【第十一話】帰還、そして戦慄の報告
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それでは、本編をお楽しみください!
ダンジョンから地上へ戻り、組合の扉を押し開けた途端、私たちは少し異様な空気に包まれた。
昨日までは活気と興奮に満ちていたロビーが、今日はどこかピリピリと張り詰めている。
あちこちで冒険者たちが深刻そうな顔でヒソヒソと話し合っており、ダンジョンへ潜るのを躊躇っている者も多いようだった。
(なんか、嫌な空気だね)
(うん。なんだろうね)
あんさんと顔を見合わせながら、私たちはいつもの換金カウンターへと向かった。
「お疲れ様です。本日の戦果の報告と、換金をお願いします」
「あ、しおんさんとあんさん! ご無事で何よりです!」
対応してくれた組合員さんは、私たちの顔を見るなり心底ホッとしたような息を吐いた。
「あの、昨日依頼されていたスライムの死体回収の件なんですけど……」
私は申し訳なさそうに頭を下げる。
「スライム自体は3匹倒せたんですが、混成部隊との戦闘になっちゃって……焦って魔法で焼き払ってしまったんです。だから、今回は死体は持ち帰れませんでした。ごめんなさい」
「ああ、なるほど。いえいえ、謝らないでください! スライムとゴブリンの混成なんて最悪の組み合わせです。お二人が無傷で帰還されただけでも、素晴らしい成果ですよ」
組合員さんは優しくフォローしてくれた。
私たちはホッと胸を撫で下ろし、まずはゴブリンの魔石5つと、スライムの魔石3つをカウンターに並べる。
「とりあえず、ゴブリンとスライムの魔石の買い取りをお願いします。……あ、あと、これも」
私は背負っていた麻袋の紐を解き、「よいしょ」と重いそれをカウンターの上に置いた。
ゴトリ。
鈍い音と共に転がり出たのは、鈍く輝くメロンほどの大きさがある巨大な魔石だ。
「えっ……あの、これは……?」
組合員さんが目を丸くして固まる。
「帰り道で、例のサイクロプスと鉢合わせしちゃって。逃げ切れそうになかったから、覚悟を決めて二人で倒してきたんです。これも買い取ってもらえますよね?」
「……はい?」
組合員さんの口から、間の抜けた声が漏れた。
同時に、周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちの会話が、ピタリと止まった。
水を打ったような静寂がロビーに降りる。
「……さ、サイクロプスを、倒した?」
震える声で呟いたのは、ロビーの隅で手当てを受けていた見覚えのある人物――サイクロプスから命からがら逃げ帰ってきた、キラさんだった。
「あ、キラさん! 怪我、大丈夫でしたか?」
「お、俺は平気だけど……いや、待て! お前ら、たった二人であれを倒したのか!? あんなの、浅い階層に出ちゃいけないバケモノだぞ!?」
キラさんの叫びで、組合内の空気が一変した。
「おい、マジかよ……さっきキラのパーティーが半死半生で逃げ帰ってきたって報告があった、あのサイクロプスか?」
「あの『剣舞』のアインだって、サイクロプス相手なら最低でも6人のフルパーティーで挑むレベルだぞ……」
「それを、たった二人の女の子が……しかも、無傷で……?」
ロビーにいる覚醒者たちの視線が、私たちに一斉に突き刺さる。
昨日のような「凄腕のルーキーへの称賛」や「野次馬的な好奇心」ではない。
それは明確な『畏怖』だった。
常識外れの魔法力。サイクロプスの巨体を切り裂く剣技。
アインの勧誘を蹴ったのは、強がりでも身の程知らずでもない。彼女たちが、日本一のパーティーすら凌駕する『規格外のバケモノ』だったからだ――。
そんな声なき戦慄が、周囲の冒険者たちの顔にありありと浮かんでいる。
(う、うわぁ……なんか、すっごく引かれてる?)
(しおんさん、私たち、また目立っちゃったね……)
予想以上のドン引き具合に、私とあんさんは顔を引き攣らせた。
無理もない。倒した本人たちですら、あの新しい連携が上手くハマらなければどうなっていたか分からないのだから。
「あ、あの! 査定、お願いできますか!?」
「ひゃ、はいっ! た、ただちに計算いたしますっ!!」
私の声でハッと我に返った組合員さんが、慌てて魔石を奥へと運んでいく。
査定の間も、遠巻きに向けられる畏怖の視線は痛いほどだった。
結局、サイクロプスの巨大魔石には目玉が飛び出るようなとんでもない買取額がつき、私たちは大量の札束を受け取ることになった。
「あ、ありがとうございましたー!」
「お疲れ様でしたー!」
居心地の悪さに耐えきれなくなった私たちは、逃げるように組合を後にした。
外の空気を吸って、ようやく緊張の糸が解ける。
「はぁ〜……疲れたぁ。サイクロプスと戦うより、組合にいる方が精神すり減ったかも」
「ふふっ、ほんとだね。でも、無事に帰ってこれて本当によかった」
大きく背伸びをする私を見て、あんさんがクスクスと笑う。
ポケットの中には、信じられない額の臨時収入。
スライムの死体回収という課題は残ったけれど、私たちの初めての『強敵討伐』は、こうして誰もが戦慄するような大戦果と共に幕を閉じたのだった。
「……ねえあんさん、今日はお寿司にしよっか。回らないやつ!」
「賛成! 特上頼んじゃおう!」
二人で笑い合いながら、夕焼けに染まる街へと歩き出す。
私たちのダンジョン探索は、まだ始まったばかりだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近流行りの「現代ダンジョンもの」ですが、すでにギルドやルールが整備された数年後の世界が多いなと思い、あえて「誰も何も分からない初日(黎明期)」を書いてみました。
ファンタジー知識ゼロの大人たちが右往左往する中、アニメ好きの女子たちがテンプレ知識だけでうっかり無双してしまう……そんな手探り感とすれ違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。




