終奏
『ズンズンッ!チャッ!ズンズンッ!チャッ!』
『ズンズンッ!チャッ!ズンズンッ!チャッ!』
鳴り響く8ビートの狂音の前に3人は茫然と立ち尽くすしかなかった。
「すげぇな、すげぇ威圧感だぜ…今度は間違いなくガチってわけだ…」
ゴルドの顔に恐怖が張り付いた。
ドラゴン相手にだって折れなかった男ですら恐怖を感じる音が鳴り響く。
「バルムドさん…あの男が来ます……!」
ミレーネが震える指を伸ばす。
「ああ、わかるぜ。今度の奴は――別物だな」
バルムドの視界の端に光が走る。
【最適未来指標】
『選択肢A:全力で撤退→生存率64%【推奨】』
『選択肢B:覚醒ストレンジネスと交戦→生存率3%』
(ついに3%か、でも0じゃねぇ。――ここで退けるかよ)
バルムドは剣を抜く。ゴルドが拳を鳴らし、ミレーネが光を掲げる。
心臓が熱い。鼓動が高鳴る。三人の胸にも、同じ音が宿りつつあった。
『ズンズンッ!チャッ!ズンズンッ!チャッ!』
「ミレーネ、ゴルド……絶対に帰るぞ」
バルムドは静かに言った。
「どんな怪物が来ようが……俺たちは必ず帰る。
そしてこの国の連中にも…“帰る場所”を残す!」
ミレーネは涙をこらえて頷く。
ゴルドは恐怖を抑え、獣のような笑みを見せて頷いた。
ストレンジネスが両拳を構え、薄く笑う。
「楽器がなけりゃ、詠めばいいッ!
――最も原始的で、最も芸術的なロック―それが“唄”だッ!」
ストレンジネスはギターを弾くそぶりをした。いわゆるエアギター。
だがその瞬間、対峙した3人は確かに見た。見てしまった。
存在しないはずのストレンジネスの黄金のギターを!
そして、奏でるは8ビート。
弾き語るは、己の魂。唄がはじまる。
【寂滅精舎の鐘の音―諸行無常の響きあり】
【宇宙金属の花の色―一富士二鷹三茄子の理を表す】
【おごれる人も久しからず―ただただ8ビートのリズムの如し】
その唄が大地に染み渡ると同時に、大地が光に包まれた。
「オイオイオイ、なんだってんだ、こりゃあ!?」
「なんだこれは? ミレーネ、わかるか!?」
「魔法陣……ではありません!わかりません!こんなもの知らない!」
淡金色の巨大な魔紋が、バルムド、ゴルド、ミレーネの足元に展開される。
そして、魔法陣に囲まれた3人が頂点となり、黄金の3角形が形成される。
バルムド・アークヴェイン。
ゴルド・バーンフィスト。
ミレーネ・ルーメン。
そして、高藤ストレンジネス。
3人の冒険者と1人の狂人、彼らが共鳴したとき
――世界が抜けた。
***
グレイテスト・トランク
――通称“神罰の遺跡”の中枢で、ガイツとワンブリッジは、愉快そうにメトロノームを眺めている。
「―帰巣本能だぁ!?」
「そうさ、マイフレンッ。あらゆる生命体が持つ、元ある場所へ帰りたいという本能さ!」
「ハッ、ホームシックってわけだ!」
ガイツはうまいこと言ってやったみたいな顔をする。
ワンブリッジはそれを気にする様子も見せずに話を続ける。
「原始的生物にも内在するが、高度な生命体になるとそれは本能に“心”が宿る。
それは、生物レベル、時代や場面によってさまざまな派生を見せるだろう。
原始生物には“巣”。冒険者には“祖国”。騎士には“王への忠誠”。聖人には“民への愛”。
これらが極まったとき、帰巣本能は“黄金の意思”へと昇華するって話さ!」
「ハッ、前置きが長いぜ、ワンブリッジ!つまりどういう話だよ!?」
ガイツは全く理解はしていないが、最も信頼する男の話を聞くのが面白くてたまらないという表情をした。
「聖王国での聖遺物もまた、古の聖人たちが自らのルーツを愛し、後の世代へと受け継ごうとした黄金の意思なのさ。
――マイフレンッ、もうわかっただろう?」
「ハッ、なるほどな!つまり、そういうことだな!」
繰り返すが、ガイツは全く理解はしていないが、最も信頼する男の話が面白くて仕方がないという顔をした。
「帰巣本能はそれが高貴であれば黄金に輝く。そしてそれは突き詰めれば“帰る”という意思。
それは引力となり――そう、マナを引き寄せる錨となるわけさ。
あの3人は素晴らしい。まさに黄金に値する。
残りはきっかけ。聖王国での黄金鐘のように、錨を震わせる起爆剤。
あの男、帰巣など思いもしない生粋の風来坊ストレンジネスの心。
それが震えたとき
――“虚数空間カタパルト”の条件は整うのさ」
胸に届いた4拍子の信号を感じ取り、ワンブリッジは静かに微笑んだ。
ワンブリッジは虚空に語りかける。
「フフッ、まさか、君との絆があの銀河の無頼漢
――ストレンジネスの心を揺らす起爆剤になるとはね。感謝するよ、徳山サーズデイ」
ニヤリと笑うワンブリッジの横で、ガイツはすべてを悟ったような顔をして微笑んだ。
「南無三! 諸行無常だぜ!」
ガイツの咆哮が艦内に響き渡った。
***
空が落ちてくる。
空間が震える。世界が啼く。眩いばかりの黄金の光。
その光と共に突如現れた巨大な影が起き上がる。
それは袈裟を着た鋼鉄の虚無僧!
背中には無数の巨大音源装置―20.1ch!
そして、手元には巨大なエレキギター!
これこそが、高藤ストレンジネスのマシンギア
――『喧嘩上等!生臭坊主』だ!
「そうだ!俺だ!俺が来た!俺こそが最大音源!
マシンギア・イグニッション!
鳴らせ!『喧嘩上等!生臭坊主』!」
ミレーネが叫んだ。
「あ、あれは……!」
ゴルドの顔から生気が消える。
「ヤバすぎんだろ…」
バルムドは震える手で剣を握りしめた。
「…これが…魔神か…!」
三人を尻目に、ストレンジネスは光に包まれ、コックピットへと吸い込まれていく。
上からワンブリッジの声が響いた。
「やあ、高藤ストレンジネス。遅れてすまない。調子はどうだい?」
ストレンジネスは笑った。
「ああ?見りゃわかんだろうが、ワンブリッジッ!」
そして、叫ぶ。
「こちとら―― 絶 好 調 よ ッ !!!」
魔神降り立つ。
――終わりを告げる4分の4拍子が、南部全体を揺らした。
【次の話】
第26話「バルムド・アークヴェイン」
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