↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/33

閑話 続・疑惑と後悔

「もちろん、彼女が本当に犯罪者で捜索に協力する何らかのメリットがあった――もしくは、デメリットですらものともしない更なるレアスキルを有するがゆえの行動であった可能性もゼロではありませんが。可能性は限りなく低いでしょうね」

「だよねだよね! そんな子に見えなかったもん!」

「まあ、俺らは最初から疑ってなかったけどな?」



 と、コルネとイアンは再びはしゃぎ始める。

 そんな賑やかな北極星の面々を、通行人はすれ違いざまに一瞥していく。


 若手の冒険者達は憧れの眼差しで。

 街で働く若い女性達は熱っぽい瞳で。

 街へ仕入れに来た商人は期待に満ちた視線で。


 北極星が人気なのは、当然その実力によるところが大きい。若くして冒険者のトップに立つ彼らだ。まるで物語の英雄のごとき存在に、老若男女、大小の差はあれど憧れを抱かぬ者の方が少ないだろう。


 しかし、それは主な理由の一つであって、彼らが人を惹きつける理由はその気さくな人柄と、メンバー同士の仲が良好であることも大きな理由だ。アイドルなどではメンバー同士の仲が良すぎるくらいが好まれる傾向にあるが、それは冒険者にも通じることらしい。

 まさに今、和気あいあいとした雰囲気(約一名除く)で歩いて行く彼らを見て、人々は今日も平和を実感するのであった。知らぬは本人達ばかりである。



「じゃあ、本当に……彼女は善意で協力してくれただけの一般人、なのか?」



 ようやく納得がいったのか。

 暫し考え込んでいたネロが、どこか狼狽えたように視線を彷徨わせて呟いた。



「私はそう思いますけどねえ」

「俺もー」

「というかさ! 珍しいスキルをたくさん持ってるってことが知られたら、あの子の方こそ危ないヤツに狙われちゃうんじゃない!? 大丈夫かな!?」

「!」



 コルネの言葉に意表を突かれ、ネロはハッと顔を上げた。


 レアスキル持ちは稀有な存在だ。

 美しい容姿や高い身体能力を持つがゆえに狙われる、エルフや獣人といった種族を筆頭に、人身売買が横行する裏社会においてもレアスキル持ちの価値は能力次第で青天井だと言われている。たった一つのレアスキルを有するだけで、だ。


 一つ持つだけでも狙われるのだから、彼女のようにいくつものレアスキルを持つ存在が知られればどうなるか……その身に迫る危険は子供達の比ではないだろう。彼女が善良な一般市民だったとしても、その手の輩に囚われればそれこそスキルを悪用されてしまう。


 というのも、魔力を封じる【封魔石ふうませき】が存在するからだ。


 魔力はスキルを使用するために必要不可欠なもの。そんな魔力を封じられたら、仮にどれだけ貴重なスキルを持っていたとしても意味がない。封魔石製の枷で魔力を封じている間に隷属スキルを使用されれば、例えSランクのネロでさえ逃れる術はなく、あっという間に他人の奴隷と化してしまう。


 とはいえ封魔石は貴重で、採掘されたものは全て国が管理しており、一般には流通していない。それはどこの国でも同様だ。

 が、何ごとにも例外はつきもの。

 現にラウラ達の監禁場所からも封魔石製の足枷が見つかっていた。


 始めから疑うばかりで、コルネが口にしなければ恐らく気づけなかっただろうその可能性に、ネロの胸は途端に嫌な早鐘を打ち始める。黒の短髪をくしゃりと掻いて、端麗な顔を歪ませる。



「……そうか、そうだよな。一般人だとしたら、危険を犯してまで協力してくれた可能性も……」

「まあ、そこは問題ないでしょう。当分の間は騎士団やギルドからつく監視が護衛も兼ねるでしょうしね。寧ろ何らかの意図により自分に注目を集めることが目的で、既に我々は彼女の術中にはまっている可能性も……」

「うがー! お前はどっちなんだよ!」

「ははは、冗談ですって~」



 一転、意味深なことを言い始めたヴェルへの苛立ちから、イアンはヘッドロックをかけようと迫る。が、盾役としてメンバーで一番体格の良いイアンに抱き着かれて喜ぶような趣味を、ヴェルは持ち合わせていない。

 爽やかな笑みを零しながらサラリとかわし、コルネの背後に隠れたヴェル(身長的に隠れられていないが)は、イアンを警戒しつつも「大体ですよ?」と前置きした上で、



「頭にスライムを乗せた犯罪者なんて見たことあります?」



 と、どこか呆れたような面持ちで告げた。



「……は?」

「スライム? 何の話だよ?」



 ネロとイアンは何のことかサッパリなようで、虚を突かれたように目を丸めている。

 一方、コルネは心当たりがあるようで納得したようにコクコクと頷いた。



「ああ! あの子、すご〜く透明なスライムをつれてたよね! 結構可愛かった!」

「流石コルネ、よく気付きましたね。お父さんは鼻が高いですよ」

「えへへ!」



 当然! とばかりに胸を張り答えるコルネ。その茶色の柔らかな髪を、ヴェルは優しく、愛おしそうに撫でる。その眼差しはれっきとした父親のそれで、甘えるように大きな掌へすり寄るコルネの姿もまた、子供のそれで。

 その様子は仲睦まじい家族そのものだった。


 しかし、慈愛に満ちた空気が流れたのも一瞬のこと。

 ヴェルは二人へ呆れたような視線を向けると溜息交じりに零した。



「それに比べて脳筋前衛コンビは……」

「スライムなんかいたか……?」

「いや、サッパリ分からなかったわ……」



 まるで言い返すことができず、揃ってスッ……と目を逸らした二人は、肩を寄せ合いヒソヒソと話す。しかし、大して隠す気もない会話は筒抜けで、ヴェルは肩を落とした。



「いたでしょう……。昨晩会った時は腕に抱えていましたが、今日は彼女の頭の上にのほほんと乗っかってましたよ。彼女が犯罪者だというのなら、今どきの悪人は随分のほほんとしているものです」

「頭にスライム乗っけた犯罪者……ぶふっ、」

「想像しただけで……気が抜けるな」



 ヴェルによって全く別の角度から否定された犯罪者説は、しかしどの仮説よりも妙な説得力があり、頑なだったネロもついに陥落した。正確に言えば、そんな呑気な見た目の犯罪者に騙されている(かもしれない)と思いたくないだけだが……。


 そんな二人にヴェルの説教は続く。



「国内トップのパーティー、その前衛が揃って魔物一匹に気付けないとは情けない……。極々微量の魔力しか持たず、天地がひっくり返っても貴方達の敵にはなり得ない魔物だったとは言え、油断は禁物ですよ。逆にあの存在感の薄さを利用されたら我々ですらアッサリ壊滅する可能性だってあり得るんですからね」

「ぐうの音も出ねえ」

「……悪い」



 二十代半ばであるネロやイアンと変わらない若々しい見目のヴェルだが、長命なエルフであるため実年齢はメンバーの誰よりも突出している。そのためメンバー一の知識量と思慮深さを併せ持つヴェルは、北極星の頭脳であり先生でもある。


 年長者のド正論なお小言に先ほどまでの勢いはどこへやら。

 目に見えて消沈した二人にヴェルは再三溜息を零し、一人説教を逃れたコルネは慈愛に満ちた表情で二人の肩を叩いて励ました。



「全く、明日からは魔力察知の訓練もしてもらいますからね!」

「うえ……ただでさえ仕事が行き詰まってんのに。今日のヴェル先生は機嫌悪ぃ」

「当たり前でしょう! 誰のせいだと思ってるんですか!」

「あ〜……僕達、あの子に嫌われちゃったもんね。ネロのせいで」

「ぐっ……」



 単純かつ残酷な事実として、コルネはサラリと告げる。

 例え彼女が犯罪者であっても、一般人であっても、今回の件でサブマスや北極星の恩人であることに変わりはない。というか、今しがた高確率で一般人であるとの結論が出たばかりであるため、恩人に、それも善良な一般市民に嫌われたという事実がネロの胸にグサグサと刺さる。


 つられてイアンとコルネも肩を落とした。

 ただし、全く別の理由で。



「ないわー、マジないわー。女の子にキャーキャー言われこそすれ、嫌われるとかほぼ初体験じゃね? 俺ら」

「ね~。女の子に嫌われるとか、僕、人生一ショック……」

「いや、もっと他にあっただろ……」

「正直、異性としてはどうでも良いのですが。ネロのせいで貴重なスキルを持つ彼女とお近づきになれなかったことは末代まで恨みますよ」

「長すぎる……」



 エルフから見た末代ってどれだけ先だ。

 長すぎて怖いとネロは思わず腕を擦る。



「私が希少品好きだと知っているでしょう! 私がエルフの里を出たのもひとえにこの世に存在するありとあらゆる貴重な品々をこの目に納めるためだと何時も言ってるじゃないですか!!」



 途端に子供のごとく地団太を踏み始めたヴェルへ、今度はイアンが呆れたような視線を向けた。



「ブレねえなあ」

「当たり前でしょう! 中でもレアスキルの存在は特に珍しいんですよ! 市場に出回るアイテムの類とは違って、大体の人がその存在を秘匿してしまいますからね! だから惜し気もなくスキルについて語ってくれる彼女とお近づきになって詳細を聞きたかったのに、ああ、なんて……なんて惜しいことをおおおおおおぉっ!!」

「やべえ、壊れた。コルネ頼む!」

「よ〜しよし! ヴェル落ち着こうね〜!」



 頭を抱えて膝から崩れ落ちたヴェルを、コルネが手慣れた様子で優しく抱き締め宥めにかかる。

 

 つい先ほど、彼女イズミはギルマスを見て “初めてエルフを見た”と言った。

 長い金髪を三つ編みにして纏め、エルフ特有の長い耳を惜し気もなく晒しているヴェルは、誰がどう見ても一目でエルフだと分かるというのに、である。


 つまり、昨晩も今日も、彼女はまるで北極星こちらを見ていなかったのだ。

 より正確に言えば、見たくなかった、の間違いか。


 自分に暴力を振るった男とその仲間など、視界に入れたくもないと思うのも当然だろう。それだけ彼女に嫌われてしまったのだから、スキルについて聞く機会など生まれるはずもない。

 貴重な機会をむざむざ逃したヴェルが発狂するのも無理からぬことだった。


 通行人の目を憚らずわちゃわちゃする面々を眺めながら、ネロは一人深い溜息を零す。



「……改めて謝らないとな」



 そんな呟きは、風――ではなく、一行の賑やかな声によって掻き消された。


ブクマ、感想、評価、いいね…本当にありがとうございます!

のんびりになりますが、頂いたご感想にも順にご返信を…!と思っております。(遅筆)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。