【第二十三話】高速の飛来者と、閃光の狩人
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それでは、本編をお楽しみください!
「ムカデの次は、一体なにが出るかな?」
「そろそろ、可愛い動物型とか出ないかな。うさぎとか」
「あんさん、可愛いウサギが出たら容赦なく燃やせるの?」
「……それはちょっと、躊躇しちゃうかも」
薄暗い通路を歩きながら、私たちは冗談めかして笑い合った。
しばらく進むと、新潟ダンジョン特有の狭い一本道が途切れ、少しだけ天井が高く開けた縦長の空間へと出た。
「わ、ちょっと広いところに出たね」
「うん。でも、なんか……変な音がしない?」
バサバサッ、バサバサッ……。
上空から、布を激しく打ち付けるような羽音が聞こえてくる。
私たちが警戒してヘッドライトの明かりを上へ向けると、ドーム状になった天井の暗がりを飛び回る「それ」の姿が浮かび上がった。
「うわっ、大きな蛾!?」
現れたのは、両翼を広げると2メートル近くになる巨大な蛾型のクリーチャーだった。
毒々しい紫と黒の斑模様の羽を持ち、私たちの明かりに反応したのか、けたたましい羽音を立てて空間を飛び回り始めた。
『ビィィィィッ!』
「来るよ、しおんさん!」
蛾が急降下し、弾丸のようなスピードでこちらへ突進してくる。
「速っ……!」
私は咄嗟に剣を構えて弾き返そうとしたが、蛾は私の剣の間合いに入る直前でトリッキーに軌道を変え、私の頭上をかすめて背後へと飛び去った。
その際、バサッ!と羽から薄紫色の粉――明らかにヤバそうな『鱗粉』がパラパラと降り注いできた。
「あんさん、鱗粉を吸わないように息を止めて!」
「んぐっ!」
私たちは慌てて口元を覆い、鱗粉の範囲から飛び退く。
「しおんさん、あいつ速すぎるよ! これじゃ私の魔法の狙いが定まらない!」
あんさんが焦った声を上げた。
彼女の『ファイアーボール』は威力が高い分、放つまでにコンマ数秒のタメが必要だ。あの蛾のように縦横無尽に、しかも高速で飛び回る的を正確に撃ち落とすのは至難の業だった。
闇雲に撃って外せば、貴重なMPを無駄にしてしまう。
「それに、あんさん! あいつのあの『羽』、絶対に魔法使いのローブとかの高級素材になるわよ! 丸焦げにはできない!」
「ええっ!? この状況で部位破壊も狙うの!?」
「当たり前でしょ! 出張費タダの分は稼ぐの!」
私は口元を覆っていた手を離し、剣を強く握り直した。
「あんさんは魔法を構えたまま待機! 私がアイツの動きを止める!」
レベル2に上がり、飛躍的に向上した私の敏捷性(Agr)と動体視力なら、あのスピードにも食らいつけるはずだ。
私は床を強く蹴り、自ら蛾の軌道上へと飛び出した。
『ビィィィッ!』
獲物が自ら隙を見せたと思ったのか、蛾が再び急降下して突進してくる。
(速い……! でも、動きは単純!)
私は迫り来る蛾の突進を、ギリギリまで引きつけた。
剣で斬り落とすのは難しい。ならば、私のもう一つの武器(手札)の出番だ。
蛾は暗闇を好むが、光に集まる習性もある。そして、至近距離での強烈な『光』には、人間以上に過敏に反応するはずだ。
「目を開けてられるかしら……『フラッシュ』っ!!」
私は蛾の顔面が迫ったその瞬間、左手を突き出して閃光魔法を炸裂させた。
ピカァァァァァッ!!
『ギジィィィィッ!?』
狙いは完璧に当たった。
巨大な蛾は至近距離で強烈な光を浴び、完全に方向感覚と平衡感覚を失った。バタバタと羽を乱し、コントロールを失ったまま壁へと激突する。
「今だよ、あんさん!」
「はあっ!!」
私が叫ぶのと同時に、待機していたあんさんが動いた。
彼女が放ったのは『ファイアーボール』ではない。魔法を応用し、熱量を持たないただの『衝撃波(魔力の塊)』を蛾の胴体めがけて撃ち出したのだ。
ドゴォッ!
壁に激突してもがいていた蛾の胴体に衝撃がクリーンヒットし、蛾はバタッと床に墜落して完全に動きを止めた。
「よしっ! これでトドメっ!」
地に落ちた蛾の首元へ、私は容赦なく剣を突き立てた。
緑色の体液が少し飛び散り、巨大な蛾は完全に沈黙する。
「はあ……はあ……。やったね、あんさん!」
「しおんさん、すごい! あのスピードに追いついて目眩まし当てるなんて!」
あんさんが駆け寄ってきて、私たちは見事な状態のまま残った蛾の死体を見下ろした。
「魔法で焼かなかったから、羽は一枚も傷ついてないね。この鱗粉も、袋に入れて持ち帰れば毒の素材になりそう」
「うんっ! しおんさんの目眩ましと、私の衝撃波の合わせ技、大成功だったね!」
魔法で焼き払うだけが後衛の仕事ではないと、あんさんも瞬時に判断してくれたおかげだ。
私たちは無傷の『極彩色の羽』と魔石、そして小袋に集めた鱗粉をしっかりと回収した。
高速の敵すらも、機動力と搦め手で無力化する。
どんなクリーチャーが現れても、今の私たちなら知恵と連携で乗り越えて、すべての素材を根こそぎ持ち帰れる。
「新潟ダンジョン、本当に最高だね。次のお宝はなんだろう!」
「ふふっ、なんだってどんとこい、だよ!」
麻袋をずっしりと重くした私たちは、次なる素材(お宝)を求めて、意気揚々と迷宮の奥へ歩を進めるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近流行りの「現代ダンジョンもの」ですが、すでにギルドやルールが整備された数年後の世界が多いなと思い、あえて「誰も何も分からない初日(黎明期)」を書いてみました。
ファンタジー知識ゼロの大人たちが右往左往する中、アニメ好きの女子たちがテンプレ知識だけでうっかり無双してしまう……そんな手探り感とすれ違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。




