圧力
宇宙戦艦【グレイテスト・トランク】中枢
ワンブリッジはいつの間にか立っていた。
「素晴らしい!素晴らしい!素晴らしいッ!」
興奮。感嘆。歓喜。
口元が自然と歪み、醜悪ではあるが純粋な笑顔を覗かせる。
「やはり、進化は素晴らしい!人類はまだまだ進化の途中なのだよ!」
ストレンジネスはあっけにとられたというような表情をした。
「オイオイ、ワンブリッジ!
てめぇの理屈じゃあこの世界の力じゃエーテルフィールドは破壊できないんじゃねぇのかよ!?」
「そうともさ。この世界にエーテルは存在しない。
故に変換機構を持たないこの世界の人間はエーテルフィールドに干渉することすらできないはずなのさ」
久保田ジュウシマツが壁から一歩出て言う。
「プラズマ枢機卿曰く―炭とダイヤは紙一重」
「そうさ、そうともさ!
バルムド・アークヴェイン、君はこの世界のダイヤモンドの原石と成りえたのだよ!」
ワンブリッジは腰から44マグナムを手に取り、指でくるくると回し、踊るようにガンアクションをとった。
「だが!」
ワンブリッジの目が輝く。
形容ではなく、目から光を放ったのだ。
「原石のまま大事に大事に保管は違うヨネ♪」
44マグナムのシリンダーを開け、流れるように弾を装填する。
「磨かねば、ダイヤモンドは生まれない」
リロードを終えたシリンダーをくるくると回す。
「削らねば、ブリリアントカットは輝かない」
44マグナムを両手で構える。
「壊れるか、それとも輝くか―その瀬戸際でこそ、進化は生まれるんじゃあないか」
パァァン!
44マグナムから銃弾が放たれた。
「さあ、やろう。
敬意をもって殺しに行こう、バルムド・アークヴェインを!」
ワンブリッジがニヤリと笑い、語り掛けるように言い放つ。
「さあ、終わらせようか、マイフレンッ!」
***
まるで、ワンブリッジの声が聞こえたかのようなタイミングで、戦場の第一線にいるガイツはニヤリと笑った。
「イエス、マイフレンドッ!」
そう叫ぶとともに、その場で地面を強く拳で打ち抜いた。
その瞬間、世界が抜けた。
***
アークヴェイン邸。
冒険者ギルド。
そして、フェルドラン監獄。
3点を結ぶ三角形の中心に、バルムド・アークヴェイン。
終わりを告げる巨大な光の文様が、都市全体を包み込む。
ワンブリッジは言った。これは保険であると。
3つの錨のどれかひとつがエラーを起こしたときのため、ワンブリッジはあらかじめ保険を用意していたのだ。
どこからともなくワンブリッジの声があたりに響く。
「正義とは絶対ではない。片方の正義はもう片方の暴力だ。
しかし、正義の心にはすべて等しく黄金の意思が宿る
――もうお分かりだろう。
フェルドラン監獄には“正義”を背負った“黄金の意思”が囚われているじゃあないか」
光の文様は輝きを増す。
「自分たちの国を守るために立ち上がった悲しき亜人王【レオナルト=ザイ=ビーストフォール】がね!」
***
フリーダム・スクエア。光が収束し、空へと柱を作る。
――落ちてくる。
宇宙戦艦【グレイテスト・トランク】から引き抜かれた無数の巨影。
空が一息で削ぎ落とされ、魔神群が立つ。祈りと悲鳴を上げるものはもう誰もいなかった。
街全体を媒体とした巨大虚数空間カタパルトによって、ワンブリッジは単機ではなく軍勢での移動を可能としたのだ。
バルムド・アークヴェインは目の前に起きている光景を目にして、ただただ立ち尽くしていた。
否、立ち尽くすしかなかったと言ってもいい。
なぜなら―そこに広がるは魔神の軍勢。数十、数百の魔神がそこに突如として現れたのだから。
黄金の機械兵―自立行動型マシンギア部隊。その名は―『百戦百勝野郎衆』
バルムドは剣を握り直しながら、歯噛みした。そして、喉を振り絞る。
「おい、ガイツよ。一人で戦うんじゃなかったのかよ。王ってのは肩書だけかッ!?」
百戦百勝野郎衆の規律正しい足踏みの音にかき消されそうなほどの声。
だが、その皮肉は確かに広場に響いた。
それに応えるように、ガイツの声だけが響き渡る。
いつの間にかその巨体は見えなくなっていた。
しかし、どこからともなく。まるで空間そのものが喋ったかのように。
「安心しろッ、俺は王だ!こいつらは ただの“にぎやかし” だ。」
バルムドは息を呑んだ。野郎衆が二手に分かれ、左右に列を作る。
圧倒的な兵列。正確無比、規律の化身のような歩調。
バルムドを挟む形で、行列は広場の奥へと続く。
バルムドは―もう動けなかった。
彼の筋力が尽きたわけではない。足が砕けたわけでもない。
“にぎやかし”があまりに圧倒的で、そのスケールに、世界が屈服していたからだ。
野郎衆が一斉に――正拳突き。刻むは4分の4拍子!
『タッ!タッ!タッ!タッ!』
風を切る音が耳を貫く。大地が脈動し、鼓膜が痺れる。
その衝撃は、王の凱旋を告げる太鼓にも似ていた。
そして、その視界の先に
―― 王 が 降 臨 し た 。
宇宙時代に数多くの勢力を畏怖させた金色の機体。
宇宙空間における敵拠点・敵巨大戦力への一撃必殺。
そのコンセプトの下に作られた究極のマシンギア。
正式名称――【NZM・MG―00・豪級帝羅我威都】
その巨大さ。その禍々しさ。その“王としての存在感”。
野郎衆の数十機が巨大な黄金の玉座を担ぎ、その上に、マシンギア形態のガイツが座す。
足を組み、腕をひじ掛けに頬杖をつく。まるで天上より降りた“破壊神”。
バルムドの視界が震えた。ガイツは玉座に座ったまま、笑った。
「玉座に座るのが王ではない。王が座った場所、即ちそれ玉座なりッ!!!」
完全勝利宣言―反論の余地もない完全勝利の終戦宣言!一切入り込む隙のない圧倒的な勝利!
バルムドの体は、もはや動かない。しかし、膝は折れなかった。立ち続けた。
意志だけは折れずに、逃げない。隠れない。背を向けない。
その姿を見て―ガイツは言い放つ!
「天晴だ!お前は間違いなく世界の果てを広げたぜ!」
ガイツは容赦なく最強兵器の安全装置を解除した。
たった一人の人間に対して、過剰なまでの一撃をお見舞いする。
「ターゲット・バルムド・アークヴェインッ!」
魔神が光に包まれる中、ガイツはニヤリと笑い、確かにバルムドを見た。
「豪級帝羅暴流斗ッ、発射ッ!」
黄金の奔流が、大地を引き裂きながら走る。虚空そのものが悲鳴をあげ、空が裂け、世界がめくれ上がる。
光と共に消えゆく意識の中、最後のバルムドの表情に絶望はなかった。そして、それは諦めでもなかった。
【最適未来指標】
『持ち帰れ、次の勝ちのために【推奨】』
バルムドは“推奨”を選んだ。
“黄金の意思”は確かに引き継がれていくのだ。正義の意思の元へと。
【次回更新】
第2章最終話 第38話「継承」
10月4日 8:10(日本時間)公開予定です。




