど……」



 確かに、有名クランに喧嘩を売る依頼者バカなどいないだろう。

 まあ、仮に言ったところでこれ以上の報酬額を受け取ってもらえるとも思えない。別の形で何かお礼をしよう……と考えるイズミだった。







 順調にレベルを上げ、二日目終了時点でイズミのレベルは三十五、ワラビは四十になった。


 三日目の本日も昼過ぎからダンジョンにてレベリングだ。イズミとワラビのレベルがぐんぐん上がっていることもあり、今日からは更に下層でレベリングを行う。

 といっても、四十層代ではあるため生息する敵の種類も変わらず、今日も今日とてサクサク魔物を倒しながら進んで行く。


 ダンジョン内の天候は変わらないようで、四十層代はいつも気持ちの良い快晴だ。お陰で、魔物を倒したあとの陰鬱な気持ちをそこまで引きずらずに済んでいる。


 慣れというよりかは麻痺に近いが、二日も魔物を倒しまくっていればワラビが動物型の魔物を倒してもそこまで精神メンタルにくることも減った。そのため、今日は休憩時間を設けて軽食を取りながら、せっかくの景色を堪能することに。


 四十層代は海と砂浜のフィールドだけあって、魔物も海に生息するものばかり。必然、それらの魔物は倒した際に海産物をドロップする。ダンジョンでドロップする食材は都市名物の一つらしいので、持ち帰るとアリア達にとても喜ばれた。


 今日の軽食は、それらの具材を使用してアリアとエリーゼが作ってくれたものだ。

 魚のフライを挟んだサンドイッチに、貝と野菜をたっぷり使ったトマトスープ。


 もちろん、これらの調理にはイズミも参加している。サブマスの家で世話になり始めてからというもの、これまでは挑戦できなかった料理にも携われるようになったこともあって、イズミの手際は少しずつ、だが、着実に良くなってきている。


 野菜の皮むきも厚さが安定してきたし、速さこそないものの細さや大きさを均一に切ることができるようになってきた。同年代の者からすれ遅すぎるくらいのスタートだが、イズミからすれば十分満足のゆく進歩だった。


 それもひとえにアリアとエリーゼのお陰だ。

 一人(と一匹)暮らしを選択していたら、確実に調理とは無縁のままだっただろう。


 何より、自分が作ったものを食べてもらえる喜びを知ることもできた。

 ラーメン屋を営んでいた父もこんな気分だったのかなと、イズミは今さらながらに思う。本当は家族にこそ自分が作った料理を食べて欲しかったのだが、その願いがこの先叶うのか……それは神のみぞ知る。


 一見だだっ広く見通しの良いこのフィールドにも、休憩に良さそうな岩場が点在する。


 そこの一つで休憩をすることになって、イズミは影収納から道具を取り出す。大きな岩を背にしてラグを敷き、サンドイッチの詰まった大振りなバスケットとスープジャーを人数分並べると、みなで腰を下ろした。


 ヴェルケイルとサクルフは見張りのため後で食べるとのことで、残りのメンバーと雑談を交えながら先に軽食を頂く。膝に乗せたワラビはさっそくサンドイッチに夢中で、見ているこちらが幸せな気分になる朗らかな表情で美味しそうに食べている。


 高貴な百合の面々はその凛とした雰囲気から突っつきにくそうな印象があるが、話してみると中身は至って普通の女性だ。街で流行りの食べ物や、人気の武具、新しい店、ファッションにメイクと彼女達の話題は尽きない。


 この街に来たばかりであるイズミにはどれも参考になる話で、素直に感心してしまう。

 お陰で三日目ともなると結構打ち解けて、踏み込んでもいいラインが分かるようになってきた。そのため、イズミはこの機に気になっていたことを尋ねてみることにした。



「あの、ミカエルさん。差し支えなければ、クラン設立の経緯とか聞いてもいいですか?」



 そう、めちゃくちゃ気になっていたクラン事情。

 何をどうしたらこんな宝〇のようなクランが出来上がったのか、イズミはずっと気になっていた。正直、会う度に悶々とするレベルで。



「フフ、もちろんさ! 特に面白い話ではないけれど、せっかくイズミ嬢が興味を持ってくれたのだからね」

「ありがとうございます」



 話しにくいことだったらどうしようかと内心ドキドキしていたが、想像以上にアッサリ許可が出てホッとする。少なくとも暗い話ではないのだろうと、イズミは食事の手を休めてミカエルに視線を留めた。



「今でこそ冒険者として自由を謳歌しているが、私はこれでも貴族の生まれでね。家の事情から男として育てられたんだ」



 その言葉にイズミは「男性として?」と目を丸める。

 平民の見よう見真似とは思えない堂々とした振る舞いから、貴族であることには薄々勘づいていたものの、男性として振る舞う理由がそこにあったとは思わなかった。まさか生粋? の男装の麗人だったとはと、イズミは目を瞬かせながら続きを待つ。



「ああ。というのも、貴族には割とよくある話だけれど……我が家は中々男児に恵まれなくてね。しかも、運悪く親戚筋にも年頃の男児がいなかったこともあって、仕方なく四女の私が男として育てられることになったのさ」


「えっと……この国では女性が爵位を継ぐことはできないんですか?」


「イズミ嬢は他国の出身だったね。一応、この国でも女性当主は認められているんだ。しかし、現状あまり望ましいことではないかな。現国王は実力主義な方で、能力さえあれば女性でも信を置いてくださるのだけれど、諸侯には“女は家を守っていればいい”という古臭い考えに囚われたままの者が多すぎるから。残念なことに我が伯爵家――特に祖父がその一人でね」



 そう言うって苦笑いを零すと、ミカエルはスープを一口飲んでホッと一息を吐く。

 そんな何気ない仕草の一つ一つが様になっていて、イズミの視線は自然とミカエルの一挙手一投足を追う。



「そんなわけで、私は弟が生まれるまでの繋ぎに男として、様々な教育を受けてきたのだけれど……十一の時に漸く、待望の弟が生まれてね。数年の様子見を経て、私は晴れてお役目ご免となったんだ。まあ、普通ならそこで“令嬢”に戻るんだろうが、祖父の言いなりだった両親はあれでいて私に罪悪感があったらしい。犠牲を強いた代償に選択肢を与えてくれたのさ」


「選択肢……ですか」


「ああ。実のところ男性としての振る舞いは性に合っていたから、両親が思うほど悪くはない生活だったんだ。だから私もどうすべきか迷ったが、上には姉が三人いるし、弟もすくすく成長していたからね。家のことは大丈夫だと思って、趣味であった剣術と魔術を活かして冒険者として生きる道を選ばせてもらったんだ。両親も私が体を動かすことが好きだと気付いていたから、それなら騎士にと勧められたけれど、これ以上堅苦しい生活はご免だったから結局冒険者で許してもらったんだ」



 イズミは相槌を打ちながら、それはまた随分思い切ったなぁと思う。


 異世界物では、継ぐべき爵位も領地もない貴族の子息は騎士や冒険者になることが多いが、令嬢が冒険者に――というパターンは相当稀だろう。基本的に貴族の子女は職に就かず家庭へ入ることがほとんどだ。仮に働くとしたって王宮の侍女や文官として、安全な環境に身を置くことが多い。


 それは恐らくこの世界でも変わらないはずだ。

 まあ、趣味であるならそれも当然の結果ではあるが。



「それから、十五で冒険者になって暫くはソロで活動をしていた。男としての振る舞いが染み付いていたし、何かと都合が良かったこともあって男装のままでね。しかし、偶然にも似た境遇のラファエル――うちのサブリーダーと出会って。似た者同士で気楽だったことと、依頼の都合で度々パーティーを組むことがあって、その都度自然とパーティーを組んでいたんだ。そしたら何時の間にかラファエルとの固定パーティーになって、メンバーもどんどん増えていって……まあ、早い話、気付いたらこうなっていた、というわけさ!」



 ハハハ! と笑いながら、ミカエルはそう締め括った。

 イズミはつられて笑みを浮かべつつ、なるほどなぁと納得をする。


 冒険者に限らず、どんな世界、職業でも新人は絡まれやすい。それが女の子――ましてや貴族ともなれば、良からぬことを考える者もいるはずだ。そうした面倒事を回避するため、ミカエルは培った男性としての振る舞いを利用することにしたのだろう。


 冒険者は単身ソロでもできなくはないが、やはりパーティーを組んだ方がよほど効率的で安全なのは言うまでもない。


 しかし、パーティーを組むとなると考慮すべき点はたくさんある。性格と職の相性、実力の差。他にも挙げればキリはないが、最低限クリアすべき点はそんなものだろう。そんなもの、なのだが……男女となるとそれがどうして難しい。


 なんせ冒険者は野営をすることも少なくないのだ。

 気心の知れない男性と寝食を共にできるはずもない。


 ゆえに、紳士的で見目麗しい二人組(しかも女性)がいたら、自分もぜひパーティーに! となる冒険者女性が続出したであろうことは想像に難くない。寧ろ納得だった。

 ミカエルは軽い調子で趣味みたいなものなどと言っていたが、宝〇武装はきちんと理に適っていたのだ。


 ただ一点、気になるのは。



「あ、あの、()()()()()さんって……」

「うん? うちのサブリーダーの一人でね、今は巡視で街の外に出ているんだ。もうそろそろ戻って来るはずだから、今度イズミ嬢にも紹介させて欲しい」



 違う、そうじゃない。

 というか、さらに聞きたいことが増えた。



「あ、はい、それはぜひ。でも、巡視って?」

「うちは大所帯だからね、全員がダンジョン関連の依頼を受けるのは非効率的だから、幾つかのチームに分けて別々の活動をしているんだ。私が率いる【グリフォン】チームが、今はダンジョン都市関連の依頼担当。ラファエル率いる【ユニコーン】チームが、国内の町々を巡る巡視担当。そして、ウリエルというサブリーダーの一人が率いる【フェニックス】チームは休暇中、という具合だね!」

「な、なるほど。当番制なんですね」

「そうなんだ。ただ、メンバーはまだまだ増えているから、もう一チーム増やそうかと思っているところなんだよ。お誂え向きにサブリーダーへ昇格出来そうなメンバーもいることだしね!」



 どこか楽し気なミカエルの言葉に、高貴な百合の面々が首肯した。


 もしかしなくても、その流れでいくと次のサブリーダー候補は()()()()()だろうか。


 めちゃくちゃ気になる。

 いや、突っ込みどころが多すぎる。


 ただでさえ男装の麗人で宝〇感が否めないのに、チーム分けまで似通っているとか。

 しかも、ミカエルを含めたチームリーダー達の名前が全員()使()という事実。


 ミカエルだけなら、まあ、海外でよくある名前だなと気にも留めなかったが、四大天使中三名の名が使われているとなると突っ込まざるを得ない。宝〇で天使ってどういうことだ。芸名なのか? 要素を盛り込みすぎだと思う。


 まさかこれも賢者の影響なのだろうか。

 疑問が解消されるどころか、寧ろ謎が増えた。



「良ければイズミ嬢の話も聞かせてくれるかい?」

「あ、はい。もちろんです!」



 その後のレベリングは、色々気になりすぎてサッパリ集中できないイズミだった。

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