↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/33

13 結果

 イズミは冒険者達によって拘束された男を睨んだ。


 短い茶髪に緑の瞳を持つ男は、一見するとごく普通の優しそうな青年で、とてもではないが人身売買などという非道な行いをする人間には見えない。何が起きたか分からず目を白黒させる様子は何だか哀れで、本当はそんなことに加担していないのではと思ってしまうほどだ。


 しかし、目の前の青年は間違いなく犯罪者の一人である。

 無垢な子供達を食い物にしてきた害悪だ。同情の余地はない。

 酷く虚しい気持ちを振り切り青年の横を素通りすると、イズミは倉庫へ駆け込んだ。


 そうして口元に手を添え、声を張り上げる。



「わらび、お疲れさま! 帰っておいでー!」



 すると、どこからともなくポヨンポヨンと気の抜けそうな音を立ててワラビが現れ、イズミの胸へ飛び込んだ。見事キャッチしたワラビを、イズミはぎゅうぎゅうと抱き締める。



『シャチョー! どうだった? 上手くいった!?』

「うん、完璧! わらびの()()のお陰だよ、ありがとう!」

『ふふーん! どういたしまして!』



 再会するなりキャッキャウフフする一人と一匹。

 他の冒険者にはワラビの念話が聞こえないためイズミが一人で喋っているように見えるのだが、何となく仲の良さそうな雰囲気は伝わったらしい。殺伐としていたその場に、僅かばかりホッコリとした空気が生まれる。


 そんなイズミ達のところへやって来たのは、昼間とは打って変わり冒険者風の装備に身を包んだサブマスターだった。



「イズミ、こっちは終わったぞ!」

「全員捕らえられましたか?」

「おう、バッチリだ! 従魔は無事か?」

「はい、こちらも無事に合流できました!」



 ワラビを胸に抱き駆け寄ると、サブマスターはホッとしたように表情を緩めた。

 昼間の疲れ切った表情から一転、生き生きしたその表情にイズミも安堵する。



「お疲れさまでした、サブマスターさん」

「ああ……ありがとな。これも全っっっ部イズミのお陰だ! いや、見事な作戦だったぜ!」

「いえいえ、とっさに思いついただけで大したものでは……」



 イズミは苦笑しながら数時間前のことを思い出した。







 子供達の信用? を得たイズミは、さっそく脱出方法について話すことにした。



「あのね、みんなで一度に……といきたいところなんだけど、上にいる悪い人達に見つからず、確実にみんなを助け出すには、お姉さんのスキルの関係で二人ずつしか連れ出せないの」



 脱出に欠かせない迷彩スキルだが、効果範囲はイズミ自身とイズミに触れている者に限られる。全員がイズミに触れながら上手いこと移動できるのであれば、一度に脱出できないこともない……のだが、とてもではないが子供達にそんな芸当は無理だろう。


 ちょっとした拍子に手を離してしまったり、転んで離れてしまったりする可能性が高すぎる。

 であれば、イズミの方からしっかり触れておくしかない。両脇に抱えていけばそう簡単に離すこともないはずだ。


 パッと見たところ最年長の少年が七、八歳で、ラウラが六歳、その他の子が三~五歳くらいか。一番小さな三歳くらいの子供でも日本での平均体重が十四キロ前後であるため、それはこの世界でもそう変わらないだろう。

 普通に考えれば日本にいた頃はもちろん、今のイズミですら子供二人、約三十キロを抱えて移動することなど不可能だ。


 しかし、それもスキルの力をもってすれば容易い。

 少年とラウラが小さい子達へ脱出が順番であることを噛み砕いて説明してくれている間に、スキルを模索。イズミは新たに二つのスキルを造り出した。


 その一つである【浮遊リビテーション】は、効果範囲内のものを魔力が続く限り浮かび上がらせることのできるスキルだ。もちろん直接触れていても可能であるため、重さを感じることなく運搬が可能となる。


 本当は身体強化系(力を強める等)のスキルを作れればいざという時に役立つし手っ取り早かったのだが、そこはお約束。既存のため作れなかった。

 とはいえ、迷彩で姿を消しつつ浮遊で子供達を小脇に抱えて行けば、時間はかかっても全員を安全かつ確実に脱出させることができるだろう。これで具体的な脱出方法に関してはクリアできた。


 が、大きな問題が一つ。


 それは子供達の気持ちだ。


 待ちに待った助けが来たというのに、直ぐに脱出できない、順番だと言われ後に回される子からすれば不安や不満が出て当然だろう。大人であればどうにか理性で耐えられるとしても、こんな小さな子達ではそれも難しいはず。

 子供達の反応を窺いながら、イズミは言葉を続ける。



「だからね、もう少しだけ我慢してもらうことになっちゃって悪いんだけど……脱出は小さな子達から順番に、でいいかな?」

「僕は問題ありません。自分が先に脱出して小さい子があとだなんて、男としてそんな情けないことはできませんから」



 少年の言葉にホッとする。

 と同時に、この子は将来絶対にいい男になるな……と、再三感心してしまう。この歳でそんなことをサラリと言える子がどれだけいることか。こんな場面では、大人でさえ我儘を言う者がいてもおかしくはないというのに。


 一方、



「ラウラは……、ラウラは……」

「ラウラちゃん……」



 ラウラの表情は今にも泣き出しそうなほど歪んでいた。

 年齢を考えれば確実に順番が最後になるのだ、無理もない。外にはもう何日も離れ離れになっていたお父さんがいて、頼りになるであろう知り合い? のネロもいる。そんな状況では今すぐ連れ出してほしい、そう言いたいに決まっている。


 しかし、自分は年長さんだからと、その気持ちをぐっと堪えているのだろう。

 サラリと言える少年が大人すぎるだけで、これが普通の子の反応だと思う。


 イズミとしても非常にもどかしい。

 これ以上、一分一秒だって子供達に怖い思いをさせたくないのに、自分の浅慮でネロ達の協力を取りつけられず、力不足によってみんなをまとめて救出できないのだ。子供達の心には、刻一刻と見えない傷が刻まれていっているのに。


 やはり、ここは多少無理をしてでも一度に全員を脱出させるべきか……。

 そう悩み始めたところで。



「っ、小さい子からお外につれてってあげて! ラウラはギルドのサブマスターの子だもん、最後でだいじょーぶ!」

「! ラウラちゃん……」

「あとちょっとくらい待てるよ。ね、みんな!」



 ラウラの言葉に少年が同意し、小さな子達もコクリと頷く。

 小さな子達がきちんと理解しているとは思えないし、ラウラが無理をしているのも明らかだ。だが、せっかくラウラが勇気を振り絞ってくれたのだ。イズミもその気持ちに応えなければ。



「……ありがとう、みんな。必ずみんなを脱出させるからね」

「うん!」



 さあ、ここからが正念場だ。


 イズミは影収納からスライム達にもらった魔石を一つ取り出すと、牢の鍵を開けて中へ入り、子供達に先ほど同様隅で集まってもらう。その光景を前に、先ほど作り出したもう一つのスキル【幻影イリュージョン】を魔石へ付与した。


 【幻影】は指定の場所に一定時間、任意の幻影を作り出すことができるスキルだ。

 作り出せる幻影は見たことのある光景に限り、それは記憶にある光景でも再現は可能。が、鮮明であればあるほど精度の高い幻影を作り出せるため、目の前の光景をそのまま再現した方がよりクオリティーの高い幻影になる。


 しかも、魔力のたっぷり込められた魔石に付与してから使用することで、かなりの時間もつ。もちろん実態はないため()()()()()()一発で幻だとバレてしまうが、時間稼ぎにはなるだろう。

 ちなみに、魔石は大きいほど魔力の量も蓄えられるらしいので、念のため貰ったものの中で一番大きな魔石を選んだ。


 作り出した幻影を部屋の隅に設置する。


 室内の薄暗さも相俟ってかなりの出来栄えで、これなら直接触れられない限り幻だとバレない自信がある。子供達も見たことのないスキルに驚きつつ、すごーい、気持ち悪ーい! と太鼓判を押してくれた。

 褒められているのに褒められている気がしない評価だったが。


 次いで、子供達の足に嵌められた枷を外しにかかる。

 枷は見たところかなり頑丈な作りで、素手でどうにかするのは不可能だ。こちらも手っ取り早く新たにスキルを創造し、壊してしまおうかと考えていたのだが。



「……ちょっと不用心すぎるよね。まあ、私は楽でいいんだけど……」

「?」

「ううん、こっちの話」



 こんなにあるんだからもしかして……と思い、手持ちの鍵の一つで開錠を試したところ、アッサリと枷を外すことができた。

 地下への鍵に牢の鍵、足枷の鍵とそれぞれをあちこちに分けて管理するのは面倒だ。一纏めにしたい気持ちも分かる。が、こうもアッサリ色んな鍵が外せると拍子抜けも甚だしい。まあ、それだけ慢心していたと言える。


 全員の枷を外し、それをどこに隠そうかと考えていたところ、少年が室内にある衝立の向こうがトイレだと言うためそこへ放り込む。柵側から見ても衝立の向こうは見えないし、丁度良かった。


 あとは子供達を順番に外へ連れ出すだけだ。

 幸いにも、倉庫で見張りに残ってもらったワラビからの連絡はない。ワラビには男達が来た時には念話をと伝えてあるため、つまり上では特に変化はないのだろう。男達は順調に酒で酔っているに違いなかった。


 この機を逃す手はない。

 ラウラが教えてくれた年少二人を呼び寄せ、語りかける。


 お姉ちゃんがいいよと言うまで目を瞑って心の中で羊を数えていてくれる? と話せば、どうしてひつじさんなの? と揃って首を傾げられた。言葉が通じるため、つい、日本の常識が通じる気になってしまうが、ここは異世界なのだ。通じるはずもない。

 答えに窮したイズミは、モフモフで可愛いものを想像していると気持ちが落ち着くからだよと適当にごまかしておいた。意外とすんなり納得された。


 そうして、いざ脱出だ。

 浮遊スキルで年少二人を小脇に抱え、「それじゃあ行ってくるね」と残る子供達に声をかけると、暗視を使用。階段を駆け上がり、倉庫へ出る。



「……わらび、異常は?」

『ありません!』



 昨日の今日でさっそく重要な仕事を任せられたことが嬉しいらしい。木箱の影に身を隠しながら小声でワラビに状況を確認すると、凛々しい念話が届いた。

 無色透明ゆえに平常時でも視認しづらく、任意の人間に念話を送れるワラビは見張り役に打ってつけだ。ワラビにはこのまま見張りを続けてもらうことにして、そそくさと室内を移動すると僅かに扉を開け、廊下を確認する。


 誰もいない。


 念のため暗視から透視に切り替えリビングを見ると、どうやら三名中一名は寝落ちしたらしく、テーブルに突っ伏していた。残る二名は意識こそあるもののかなり酔いが回っているようで、赤ら顔で楽し気に話している。


 当然、いまだに侵入者に気づいた様子はない。

 加えて他のメンバーが帰って来る気配もない。


 チャンスを確信したイズミは、透視から迷彩に切り替え、静かに部屋を出る。侵入直後に確認しておいた間取りを頼りに、リビングから真逆に位置するランドリールームへやって来ると、勝手口から外へ。


 十数分振りに踏み締めた石畳は、酷く懐かしい気がした。


 逸る気持ちを抑えきれずいよいよ駆け出せば、外へ出られた安堵から震え出す足を叱咤し、サブマスター達の元へ向かう。一、二軒分の距離を駆け抜け、少し先の曲がり角からクランハウスの様子を窺っていた二人の後ろへ回り込むと、迷彩を解除して溜息交じりに告げた。



「まず、二人です……!」

「「――なっ!?」」



 振り返った二人の目は驚愕に満ちていた。


 今まさに二人の視界の中を駆けて来たというのに、二対の瞳はイズミを捉えられなかったらしい。迷彩は想像以上の効果のようで、これなら仮に犯人達と鉢合わせしてもやり過ごせるかもしれないとホッとする。


 そんな二人へ小脇に抱えた子供達を受け渡すと、二人は成すがままで。子供を受け取り、唖然としたように子供とイズミを交互に見て、驚愕で開いたままの口を魚のようにパクパクさせる。その(主にネロの)様子に多少溜飲の下がったイズミは、トドメとばかりに浮遊を解除。


 瞬間、子供達の重みが戻り、「うっ!」と腰を曲げたのはサブマスターだけだったが、吊り上がっていた金色の瞳がことさら丸まったのを見て、イズミは密かに「ふふーん」と胸を張った。ワラビの癖が移ったかもしれない。


 しかし、こんな余裕をかましている場合ではないのだ。


 子供達の頭を撫で「もう目を開けていいよ」と告げれば、二人は恐る恐る目を開ける。そうして自分達が外にいること、イズミの手から見知らぬ男性の腕の中へ移動していたことに気づき一瞬慌てるも、二人揃ってネロに視線を留めると見惚れたように動きを止めた。

 気持ちは分かる。ネロはやつれている今でさえ、めちゃくちゃイケメンなのだ。平常時はもっと凄いのだろう。見たいような、見たくないような。


 まあ、子供達が落ち着いたのならそれでいい。

 イズミはいまだに呆ける大人二人へ向けて、



「あと二往復してきます! 最後になって申し訳ないですけど、ラウラちゃんも必ず助け出しますから!」



 そう宣言し踵を返すと、再び迷彩を使用し、翠の天明のクランハウスへ向かって駆け出した。






「待たせてごめんね! それじゃあ帰ろう!」

「うんっ!」

「はい!」


 年中さんの二人も無事に救出しサブマスター達に受け渡すと、イズミは最後の二人を迎えに地下室へ戻って来た。

 部屋の隅で幻影がちゃんと作動していることを確認し牢から二人を連れ出すと、元通り外から鍵をかけて地下を後にする。


 子供達を救出するだけなら、あとは地下への扉にも鍵をかけてこっそり脱出するだけ……なのだが、それでは腹の虫が治まらない。

 生きるために仕方なく食料を盗んだり、スリをしたりという悪事なら分かる。どんな世界にだって必ず、抗いようのない貧富の差は存在するものだ。悲しいが、悪事に手を染めなければ生きていけない者もいる。


 しかし、ここの者達は違う。

 冒険者として不自由のない暮らしをしているにも関わらず、子供を攫って売り飛ばし、私腹を肥やすヤツらに込み入った事情があるとは思えない。仮に同情に値する何かがあったとしても、非力な子供を狙うなど許されることではない。


 必ず相応の報いを受けさせる。

 そのためにイズミは仕込みを行う。



『お部屋のスミでこっそりカンシして、シャチョーのスキルがバレちゃったら伝えればいいんだね?』

「うん、そう。ただ、そうじゃなくてもわらびが危なくなったら教えてね。飛んで来るから!」

『わかったー、任せてっ!!』

「き、気をつけてね!」



 フンスフンス! と鼻息? 荒く地下室へ下りて行くワラビを見送って、扉に鍵をかける。

 あまりの気合いの入りっぷりに、頼んだのは間違いだったかもしれない……と密かに後悔するイズミ。Sランク? らしいネロでさえワラビの存在に気づかなかったため、監視役にと頼んでみたものの、あの気合いが空回りしないか心配だ。


 まあ、仮に見つかったとしても必ず助けるけど。


 そうして鍵の束をしっかり元の位置に戻し、同じ手順でクランハウスを抜け出してサブマスター達の元へ戻る。最後の最後になってしまったが、ラウラをサブマスター達に引き合わせたことで、半信半疑、もとい夢心地だった二人も完全にイズミを信用してくれたらしい。


 大きな嗚咽を漏らし始めたサブマスターの口を慌てて塞ぐこと、暫し。


 落ち着いたサブマスターにどうにかイズミの作戦を伝え協力を取りつけると、イズミは迷彩を使用して外からクランハウスの監視を務めることにして、サブマスターとネロの手配で子供達を安全かつ迅速に冒険者ギルドへ移送してもらう。


 内密に信用できる冒険者達を集めてもらい、翠の天明のクランハウス周辺に潜ませ、酔いつぶれた頃合い、もしくはワラビの合図を待って突入することとなり――現在に至る。


 ちなみに、換金するアイテムの中にレアアイテムが混ざっていたと報酬を多く支払い、豪遊するように仕向けたのはサブマスターだ。長年の付き合いがあり、翠の天明の行動パターンを把握していたからこそできた芸当である。

 翠の天明が思惑通り豪勢な食事を楽しんでくれたお陰で戦闘は回避でき、無駄な被害を出すこともなく全員を捕らえることができたらしい。大捕り物としてはこの上ない結果だろう。



「よおし、イズミ、戻ってヤツらを絞り上げるぞ! どんな手を使ってでも洗い浚い吐かせてやるぜ!!」

「わ、私、尋問には参加しませんからね……?」



 ラウラを無事に取り戻せた安堵と限界を超えた疲労から、テンションが振り切れてしまったらしい。フフフ、ハハハハ、アーッハッハッハッ!! と高らかな笑い声を上げながら歩き出したサブマスターにちょっぴり引きつつ、後を追ってイズミも歩き出した時だ。



「待ってください!」



 玄関へ向かおうとしたところで声がかかり、足を止める。

 サブマスターに用事かなと声の主を見れば、そこにいたのは四名の男性。うち一人は、昼間よりずいぶんと意気消沈した様子のネロだった。

評価ポイント、ありがとうございます!

こんなに早く頂けるとは思いもしなかったので…嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。