【第十二話】ざわめく組合と、いつも通りの日常
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それでは、本編をお楽しみください!
カランカラン、と乾いたベルの音を鳴らして組合の扉を押し開ける。
その瞬間だった。
つい数秒前まで活気に満ちていたロビーの喧騒が、まるで誰かが強制終了のボタンを押したかのようにピタリと止んだ。
「お、おい……来たぞ」
「あの二人だ……サイクロプスをたった二人で倒したっていう……」
「名古屋のダンジョンじゃ、間違いなくトップの実力者だろ……」
あちこちから漏れ聞こえるヒソヒソ声。ざわ、ざわ、と波が引くように、受付カウンターまでの道がモーゼの十戒さながらにパッカーンと開いていく。
周囲から向けられるのは、羨望、畏怖、そして好奇の入り交じった強烈な視線だ。
「……ねえ、あんさん。なんか私たち、すっごく歩きにくいんだけど」
「うん……なんだか、見世物になっちゃった気分だね」
サイクロプス討伐から数日。私たちがあの巨大な魔石を持ち帰って以来、組合に来るたびにこの現象が起きるようになってしまった。
どうやらあの日の出来事は尾ひれに背びれまでついて広まったらしく、今や私たちは「名古屋ダンジョン最強の二人組」として完全に顔が売れてしまっている。
あのトップランナーを自称していたアイン氏のパーティー『剣舞』すら、すっかり話題の端に追いやられてしまったらしい。
(目立ちたくなかったのに、どうしてこうなった……)
居心地の悪さに背中を丸めながら、逃げるようにカウンターへと歩み寄る。
「お、お待ちしておりました、しおん様! あん様!」
「様はやめてください……。今日もいつも通り、探索前の手続きをお願いします」
「はっ! ただちに! お二人とも、本日の探索もどうかお怪我のないように……!」
以前は親しげに話しかけてくれていた組合員さんまで、まるでVIPか王族でも相手にするような最敬礼だ。
私たちはそそくさと手続きを済ませ、逃げるようにダンジョンの入り口へと飛び込んだ。
「はぁ〜……息が詰まるかと思った」
薄暗いダンジョンの通路に入った途端、私は大きく息を吐き出して伸びをした。
「ふふっ、お疲れ様。でも、組合の人たちも悪気があるわけじゃないからね。規格外なことしちゃったのは私たちだし」
「それはそうなんだけどさぁ。私たちはただ、二人で楽しく探索したいだけなのに」
そう、周りがどれだけ騒ごうと、私たちのスタンスは何も変わらない。
今日もレンタル料を浮かせるためのマイ剣を腰に下げて、お弁当を持って、二人で楽しくダンジョンを攻略する。それだけだ。
「さ、気を取り直して! 今日の目標はスライムの『綺麗な死体』のお持ち帰りだよ!」
「おーっ! 今度こそ、焼かずに回収しようね!」
私たちは顔を見合わせて笑い、気負うことなくダンジョンの奥へと足を進めた。
しばらく歩くと、前方から聞き慣れた奇声と、天井を這う粘着質な音が聞こえてきた。
ゴブリン4体と、天井に張り付くスライム2体。前回私たちを苦しめた、あの厄介な混成部隊だ。
『キシャァァッ!』
こちらに気づいたゴブリンが剣を振り上げて突っ込んでくる。
「あんさん、お願い!」
「まかせて! ……『ファイアーボール』っ!」
短い掛け声と共に、あんさんの掌から特大の炎が放たれる。だが、それはゴブリンには直撃せず、あえて彼らの足元の床で炸裂した。
ドゴォッ!という爆音と熱風に、ゴブリンたちの足が止まり、陣形が崩れる。
「隙ありっ!」
私は爆風を盾にするように飛び出し、壁の石柱を蹴り上がった。
頭上では、スライムたちがちょうど酸の弾を吐き出そうと体を波打たせているところだ。
だが、もう遅い。
「ハァッ!」
重力に逆らって跳躍した私の剣が、一匹目のスライムを両断する。
そのまま天井を蹴って軌道を変え、二匹目のスライムが酸を吐き出すよりも早く、鋭い突きをゼリー状の核へと見舞った。
ボトボトッ、と音を立てて、スライムだったものが床に落ちる。
着地と同時に振り返れば、あんさんが小さなファイアーボールで的確にゴブリンを牽制し、足を止めていた。
「ナイス牽制! あとはもらった!」
流れるような動きでゴブリンたちの懐に潜り込み、数合の剣戟の末にすべてのゴブリンを斬り伏せる。
戦闘開始から、わずか数十秒の出来事だった。
「ふう……お疲れ様!」
「しおんさんもお疲れ様! 今の連携、すっごくスムーズだったね!」
私たちはハイタッチを交わし、足元に転がっている戦利品を見下ろした。
そこには、焼け焦げていない、プルプルと透明な形を保ったスライムの死体が2つ残されている。
「やった! ついに綺麗な死体ゲットだね!」
「うんっ! これでやっと、組合からの依頼達成だよ!」
用意していた袋にスライムを詰め込みながら、私は自然と笑顔になっていた。
組合に行けば、またあの居心地の悪い「ざわざわ」が待っているだろう。
名古屋で一番の実力者なんて大層な肩書きで呼ばれて、特別扱いされるのは、やっぱり慣れないし少し痒い。
だけど、私たちがやっていることは何も変わらない。
強敵を前に怯え、話し合い、失敗から学び、二人だけの戦術を磨いていく。
「……ねえあんさん。帰ったら、また組合の人びっくりしちゃうかな?」
「ふふっ、きっと目が飛び出ちゃうかもね。『あの二人、ついにスライムを無傷で狩り始めたぞ!』って」
クスクスと笑い合いながら、私たちは次なる獲物を求めて未知の通路へと歩き出す。
周囲の騒ぎなんて関係ない。最強の実力者と呼ばれるようになった今でも、二人のダンジョン攻略は「いつも通り」のペースで続いていくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近流行りの「現代ダンジョンもの」ですが、すでにギルドやルールが整備された数年後の世界が多いなと思い、あえて「誰も何も分からない初日(黎明期)」を書いてみました。
ファンタジー知識ゼロの大人たちが右往左往する中、アニメ好きの女子たちがテンプレ知識だけでうっかり無双してしまう……そんな手探り感とすれ違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。




