【第二十二話】百足の強襲と、魔法剣士への第一歩
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それでは、本編をお楽しみください!
「『ファイアーボール』……極小!」
ぽんっ、という軽い音と共に、私の指先にマッチの火のような小さな炎が灯った。
薄暗い新潟ダンジョンの通路で、私は歩きながら魔法の練習を続けていた。
「すごいね、しおんさん! 火の大きさも自由にコントロールできるようになってる!」
「うん。レベルアップしたとはいえ、私の最大MPはまだ『15』しかないからね。あんさんの特大ファイアーボールみたいにドカンとは撃てないけど、これくらい小さくすれば何回でも牽制に使えると思うの」
私は指先の小さな炎を、前方の何もない空間に向かってフッと息で吹き飛ばした。
パァンッ!と弾ける小さな閃光。
ダメージは皆無に近いが、敵の視界を奪ったり、気を逸らしたりするには十分すぎる効果がある。
「剣で戦いながら、要所で魔法を撃ち込む……しおんさん、すっかり『魔法剣士』だね!」
「ふふん、トリッキーな前衛と呼んでちょうだい」
お互いのレベルアップを経て、私たちの連携はさらに洗練されようとしていた。
そんな魔法の特訓をしながら進んでいると、ふと、通路の空気が少し変わったことに気がついた。
「……ねえ、あんさん。なんだか急に、カビ臭いというか、湿っぽくなってない?」
「うん。それに、さっきから変な音が聞こえる気がする……」
カサカサという蟻の足音でも、カマキリの硬質な音でもない。
ズルズル、ザザザザッ……という、壁や天井を這い回るような、やけに長くて不快な摩擦音だ。
「……来るよ、上!」
私が剣を抜いて身構えた直後、天井の暗がりからズルリと「それ」が姿を現した。
「ひぃっ!? む、ムカデ!?」
あんさんが悲鳴を上げて後ずさる。
現れたのは、優に2メートルを超える巨大なムカデ型クリーチャーだった。
黒光りする硬そうな甲殻に、無数の蠢く足。そして頭部には、ボタボタと紫色の体液(おそらく猛毒だ)を滴らせる凶悪な大顎を備えている。
「うわぁ、虫のオンパレード! でも……あの甲殻と毒腺、絶対に高く売れるわよ!」
「し、しおんさん、そんなこと言ってる場合!? あいつ、壁を這ってすごいスピードで来るよ!」
あんさんの言う通り、巨大ムカデは狭い通路の壁や天井を円を描くように這い回り、予測不能な軌道でこちらへ突進してきた。
「任せて! 今の私なら、対応できる!」
私は床を蹴り、壁を這い降りてくるムカデに向かって自ら距離を詰めた。
『シャアァァッ!』
ムカデが上段から凶悪な毒牙を振り下ろしてくる。
以前の私なら、剣で受け流すか避けることしかできなかった。だが、今の私には『手札』がある。
「ただの剣士だと思うなっ!」
私は剣を構えたまま、空いた左手をムカデの顔面に突き出した。
練り上げるのは、ダメージ度外視の『光』と『音』のみ。
「『フラッシュ』!!」
ピカァァァッ!!
ムカデの複眼の至近距離で、強烈な閃光と破裂音が炸裂した。
『ギチィッ!?』
視覚と聴覚を同時に潰されたムカデが、堪らず頭を振り乱して壁からズルリと滑り落ちる。
完全に体勢を崩したその一瞬の隙を、私は決して逃さない。
「まずはその毒牙、素材として回収させてもらう!」
私はレベル2の敏捷性を全開にして踏み込み、ムカデの顔面すれすれで剣を一閃した。
スパンッ!という小気味よい音と共に、ムカデの凶悪な大顎が二つとも綺麗に斬り飛ばされる。
「あんさん、足止め完了! お腹が丸見えだよ!」
「ナイス、しおんさんっ! いくよっ……!!」
後方で待機していたあんさんが、レベル2になって倍増したMPを惜しみなく注ぎ込んだ『ファイアーボール』を放つ。
以前よりもさらに速度と熱量を増した炎の玉が、私の横を弾丸のようにすり抜け、ひっくり返って悶えるムカデの柔らかい腹部へと真っ直ぐに吸い込まれた。
ドゴォォォォォォンッ!!
「……ふう。完璧な連携!」
「やったぁ! 私たち、また強くなっちゃったね!」
爆炎が収まった後には、こんがりと焼けた巨大ムカデの死体と、綺麗に切断された二つの『毒牙(大顎)』が残されていた。
私たちはハイタッチを交わし、いそいそと戦利品の回収に取り掛かる。
ムカデの甲殻も剥ぎ取れそうな部分は残さず袋に詰め込んだ。
「しおんさんの魔法、すごく効果的だったね! あんな風にフェイントみたいに使われたら、モンスターも絶対避けられないよ」
「でしょ? 魔法って、威力がすべてじゃないんだよね。あんさんの特大魔法を当てるための『布石』としては、今の戦い方が一番合ってると思う」
剣による近接戦闘と、魔法による牽制。
自身の弱点である『MPの少なさ』を逆手に取り、私は前衛の魔法使いとして、着実に自分だけの戦闘スタイルを確立し始めていた。
「よしっ! ムカデの素材も高そうだし、今日も大漁の予感だね!」
「うんっ! もっと奥に行けば、まだ見たことないクリーチャーがいるかも!」
私たちは重くなった麻袋を背負い直し、恐れるどころか未知のお宝への期待に胸を膨らませながら、さらにダンジョンの深部へと足を踏み入れていくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近流行りの「現代ダンジョンもの」ですが、すでにギルドやルールが整備された数年後の世界が多いなと思い、あえて「誰も何も分からない初日(黎明期)」を書いてみました。
ファンタジー知識ゼロの大人たちが右往左往する中、アニメ好きの女子たちがテンプレ知識だけでうっかり無双してしまう……そんな手探り感とすれ違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。




