【第二十五話】甲殻の死角と、最強の矛
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「『ファイアーボール』っ!」
あんさんの先制魔法が、突進してくる巨大サソリの顔面に直撃する。
ドゴォッ!と派手な爆音が響いたが、煙の中から現れたサソリには傷一つついていなかった。
「嘘っ!? 私の魔法が全然効いてない!」
「やっぱりあの甲殻、魔法耐性も物理耐性も桁違いみたいね!」
私は正面から組み合うのを避け、サソリの側面へと回り込むようにステップを踏んだ。
サソリが私を追って、巨大な右のハサミを横薙ぎに振るってくる。
ガァンッ!!
「くっ……重っ!」
剣で受け流すのがやっとだ。サイクロプスの力任せな一撃とは違う、装甲車に撥ねられたような暴力的な質量。
痺れる手を握り直し、私はサソリの関節部分を狙って剣を突き出したが、キンッ!という甲高い音と共にいとも簡単に弾かれてしまった。
「しおんさん、硬すぎてダメージが通らないよ!」
「大丈夫! どんなに装甲が分厚くても、生き物である以上『目』と『腹』は柔らかいはずよ!」
サソリの目は、硬い甲殻の隙間にちょこんと乗っている。そして、地面に接している腹部には装甲がないはずだ。
「あんさん! 私がアイツの気を引いて体勢を崩す! お腹が見えたら、そこに最大火力をぶち込んで!」
「分かった!」
私は床を蹴り、あえてサソリの正面――もっとも危険なハサミと毒針の間合いへと自ら飛び込んだ。
『シャゴァァッ!』
獲物が自ら死地に入ってきたことに歓喜したのか、サソリが両方のハサミを振り上げ、背中の毒針を私めがけて突き下ろしてくる。
「もらった……『フラッシュ』っ!!」
私は迫り来る凶刃を躱すことなく、サソリの複数の目のど真ん中へ向けて、ありったけの魔力を込めた強烈な閃光を炸裂させた。
ピカァァァァァァッ!!
『ギジィィィィィッ!?』
暗い空洞の中で不意に太陽を押し付けられたサソリは、堪らず動きを止め、本能的に両方の巨大なハサミで顔を覆い隠すように縮こまった。
視界を奪われた防御姿勢。それこそが、私が作り出したかった『決定的な隙』だ。
「あんさん、今っ!!」
「いっけえええええええっ!!」
私の合図と共に、限界まで魔力を練り上げていたあんさんが動いた。
彼女が放ったのは、炎ではなく、純粋な魔力の質量のみを圧縮した特大の『衝撃波』だ。
ドゴォォォォォンッ!!
顔を隠して丸まっていたサソリの側面に、大砲のような衝撃波がモロに直撃する。
強固な甲殻のおかげで致命傷にはならないが、その凄まじい横からの衝撃に、車ほどの巨体がゴロンッ!と無様に横転した。
「いけるっ!」
仰向けにひっくり返り、無数の足をバタつかせているサソリ。その腹部は、予想通り柔らかそうな白い肉が剥き出しになっていた。
私は跳躍し、サソリの胸のあたり――心臓があるであろう場所へ向けて、重力と全身のバネを乗せた剣を真っ直ぐに突き下ろした。
「これで、終わりっ!!」
ズブゥッ!!
私の刃が、サソリの柔らかい腹部を深々と貫き、硬い背中の甲殻の裏側まで到達する。
『ギ……ヂ……ッ……』
サソリの巨体がビクンと跳ね、そのまま力を失って石の床に沈黙した。
「や、やったぁぁっ!!」
「ふう……。完璧なコンビネーションだったね!」
私たちは息を切らしながらハイタッチを交わした。
横たわる巨大サソリからは、バスケットボールほどの大きさがある特大の魔石が転がり出た。
そして、私たちが丁寧に切り離した『巨大な両ハサミ』と『紫の毒針』、さらには防具の素材になりそうな『分厚い背中の甲殻』。
「よしっ、素材回収コンプリート!」
「しおんさん、壁の魔鉱石も掘り放題だよ!」
このダンジョンの主を倒した私たちを止めるものは、もう何もない。
出張費タダでやってきた新潟の地で、私たちはかつてないほどの巨万の富(素材と魔鉱石)を手にし、満面の笑みで歓喜の声を上げるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近流行りの「現代ダンジョンもの」ですが、すでにギルドやルールが整備された数年後の世界が多いなと思い、あえて「誰も何も分からない初日(黎明期)」を書いてみました。
ファンタジー知識ゼロの大人たちが右往左往する中、アニメ好きの女子たちがテンプレ知識だけでうっかり無双してしまう……そんな手探り感とすれ違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。




