【第十話】最悪の遭遇と、コンビネーションの極致
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
それでは、本編をお楽しみください!
「スライムの死体回収は、次回の課題だね」
「うん。次は絶対に綺麗なまま持ち帰ってやるんだから」
私たちは冗談めかして笑い合いながら、帰還の途についていた。
役割を柔軟に切り替えるという新しい戦術も見つかり、足取りは軽い。……はずだった。
ズシンッ。……ズシンッ。
地響きのような重い足音が、前方から近づいてくる。
嫌な予感がして足を止めた私たちの目の前に、薄暗い通路の奥からのっそりと巨大な影が姿を現した。
「……嘘でしょ」
「よりによって、帰り道でエンカウントなんて……!」
見上げるほど巨大な体躯に、ぎょろりとした一つ目。
先ほど私たちが全速力で逃げ出したバケモノ――サイクロプスが、通路を塞ぐように立ち塞がっていた。
引き返して逃げるか?
いや、後ろの通路にはまだ他のクリーチャーが残っているかもしれないし、巨体とはいえサイクロプスのストロークは大きい。背中を見せて逃げ切れる保証はなかった。
「……あんさん」
私は剣の柄を強く握り直し、隣に立つ相棒を見た。
「逃げる?」
「ううん」
あんさんもまた、震える手を握りしめながら、しっかりと前を見据えていた。
「さっき、戦い方は一つじゃないって学んだばっかりだもん。……今の私たちなら、やれる気がする」
その言葉に、私はニヤリと笑う。
「同感。それじゃあ、私たちの新しい連携……さっそく試してみようか!」
『グオォォォォッ!!』
サイクロプスが鼓膜を破るような咆哮を上げ、丸太のような太い腕を振り上げた。
私は床を蹴り、巨体に向かって一直線に駆け出す。
「ハァッ!」
振り下ろされた巨大な拳が、私のすぐ横の石畳を粉砕する。
凄まじい衝撃と風圧に体勢を崩しそうになるが、そこは前衛としての私の身のこなしだ。砕けた石の破片を足場にして跳躍し、サイクロプスの太い腕を駆け上がるようにして一気に顔の高さまで距離を詰める。
『グルルッ!?』
サイクロプスが鬱陶しそうにもう片方の腕を振り払おうとする。まともに食らえば、全身の骨が砕け散るだろう。
だが、私は慌てず空いた左手を、サイクロプスの巨大な一つ目に向かって真っ直ぐに突き出した。
「ダメージだけが魔法じゃないわ……目眩まし(フラッシュ)っ!」
直後、私の掌から放たれた小さな『ファイアーボール』が、サイクロプスの眼球の目と鼻の先で炸裂した。
『ギャアアアッ!?』
少ないMPでの魔法では致命傷にはならない。しかし、至近距離で閃光と熱を浴びせられたサイクロプスは、巨大な一つ目を両手で押さえようと完全に防御の姿勢をとった。
牽制としては、これ以上ない100点満点。
「隙ありっ!」
目眩ましで生じたその決定的な隙を見逃さず、私は空中で身を捻りながら剣を振り抜いた。
刃が分厚い皮膚を切り裂き、サイクロプスの顔面に深い一撃を刻み込む。
『ゴガアアアアッ!!』
「あんさん、今っ!!」
痛みに悶え、無防備に仰け反ったサイクロプスに向けて、私は叫んだ。
「いっけえええええええっ!!」
あんさんの両手から、これまでにないほど巨大に練り上げられた特大の『ファイアーボール』が放たれる。
それは一直線に宙を駆け抜け、仰け反っていたサイクロプスの胴体にモロに直撃した。
ドゴォォォォォォォンッ!!
爆炎が視界を白く染め上げ、凄まじい衝撃波がダンジョンの通路を吹き抜ける。
その圧倒的な質量を持った魔法の直撃により、さしもの巨体も完全に体勢を崩し、ドスンッ!と地響きを立てて無様に膝をついた。
(いける……!)
爆風を突き抜け、私は地を蹴った。
膝をつき、完全に無防備となったサイクロプスの太い首元へ向けて、渾身の力を込めて跳躍する。
「これで……終わりっ!!」
私の全体重と遠心力を乗せた剣が、サイクロプスの太い頸動脈を深く、一気に斬り裂いた。
『ガ……、ァ……』
ブシュッと大量の血飛沫が舞い、サイクロプスはついにその巨体を崩す。
ズドォォォォンッ……!!
まるで巨木が倒れるような轟音と共に、サイクロプスは石の床に倒れ伏し、二度と動かなくなった。
「……や、やった……?」
あんさんが恐る恐る尋ねる。
煙が晴れた後には、血だまりの中に横たわる巨大なサイクロプスの死体が残されていた。
私たちは顔を見合わせる。
「……やったぁぁぁっ!!」
「すごいっ、すごいよしおんさん! あの連携、完璧だった!」
あんさんが駆け寄ってきて、私たちは手を取ってピョンピョンと跳ね回った。
巨大な死体からメロンほどの大きさがある魔石をなんとか抉り出し、私たちは今度こそ満面の笑みで、ダンジョンの出口へと向かうのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近流行りの「現代ダンジョンもの」ですが、すでにギルドやルールが整備された数年後の世界が多いなと思い、あえて「誰も何も分からない初日(黎明期)」を書いてみました。
ファンタジー知識ゼロの大人たちが右往左往する中、アニメ好きの女子たちがテンプレ知識だけでうっかり無双してしまう……そんな手探り感とすれ違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。




