【第二十話】レベルアップの恩恵と、魔法使いの背中 「ハァッ!」
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それでは、本編をお楽しみください!
狭い通路に剣の風切り音が響く。
鋭い踏み込みと共に放たれた私の一撃が、カマキリ型クリーチャーの首を正確に刎ね飛ばした。ドサリ、と緑色の甲殻が床に崩れ落ちる。
「ふう……これでこの通路のクリーチャーはおしまいかな」
「お疲れ様、しおんさん! 今日もカマキリの双鎌、綺麗にゲットだね!」
あんさんが駆け寄ってきて、慣れた手つきで魔石と素材の鎌を袋へと回収していく。
私も剣を鞘に収めようとした、その瞬間だった。
『――規定の経験値に達しました。覚醒者【しおん】のレベルが上昇します』
不意に、あの無機質なシステム音声が脳内に響き渡った。
「えっ?」
私が驚いて声を上げると同時に、虚空に半透明のステータスウィンドウがフワリと浮かび上がる。
初日に見たきり、あまり気にしていなかったその画面には、明確な変化が起きていた。
[ステータス]
Rank:B
Lv:2
Str:152(+21)
Def:101(+12)
Agr:178(+21)
Int:260(+6)
ギフト→
「レベルが……上がってる」
呟いた直後、体の内側からじんわりと温かい力が湧き上がってくるのを感じた。
まるで全身の細胞が新しく生まれ変わったかのような、不思議な全能感。試しにその場で軽くジャンプしてみると、今までよりもずっと高く、そして羽のように軽く体が浮き上がった。
「うわっ、すごい……! 体がすっごく軽い!」
腰に下げた剣も、さっきまでとは比べ物にならないほど軽く感じる。Str(筋力)とAgr(敏捷)の数値が跳ね上がった恩恵が、はっきりと肉体に反映されていたのだ。
「ええっ、しおんさんレベルアップしたの!? いいなぁ!」
私がぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいると、あんさんが羨ましそうに目を輝かせた。
「あんさんはどう? 魔法いっぱい使ってるし、そろそろ上がってもおかしくないんじゃない?」
「えーと、ちょっと待ってね。ステータス画面、オープン!」
あんさんが空中で指をスライドさせるような仕草をする。私たちには見えないが、彼女の目の前にもウィンドウが出ているはずだ。
「うーん……惜しいっ! 経験値(Exp)が『89/100』だって。レベルアップまで、あともう少し足りないみたい」
「おおー、ほんとにあと少しだね! じゃあ、あんさんの魔法レベルを上げるために、今日はもう少し奥まで狩りに行こっか!」
「うんっ! 私もレベルアップして、もっとすごい『ファイアーボール』撃ちたい!」
すっかりモチベーションが上がった私たちは、足取りも軽くさらにダンジョンの奥へと進んでいった。
しばらく歩くと、カサカサという不快な足音と共に、蟻型クリーチャーの群れが通路の先から押し寄せてきた。ざっと10匹はいる。
「あんさん、ここは私が前を塞ぐから、後ろからどんどん魔法撃っちゃって!」
「了解! 経験値、いただきますっ!」
私は軽くなった体で前線へと飛び出した。
レベル2に上がった恩恵は凄まじかった。先頭の蟻が突き出してくる硬い牙が、まるでスローモーションのようにゆっくりと見える。
「遅いっ!」
私は最小限の動きで牙を躱し、すれ違いざまに剣を一閃。硬い甲殻ごと、蟻の胴体をバターのように両断した。
これまでの重い手応えが嘘のように、剣がスッと通り抜けていく。
(すごい……! これがレベルアップの力……!)
私が前衛で完全に蟻の群れを足止めしている隙に、後方で魔力を練り上げていたあんさんが叫んだ。
「いくよ、しおんさん! しゃがんで!」
「オッケー!」
私がサッと身を屈めた頭上を、熱線のように圧縮された『ファイアーボール』が一直線に駆け抜けていく。
ドゴォォォォッ!!
狭い通路で炸裂した炎が、後続の蟻たちを一網打尽に焼き払った。
「ふう、やったね! ……あ、あれ?」
戦闘を終えたあんさんが、首を傾げて空中のウィンドウを見つめた。
「どうしたの? レベル、上がった?」
「うーん……経験値『98/100』だって。蟻の群れだけだと、あんまり経験値もらえないみたい」
あんさんが少しだけ唇を尖らせて悔しがる。
どうやら、弱いクリーチャーをたくさん倒すよりも、サイクロプスやカマキリのような強い個体を倒した方が、経験値の入りが大きいようだ。
「そっかぁ。でも、あとたったの『2』だよ! 次になにか一匹でも倒せば、絶対にレベルアップできるよ!」
「そうだね! よし、次に出てきた獲物は私の魔法で仕留めるから、しおんさんはサポートお願い!」
「まかせて! 最強の前衛がバッチリ足止めしてあげる!」
レベルが上がり、目に見えて強くなった私の姿は、あんさんにとって最高の起爆剤になったらしい。
「早く次のモンスター出ないかなぁ」とウズウズしながら歩く魔法使いの背中を、私は頼もしく、そして少しおかしな気持ちで見守りながら、ダンジョンの深部へと歩を進めるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近流行りの「現代ダンジョンもの」ですが、すでにギルドやルールが整備された数年後の世界が多いなと思い、あえて「誰も何も分からない初日(黎明期)」を書いてみました。
ファンタジー知識ゼロの大人たちが右往左往する中、アニメ好きの女子たちがテンプレ知識だけでうっかり無双してしまう……そんな手探り感とすれ違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。




