第四話 狐と糸
狐里が首相になった日、都には花が撒かれた。
高祖の教団と関係する商人たちが金を出した。
立て文には狐里の肖像が載った。
孤児から国の頂へ。
奇跡の出世。
新時代の女宰相。
狐里はそれを何度も読んだ。
「見たか」
国渡は黙っていた。
「誰もあたしを見下されへん」
返事はない。
狐里はそれでよかった。
国渡は便利だった。
余計なことを言わない。
同じころ、自治区では糸貫が演説していた。
こちらも華々しかった。
外国の学院に学び、各国の事情に通じた知識人。
そう紹介されていた。
宴の席で狐里の名が出ると、糸貫は杯を置いた。
「わたしは少なくとも語学はできる。
門前で待ち伏せしていただけの狐ごときの使い走りとは違うのだ。」
取り巻きたちが笑った。
だが、外では別の声があった。
「まあ外国で学院にいたって言っても、ただの見学者なんだけどね。」
「キバク(進物)がよほどほしいらしい。」
天津社。
巨大な組織だった。
橋を造る。
道を造る。
役所を造る。
そして糸貫の区から、次々に仕事を請け負った。
仕事が増えるほど、公金が消えた。
誰かが調べようとすると、その者が消えた。
あるいは突然、罪人になった。
狐里はそれを笑って見ていた。
「あいつも同じやん」
国渡が狐里を見た。
「なんや」
何も言わない。
「あたしとは違うで。あたしにはおかあさんがおる」
その夜、高祖から呼び出しがあった。
狐里は機嫌よく向かった。
だが高祖は笑っていなかった。
「いったいなにをしている!」
狐里の肩が震えた。
「各地で違反分子が台頭しているではないか」
「でも――」
「せっかく組織をとりわけてやったのに、この無能が!」
狐里は頭を下げた。
唇を噛む。
(そんなこと頼んだ覚えはないわ おかげでこんな体になったんや)
口には出さない。
まだ出せない。
狐里は床を見ながら思った。
いつか。
いつか、この女より上へ行く。
そのとき初めて、本当にてっぺんになる。




