第五話 海の向こう
国が弱れば、隣国は優しくなる。
ただし、その優しさには値札がついている。
狐里はオウの国を訪れた。
巨大な宮殿だった。
狐里の国の使節など、端の席にしか座らせてもらえない。
それでも狐里は笑った。
国内へ向けては、大国との強固な友好関係を築いたと発表した。
実際には違った。
要求された。
港を開け。
土地を貸せ。
商いの決まりを変えろ。
オウは地図を眺めながら鼻で笑った。
「ふん、やつらがどれほどたかろうとも、私の国家には手を出せない。」
狐里は笑顔で頷いた。
帰国すると、それを外交上の大成果と発表した。
だが、人々は以前ほど信じなかった。
数字を見る者が現れた。
消えた公金を調べる者が現れた。
高祖と政治家の関係を記した古い文書が発見された。
審理院の判決を調べる者もいた。
一つだった点が、線になり始めた。
高祖。
狐里。
天津社。
糸貫。
ムクル。
オウ。
そして審理院。
国のあちこちに伸びていた根が、地上から見え始めた。
狐里は別の大国へ使者を送った。
キタノクニ。
オウと対立する国なら、自分を利用する価値があるはずだ。
返事は短かった。
「弱り切ったやつの相手をしている暇などない。」
狐里は書状を破りすてた。
そのころ、ソウノクニから人々がやってきた。
兵ではない。
学者。
商人。
法律家。
記録を扱う者たちだった。
彼らは古い文書を持っていた。
かつて高祖を追放したときの記録。
金の流れ。
組織の作り方。
役人への浸透方法。
狐里の国で起きていることと、あまりにも似ていた。
人々は写しを作った。
一枚が十枚になった。
十枚が百枚になった。
役人が取り締まるころには、市でも寺でも農村でも読まれていた。
文字が読めないものも誰かに読んでもらった。
夜になると、壁に紙が貼られた。
翌朝、役人が剥がす。
次の日には二枚になった。
さらに剥がす。
四枚になった。
「誰がやっとるんや!」
狐里は怒鳴った。
誰も答えなかった。
なぜならもう、誰か一人のやったことではなかったからだ。




